表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/58

ボク その2

 駅の出口をでると、ボクは歩道にでた。歩行者用の信号機が無口なままたっていて、あかい光を放っている。道路をはしる自動車らをボクは目でおう。遠くのほうでは、ビルが立ちならんでいた。その頭上を飛行機がよこぎり、足跡のかわりに雲の糸をはしらせていた。十五時の肩書きをせおった空はいささか鉛の色彩をふくんだ青をしていた。駅の付近には、いろいろな人がいた。歩いていた。座っていた。待ち合わせをしていた。携帯電話をさわっていた。欠伸をかいていた。カップのコーヒーをのんでいた。そんな人々をボクは一望し、すこし笑った。自然ともれたその笑みが、ボクの脳漿に君のことを浮かばせた。君も、そっちでいろいろな人をみているだろうと思う。君の知らない人々がいる。君の知らない建物ばかりが埋もれている。けれど、君はその街を知っている。

 君の自宅までの道のりはなんとなくだけれど分かった。ボクはこの街の道や建物はどれも無知だけれど、それでも分かった。ボクが思うほうの道へまがり、ボクが思うほうの方向で歩けばすぐに君の家があるのであろう住宅地に到着した。さらにその住宅地でもボクがおもった方向へと歩いた。迷うことはなかった。ボクはつらりつらりとした歩みで、君の住宅へとおもむいていた。

 ボクが足をとめた一軒家の前には、くろい柵の扉があり、隣にインターホンが設置されていた。そこからは石の階段があり、くろい玄関扉へと繋がっていた。ボクはインターホンを人差し指でおし、柵のとびらを引いて玄関扉の前までむかった。庭があった。窓へとつながるウッドデッキが設けられた庭はなかなか広く、そこには洗濯物が干されていた。ボクはそのつっぱり棒につるされた服たちをながめた。やさしく揺する風に干されたシャツが踊っていた。

すぐに、玄関扉の鍵がはずれる音がした。「どちら様でしょうか」とたずねる女性の声がした。ボクはなにも言わず、ドアが開くのを待った。ゆっくりとドアは前へとおされた。隙間から黒い髪がのぞき、ほそい指がみえた。そこからその女性が顔をだして、ボクの瞳をみた。自分の視界にうつるボクの姿をみて、彼女はおもわず声を洩らした。「……コウト?」

「ただいま、母さん」そう言って、ボクは微笑んだ。

ぽつりと落ちてきた雨が、ボクの頬を伝った。みると先ほどの空の鉛色はつよまって、雨の名をよんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