森の外の人
やっと出てきた少女の名前!!
(ついにだ!)
「何が目的だ」
「貴方を手当てすることです」
私は彼と言い争いをしています
少し補足的な説明をしましょう
あの後、私はなんとかディールの
(…この際名前を付けちゃいましょう
ダニエルで)
ダニエルの協力を得て、彼を家に連れて来ることに成功しました
流石に家の中まではダニエルは入れないので、止む無く引きずりましたが、仕方ありません
そして、眠っている間に大方の傷の手当ては終わりました
私は彼の着替えと、食事を部屋の一角に置いて、今日の収集品で薬を作りに自室へ向かったのです
そして
「あ、そろそろあの人の傷に薬を塗り直さないとですね」
と、いうわけで彼のいる部屋へ向かいました
ノックをして、入ります
「……」
ドアを開けた次の瞬間、喉に何かひんやりとしたものが当たりました
それが剣だと認識するまで時間はかかりませんでした
「お前の目的はなんだ」
痛む身体を無視して動く彼に少しばかり苛立ちを覚えましたが、それは表情には出しません
「貴方を手当てすることです」
ここは正直に言いましょう
嘘をつくメリットもありませんし
「嘘をつくな。言え、目的はなんだ」
信じてもらえませんでした
悲しいことです
「嘘ではありません。貴方を手当てすることが私の目的です」
人間は皆こんなにも疑り深いのでしょうか?
不思議です
「ひとまずは、剣を下ろして下さい
助けられた相手に対する礼儀がソレですか?」
少し脅しを含めた言葉で牽制します
『私が貴方を助けたのだ』と、そういうことを言わない限り彼は大人しくならないでしょう
そういう性格なのでしょうね
知りませんが
「……」
彼は不服そうでしたが、渋々といった形で剣を下ろしました
「では、服を脱いで下さい」
「はっ!?」
何故驚いているのでしょう
服を脱がなければ、薬が塗れないではないですか
森の外の人はよくわかりません
「薬を塗り直さないといけませんので
早くして下さい」
持ってきた薬を取り出しながら、言います
「…それが毒だという可能性は?」
「ありません」
嗚呼、面倒です
どれだけ人を疑えば済むのでしょう
「うわぁっ!?何をする!?」
「何とは?ただ、行動が遅い捻くれ者の服を剥いでいるだけですが」
この人は1人で服を脱げないのでしょうか?
行動が遅すぎてつい手を貸してしまいます
「そ、それを塗るのか?」
「?そうですが」
塗り薬を見てから、自身の傷を見た彼は突然顔を赤くしていました
一体どうしたのでしょう?
「じっ自分で塗る!!」
「背中は届かないと思いますが?」
「うっ」
どうしてこうも拒否するのでしょう?
本当によくわかりません
「せ、背中、だけ…頼む」
「そうですか。では、コレを深い傷に塗って下さい
こちらは、浅い傷です」
私は、彼に痛み止めと止血薬、加えて特効薬を渡し部屋の隅の椅子へ座り、ライナを撫でていました
平静を装ってますが、内心すごくドキドキしています
我が家に来た人は、いいえ
この森の中へ来た人は、彼が初めてなのです
外の人は、魔物を恐れているという知識はあるのですが、何故彼は魔物の住処であるこの森の中にいたのでしょう
「…お前、名前は?」
ボーッとしていると、彼の方から話しかけて来ました
最初、なんのことかと思いましたが
自分の名前を尋ねられているのだと理解しました
私の、名前…
そうです、思い出しました
ここでは私の名前を呼ぶ人はいませんから忘れかけていました
「私はラティナといいます」
随分と久しぶりに発した自分の名前は、どこか不思議な感じがしました
「…ラティナ、か…
助けてくれたことには感謝する
だが、俺はすぐに出て行く
お前を信用した訳じゃないからな」
睨みながら、彼はそう言います
私はその言葉はどうでもよかったのです
別のことが気になりました
「お前はーー…「ラティナ」……は?」
「“お前”ではありません
私は“ラティナ”です」
そこは譲れません
名前を呼ぶことができる人間ですから
せっかくなら呼んで欲しいと思いました
「貴方の名前はなんですか?」
まだ、彼の名前を聞いていないことに気がつき、すかさず聞きます
名前は素晴らしいものです
とても短い文章と言っても良いでしょう
名前はその人を表すものですから、とても大切な物のはずです
「おm「ラティナ」…ラティナに名乗る名はない」
「貴方の名前は?」
脅し?
違います
正当な言い分です
こちらの名前は教えているのですから
そちらも教えるというのが筋です
礼儀です
「…ライオネル」
「そうですか、よろしくお願いします
ライオネル」
にこっと笑顔で、そう言います
挨拶というのは大事なことです
自己紹介をした人間は、よろしくと言い合うものだと本に書いてありました
「…よろ、しく」
ライオネルは、顔を逸らしながらでしたが、きちんと言ってくれました
「あ、怪我が治るまでここで過ごして下さいね
危ないので」
「えっ」
それから、私と彼…ライオネルとの不思議な生活が始まったのです
「いきなり、呼び捨てなのか…」
「何か?」
「いえ、何でもないです…」