嘔吐物
彼に為り切りたい。
それが、自分の願望であり、ずっと彼といる理由だった。
元々自分は無表情だった。
笑おうとしても顔の筋肉が異様なほど固まってしまっているので、ニッタァとした奇妙な顔しか作れないのだ。
それに反し、彼はすぐ笑顔を作れた。
言ってしまえば、自分に足りない物を全て補ってくれるのだ。
だからこそ、自分は彼に為り切きたいと思う様になってしまっていた。
自分は彼に為り切ろうと必死に真似事をした。
彼が好きな物を全て調べ上げ、それを自分で実行した。
だが、他の奴らはぼくがしている行動が馬鹿らしいのか、幼稚なのか、頭を撫でながら笑う。
駄目だ、為り切れない。
このままだと、一生、為り切れない。
どうすれば、より一層為り切れるのだろうか?
もっと、もっと、もっと、彼に近付いて真似をしなければ。
もっと真似をしなければ全て、始まらない。
やがて、彼は俺から次第に離れ始めた。
彼が離れるのが、悲しいとかではない。
まだ為り切れていないのに離れられたら困るのは、ぼくの方だ。
もっと、為り切らせろ。
「……ぎ、っぐ、ん」
飲み込むように、物を胃袋にかき込む。
「…ぐ、ぃ、ひ、ぎぎ、ぃ」
ペッと、口の中に入っていた物を唾と一緒に吐き出す。
口の周りをベタベタとした液体が纏わりついている。
「ん、これは、脳、これは、目、爪、全部」彼を指で差しながら、確認をする。
全ての物を、確認をし終わってから、彼を口の中に放り込む。
気持ち悪い感触が口を弄る。
「ひ、ぎ、っひ、っは、ひひひ、っははははは」
彼を、食べる。
全て、全てを。
髪、目、脳、爪、臓、骨も砕いて食べてしまえばいい。
彼がぼくの一部になってしまえばいい。
彼を食べて、ぼくは、俺は、更に為り切る。
彼に為る。




