第四十回
上山がドアを開けると、そこには紛れもない滑川教授が何やら得体の知れない機械を前に、じっと腕組みをして考え込んでいた。ドアの開く音もお構いなしに、である。
「教授! おはようございます。田丸工業の上山でございます…」
教授は、ようやく機械から目を離し、上山を見た。
「おお、来おったか! 何を見たいのかは、よう分からんが、まあ、しばらく見ていきなさい。ただし、茶も何も出んぞ! ははは…」
「はあ、そのようなものは結構でございます」
「そうか? ならば、そこの椅子に座って、ゆっくりしていきなさい」
教授は、そう云うと、ふたたび目前の機械を見ながら腕組みをした。上山には、その機械がどういうものなのかは、まったく分からない。解明するには、教授が口を開かない以上、ただじっと教授の一挙手一投足を見守るしかなかった。その教授は奇妙な機械に対峙し、睨み合った相手を威圧するかのように、不動の腕組み姿勢のまま座っているだけなのだ。もちろん、時折り椅子から立ち上がることはあるが、ただ機械を上から見るだけで、また座ると不動の姿勢になるのだった。これでは、堪ったものではない。そう上山が思い、腕を見るともう十時を過ぎていた。小一時間は無為に時間を費やしたようであった。この約一時間の時の流れの中で上山が掴んだものといえば、散髪をしていない教授の不精頭と、口の周りに、これも不精に生えた白髪混じりの髭だけであった。フゥ~っと思わず溜息をついた時、幽霊平林が現れた。むろん、上山に見えるだけであって、教授には何も見えない。
その時、教授が腕組みを解いて、慌てた様子で機械の方へ前屈みになった。そして、より一層、シゲシゲと機械を見始めた。そういや、機械に付いているVUメーターの針が激しく揺れ、オレンジのランプが点滅し始めた。




