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オリガミ  作者: 雷川 雷蔵
巡りまわりて春夏秋冬
2/4

春夏秋冬

ウタガミの続編。ウタガミの世界から一年経った異世界での話。

 注意:この物語は、アタシたち超能力者(イグジスト)の奇想天外・予測不能な騒がしい日常を描いた、極めて平凡でいてスリルに満ち溢れた突拍子もない物語です。




 夕方、午後5時半を過ぎたところ、とある繁華街の道端に、14、5歳と思われる身長の少年がいた。歳相応の学ラン姿が夕焼けの空に良く似合い、儚げで特徴的な白髪が風に揺れる。どこかイライラしたように歯ぎしりをたてていて虚空を意味も無く睨みつけていた。


「おい、あの男はどこに消えたんだ?」

「ふーちゃん、言葉悪いよ〜。ひーちゃんも分かんないんだもーん。」


 その少年の誰に発したかも定かではない独り言に一人の女の子が困った様子でこたえる。身長はかなり低く、幼児と推測される。栗色の長い髪をツインテールにしている。少年とは親しい仲なのか、あだ名で呼ぶその「あーちゃん」がそれほどの年少者ということに少しばかり驚く。なにしろこいつらは兄弟らしいのだ。年齢差がかなりある。少年はその「ひーちゃん」が気に入らないのか鋭い三角目をさらに細くして睨む。


「ハッハッハ、心配することはないとも。また絡まれたとしても私が追い払うから、心配無用だとも!」


 今度は低い声、成人した男である。この位置からは逆光でシルエット気味にはなるものの、青みがかった短髪を後ろにまとめあげたオールバックの髪型。その大きな影からはかなりよい体格の持ち主であることが見て取れる。豪快に笑って少年を諭すように笑いかけてなごませようとしているのか、明らかに逆効果である。そのガタイのよい男へ一瞥しただけで何も言わず、挨拶替わりとばかりに舌打ちを打つ。


「おいおい、そうカリカリすることもないだろうに。私だってなーちゃんと呼ばれているが別に気にならないぞ。」

「……君なんぞに聞いたボクが愚かだったよ。あと君はどうみてもなーちゃんって柄じゃないな。椿(つばき)、さっさと偵察部に搜索させてくれ。」

「冬木に言われるとなんかムカつく……一応だけど、鹿児島さんに捜させてるよ。また絡まれるのやだし。」


 そして、4人目の人物、椿と呼ばれたやつがふーちゃんの高圧的な態度に不満そうな声をあげる。口調から推測するに、まだ若い女の声。背丈はふーちゃんと同じくらいで、その櫻色の短い髪がさらりと揺れる。その椿という女は俺をみて申し訳無さそうな顔をし、


「突然声をかけてすみません、人違いのようでした。」

「あ、いえ、全然きにしてないんで……」


 俺は、このちぐはぐな4人組に、喧嘩を売ったことをひどく後悔していた。




 自己紹介が遅れたが、俺の名前は浅井朋成(あさい ともなり)という。俗に言う不良だ。俺が繁華街を歩く中、肩がぶつかったのがきっかけとなり俺が殴りかかったのが発端だ。俺は喧嘩慣れしているし、イグジスとしてもダチのうちじゃ、ちょっとしたものだった。いつもの通り、ど素人共にどちらが上か教えてやろうと思ったのだ。

 それが何故か、あの4人組ときたら意外に強い。青髪の男は俺が躍りかかろうとすれば体中から火を吹き出して。それなら櫻髪の女はどうかと、腕を掴むと、振り払い際に刃物の切り傷が刻み込こまれて痛すぎる。じゃあ白髪の学ラン野郎、コイツに近づこうとすると透明な壁があるように奴の前に進めない。あの小さいガキなら、それは流石にダメだと思って、俺はとりあえず逃げたのだった。

(痛てぇ……ちくしょうアイツら、絶対にぶっ飛ばしてやる)

 ヒリヒリと痛む俺の片方の手をさする。なんとしても一矢報いなきゃあ、ダチにしばらく笑い者にされるだろう。そして、ニタリと勝利の笑みを浮かべる。

 俺の超能力(イクス)は「ライアーフェイス」、数分間違う人物になることができる能力だ。

 逃げ去る際に、この力を使って俺は違う人物に変身した。こうして追ってきたあの4人組は突然自分たちが違う人物を追っていたのだと思いこみ、混乱するという寸法である。狙い通り、コイツらは俺がどこに言ったのかボソボソと話し合っている。

 そう、今こそ、コイツらに俺の強さを思い知らせる絶好の機会なのだ。全員が俺に背を向けた時が最大の好機、あの青髪共をぼこぼこにしてやる。


「ハッハッハ、仕方ない。見つからないようなら探したところで時間の無駄とも。ああいう輩は逃げ足だけは堪能なようでな」

「クソが、次あったらただじゃ済まさないぞ……。とっとと行こう。」


 4人組は不満そうだが、俺はもう懲りて危害を加えることはないと判断したらしい。一行がサッと身を翻して歩き出そうとする。

(今だっ!)

