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ぼく その33

 ゆっくりと砂が降りそそがれてきた。ぼくの方へと落ちてくる。砂はそのままぼくにかぶってきて、そのままぼくを埋もれさせた。そしてぼくは目を醒ます。

 まず視界にみえたのは天井だった。木材でできていて、そこには温かさがあった。すこし首を曲げると、木の壁があった。壁はでこぼこした手触りで、ふくらんだ腹をつなげる境目はどこも窪んでいた。ぼくはベッドにいた。ベッドの足元のほうに窓があり、そこにはブラインドが掛かっていた。白いシーツが肌をなでてきて、ほのかに痒くなった。どうしてこんなに敏捷に痒さを感じたのだろう、と不思議におもって布団のなかをのぞいてみるとぼくは裸だった。下着とパンツは履いている。けれど上半身はまるで裸だった。なのに、腹のあたりだけ感触がちがう。もういちど布団をめくり自分のよこたわる身体を凝視してみると包帯が巻かれていた。包帯……。ぼくはどうして腹に包帯を巻いているのか思案してみた。どれくらいか測れない空白をはさんでしまったが、思いだせるかぎり記憶に手と足をすりよらして辿っていった。するとすぐに思い出せた。ぼくは何者かに刺されたのだ。ナイフで。ナイフの主は多分、ぼくに視線をおくってきていた奴だと思う。それは仮定だけれど――さらに根拠もないけれど――正解だとおもう。ぼくは身体をおこそうと企み、包帯がまかれた箇所の具合をたしかめながらゆっくり上半身をおこしていった。小さいではあるが、痛み――というよりは違和感があった。布団もしたがってめくりあがり、ぼくの上半身があらわとなる。刺された箇所は、右のわき腹だった。ぼくは右のわき腹をみてみると、その箇所だけすこし赤紫色のしみが滲んでいた。包帯をとりかえなければ、とぼくは思ったが、どうすることもできなかった。この場所がどこかわからなかったからである。どうしたものか。とりあえずぼくは時刻をたしかめようとした。時間が舌打ちするほうへ首をむけると時計があった。午後の四時をまわっている。もう夕方へと街はしたくをしているのだった。

 次にぼくはここがどこなのか推測する行為へとうつった。推測するとなっても、場所なんて限られている。父さんの家ではない。コハクさん、でも無いだろう。あとは一軒しかなかった。

「起きたのね」

 そのとき部屋のドアがひらいて、女の子の声がした。ぼくはドアのほうへ目をやると、紅い髪をした少女がいた。「ハナミ……」ハナミだった。「そうよ、わたしだけど」彼女はベッドのとなりに置いてあった椅子に腰をおろした。ならって紅いその髪が揺れた。右目をかくした前髪がたよりなく左右へ首をふった。ピンク色のワンピースが衣擦れの音をもらした。そして椅子のちいさな軋みが息をした。「もう大丈夫?」おかげさまで、とぼくは返事した。勝手にぼくは気まずさをおぼえていた。ぼくは昨日、もうハナミには会わないつもりで花に「さよなら」と言ったのだ。ハナミと自分を比較して、ぼくとは違うということを思い知らされたから。ぼくは彼女から逃げたのだ。それなのに、今ぼくは彼女の家のベッドにいる。この事実がすこし恥ずかしかった。「なにか呑む?」「なにもいらないよ……」そう、とハナミはちいさな言葉の粒をなげてから立ちあがった。ベッドのぼくの足元のほうへとまわり、紐をひいてブラインドを上げた。すると今までよりも色づいた光がハナミの紅い髪にふれてきた。「おじいちゃんがあなたを背負ってきたの」そうか、ぼくはあのおじいちゃんに背負ってこられたのか。ということは何者かに刺されたあと、ぼくはしばらくそのまま気絶して倒れていたということになる。「びっくりしたわ。急にあなたがシャツを真っ赤に染めてやってきたんだもの。何事かとおもったわ」ありがとう、とぼくは礼を言った。「おかげで助かったよ」ぼくは包帯ににじんだ血痕をながめた。


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