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人類が救われるわけがない

作者: 貫雪

 私が転任先の「地球観察空間」に着くと、交代する前任の神は、


「ああ、やっと移動できる。言っておくがここの仕事は大変だぞ」


 と、安堵の表情を見せた。


 人類を導くのはどこの星だろうと大変だ。それぞれ特色はあっても楽な仕事など無いだろう。

 私はそう思って前任の神をねぎらい、愚痴を聞き流した。




 いざ交代して見ると、地球人は不満の塊だった。


「世の中が不便で困る。もっと快適に暮らしたい」


 そこで私は彼らに多くのエネルギーを発見させつつ、機械産業を発展させた。彼らの暮らしは見る見るうちに便利になった。


 一仕事終えて安心していたら、彼らは世界中で大きな戦争をするようになってしまった。かなりのエネルギーを与えていたのに彼らの消費は際限なく続けられ、エネルギーの奪い合いが始まった。そこにもとからあった感情的、思想的問題がさらに拍車をかけた。

 そこで私は広がり過ぎた戦火を鎮めるために、乱暴だがより大きなエネルギーである「核」を与えた。


「大変だ。核兵器がある以上、争い続ければ誰かが地球そのものに大きなダメージを与えてしまう。このままでは人類が滅びる」


 人々はやっと頭を冷やした。


 荒っぽいやり方だったが、とにかく戦火は小さくなった。人間の感情と個性から来る争いは絶えることがないが、それは私が赴任する前から彼らがもともと持っていた問題なので、そこまでは関与しなかった。

 ところがしばらくすると地球人はまた、不満を大きく膨らませた。


「世の中は不平等だ。人々が平等になれば多くの問題が解決する」


 私は前の様な愚を犯さぬために、今度は中途半端な真似は避けた。世界中のすべての人類を、見た目から性格まで隅から隅まで平等にした。せっかく人類が多様で豊かに生きられるよう、配慮されて与えられていた個性だったが、彼らがそれを否定するなら仕方がなかった。


 やはり彼らはまったくつまらない存在になってしまった。だが、しばらく彼らは平穏で静かな生活を手に入れた。生きるのは彼ら自身だ。見ているこちらにはつまらなくても、彼らが満足するならそれでいいと思った。しかし、


「文化、文明の発展が止まってしまった。それどころかよりよい存在を求める気持ちが失われ、誰も子供を望まなくなってしまった。このままでは人類が滅びる」


 そして人々は不平等だった過去の問題を無理やり持ち出し、争いだした。


「いい加減にしろよ……」


 私は文句を言ったが、それが彼らに届く訳ではない。


 そこで私は彼らをちょうどよく不平等にした。彼らの三分の一から触覚を奪い、三分の一から聴覚を奪い、残り三分の一から視覚を奪った。突然降りかかった不平等に彼らはしばらく混乱したが、やがてそれは解決した。それぞれが互いの不平等な部分を助けあうようになったのだ。

 私は自分のやり方がようやく成功し、満足感を得ることができた。これで地球人は平和に、理知的に暮らせるだろうと思った。


 ところが人々は互いの助け合いをだんだん煩わしがるようになった。誰が誰をどれだけ助けたか、助けなかったかを競うようになり、そこからまた不満を膨らませた。


「どうしろって言うんだよ!」


 私は職務を放棄し、彼らをただ観察した。


 彼らは同じ特徴同士で固まり、他の特徴を持つ者と競って医学を発展させた。彼らは競わずにはいられない性を持っていたのだ。やがてその医学は人工的に触覚、聴覚、視覚を作り出すようになり、人々はさらなる高みを求めて他の分野も発展させた。そして……




「すいません。私を地球から転任させて下さい」


 私は転任願いを提出した。


 なぜなら地球人は自ら個性を生みだし、新エネルギーを生みだし、それを大量消費してまた奪い合い、争いだした。そして争いによって起こる不平等を嘆き、不満を膨らませていた。

 結局すべてもとに戻ってしまったのだ。


 そして新任する交代の神が現れると、私は言った。


「言っておくが、ここの仕事は大変だぞ……」



ちゃんちゃん♪



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― 新着の感想 ―
[一言] 皮肉が効いたショートショート。 いい感じです。こういう作品が大好物です。 これからも頑張ってください。
[一言] 拝読致しました。 まさに地球人類の行く末を描いているようで、薄ら寒さを感じました。 こんな未来にならない事を祈っております。
[良い点] なんか熱いお茶を飲んでは舌を火傷するばーちゃんのような。
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