 偽物の顔面がグニャりと歪み、元の俺の顔が戻ってくる。それと同時に、背を向けたあいつらに躍り掛った。狙いは、俺のことをあの糞野郎呼ばわりしたあの学ラン野郎だ。


「このクソガキども!散々俺のことをコケにしやがってよう!一発社会勉強していけや!」


 スピードも威力も文句なし、絶対に学ラン野郎へ拳をぶち込める瞬間だった。ハッとした顔で振り返ってももう遅い。それほどまでに面白いくらいの一撃を叩き込めることに、歓喜の叫びをあげた。


 瞬間、世界が真っ暗になる。何も見えない、光を一切失ったことに対して、咄嗟の反応が追いつかない。何が起こったのか、学ラン野郎はどうなったのか、全てが分からない。

 そして、世界はまた光を取り戻す。目を覚ました世界はスローモーションで動いていた。俺の目は雲ひとつない夕焼け空を眺めており、なんだろうか、顎になにかが当たっている感覚が僅かにある。スローモーションのまま俺はどんどん首を後ろに倒していく。……だんだんと、目の端に地面が迫っているのがみえる。さきほどまで上を見ていたはずなのに、何故地面がみえるのか。単純明快な答え、俺が仰け反っているのだ。だが理由が分かったところで原因は全く不明である。だがしかし、数コンマ後には嫌でも理解することになる……

 俺の頭が地面に叩きつけられて、スローモーションはようやく終わりを迎えた。頭と地面がこんにちはして、鈍い音がこだます。それは見事なゴンっという音が響いた。しかし、それよりも酷い痛みは、顎である、スローモーション時には感じなかった激痛が叫ぶことを許さない。


「っが……ぅ!!?」


 声にならない悲鳴をあげて、口が開閉する。手が麻痺したように痺れる。俺は殴りかかったとき、なんらかの方法によって顎に攻撃されたのだ。

(コイツら、やっぱり超能力者(イグジスト)かよ)


「やっぱりアナタだったんだ。」


 背筋がゾクリと震わせられる、凍てつく声色。痛さじゃない、精神的ななにかで俺はうごけなかった。顔は動かさず目だけをうごかしてそちらを見る。その目は哀れむような、軽蔑するかのような、無機質な目だった。


「そのまま逃げていれば見逃してあげたのにさ。最低な男ね。」

「おい、どうすんだコイツ。少し絞めようか?」

「ひ、ひぃ……!?」


 恐怖に、その場から動けなくなる自分。逃げだしたいはずなのに、体がいうことを聞かないのだ。


『その必要はありませんぞ、若様。』


 不意に4人のうちの誰とも違う声がした。声の印象的には、年配の男性といった感じだ。だが、周りにはそれらしき人物はいない。なにしろ、俺の起こした騒ぎのせいで近くにいた通行人はみな逃げてしまったのだから。


『やれやれ、我が君に何たる無礼や。おいたわしや……。』


 こんどははっきりと音の発信源が分かった。千春という女の腰あたりから聞こえたのだ。だがしかし、当然ながらそこに年配の男はいない。が、変わりに、その腰に付いているポケットから一枚の紙切れが落ちる。だが、色と形が妙だ。良く見てみると、それは赤い折り鶴だった。翼の左翼には香川、右翼には将軍と書かれた美しいスカーレット色。まるで血のように赤い鮮やかさ……

(……まてよ、この赤い折り鶴、もしかして……)


『この血塗れた翼を、この風流な黄昏時に一層鮮やかにすることもありますまい。』


(この折り鶴、『血塗れた翼の大将軍』の香川かよ!?と、すると、この4人組……あ、あの四季兄弟!?)

 あまりの事に唖然とする俺。四季兄弟といえば、ここら一帯で名を馳せている腕利きの超能力者家族である。一人ひとり確かに強いが、兄弟4人揃えば、まさに無敵と言われるほどの強者なのだ。一介のチンピラが適うはずも無い人たち。


「す、すいません!ま、まままさかあの有名な四季兄弟様でしたなんて!!ホントマジで調子乗っちまってて……」

『黙らんか、下衆が』


 発言を許さない静かな憤怒。


『貴様のような下等な者が視界に入るだけで虫唾が走るわ。2度と我が姫君とご子息に近寄るでない。さもなくば……』


 少しの間が空き、静寂が辺りを支配する。そしてゆっくり、とても柔らかな声色で、その赤い折り鶴は言った。


『我が翼の染みとなりたいとは思わんだろう?』


 そう、それはとてもとても、優しい声で……。





「もう、言い過ぎよ、将軍。あれじゃしばらく立ち直れないかも知れないじゃない。」

『されど姫よ、あの輩は危害を加えようとし、あまつさえ後ろからの不意打ちなど……我が彼奴の喉へ攻撃しなければどうなっていたことやら。』


 将軍の脅迫、もとい注意喚起は絶大な効果をほこり、あの不良は脱兎のごとく見事な敗走をみせた。あそこまでするのは流石に可哀想とも思うものの、確かに自分が危なかったのも事実なので言い返せない。あの人には鹿児島さんが見張ってくれることになっている。カメレオンの折り鶴なので、あの不良の少年も、こっそり目印を付けられていたことに気付かなかったのだろう。

 アタシの名前は四季椿(しき つばき)、高校二年生のJKというやつである。

 アタシの能力、「ペーパーノイズ」は、折り鶴に命を吹き込める能力だ。

 アタシはこの能力で作った折り鶴、将軍をジト目でみつめる。この赤い折り鶴は将軍という。昔は香川と呼んでいたが、その古風な話し方より、いつしか将軍と呼ばれるようになったのだ。


「将軍の脅しはえげつない効きだからな……まったく、時間の無駄だった。」

「ふーちゃん危なかったもんね。大丈夫?」

「おい、千秋。ボクのことをふーちゃんと呼ぶな。冬木だ。」


 そう、千秋にあだ名で呼ばれてうんざりしたような表情をみせる少年は冬木(ふゆき)、3歳年下のアタシの弟。コイツは口が悪く、家族にも世間様にもこの調子なのだから困ったものだ。反抗期、だと思うのだけど、大人になったらどうなるものかとやや不安があるが、心根は口の悪さほど悪いやつではない、多分。

 冬木をふーちゃんと呼んだこの小さくて可愛らしい女の子はアタシの妹、(ひさぎ)だ。今年で幼稚園の年長さんになったのだから早いものだ。少し前までつーちゃんつーちゃん、と言ってはアタシにくっついてきたのに、この頃急にしっかりしてきた。そんな毎度繰り返される2人の様子に自然と笑みがこぼれる。


「いいじゃないか!ふーちゃんというかわいいあだ名、楸の他に誰にも呼んでもらえんぞ。」


 この無駄に大きい声の持ち主は私の兄、夏木だ。兄弟の中では最年長で、良き兄ではあるが、見ての通りの暑苦しさで私は得意なタイプじゃない。社会人になってまだ2年目で、本人曰くまだ慣れないことが多いときいている。


「そんな馬鹿げたあだ名を付けられたくないって言ってんだ。あと、君は声がうるさい。」

「まあまあ、皆で仲良く夕飯を食べに行くところなんだ。楽しくいこうじゃないか!」


 豪快な笑顔を浮べながら、夏木は冬木の背中をドンと叩く。閑古鳥の鳴く廃れた繁華街に、夕焼けが私達の影を大きく映し出す。西の空を紅色に染めていた夕日は、もうほとんど沈みかけていた。もうすぐ、夜が訪れる。



 この世界にはイグジストという超能力者がいる。

 元素記号Sp、スプリウムの発見によって世界は一変した。その元素をなんらかの方法で摂取すると、現実では想像もできないような、人智を超えた超常現象を引き起こすことができるというのだ。その影響からか、能力者は髪質が変わり、変色するのだという。ある者は自身から炎を発火させたり、ある者は瞬間移動したりできる。

 三年前、とある研究所のスプリウム粒子飛散事故によってSpは世界全土へ満映し、世界中にイグジストが意図せず誕生した。これによって、日本の人口のうち、約3分の1は能力者であるいう渾沌とした世界が新たに始まったのである。突然の能力覚醒に戸惑う人々だったが、その風潮は次第に薄れていき、今や能力者であることが当たり前の世界に変化したーーー


 ここではアタシ、四季千春とその兄弟の4人組が織り成す日常を綴ろうと思います。

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