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第百四回

 幽霊には、人間に出来ないこうした便利な身体機能が備わっているのだ。そんな幽霊平林は、さてどうするか…と巡った。寝室へ現れたのは、上山が眠っているかも知れないという潜在意識が働いていたということもある。結局、寝室にはいなかったから、他を探すとして、バスルームか居間、ダイニングキッチンだな…と目鼻をつけた。その時、上山は遅めの夕食を食べていた。といっても、居酒屋で部下の岬と飲んでの帰りで、無性に茶漬けが食べたかったのだ。居酒屋からラーメン屋台へと寄り道した挙句、終電に間に合わず、タクシーを拾ったまではよかったのだが、その後、帰宅して玄関で半時間ほど微睡んでしまったのである。そして、今のダイニングキッチンでの茶漬けだった。

 バスルームの脱衣場へ現れた幽霊平林だったが、暗闇と分かるや、すぐさま居間へ透過して流れた。流れた、とはプカリプカリと浮いた状態でスゥ~っと移動することを指す。現れた居間は、ほんのりとした薄灯りで暗闇ではなかった。しかし、上山の姿は、そこにもなかった。灯りの射す方向は、ダイニングキッチンだと知れた。夕食か…と、幽霊平林はふたたび流れて移動した。灯りの射す方向へと移動した。

『課長! ここ、でしたかっ!』

 急に背後へ声を受けたものだから、上山は喉へ流し込んでいたいた茶漬けが詰まりそうになりむせた。

「… … 君か! もう少し、やんわりと近づいてくれよ、驚くじゃないか。声をかけるにしたって、正面からとか…頼むよ!」

 上山は不意打ちを食らい、気分のいい訳がない。思わず、幽霊平林に小言を浴びせていた。

『いやあ…、悪気はなかったんですがね。僕の調子が少し変なんで、課長に相談しようと現れたって訳です』

「調子が悪いって、調子がすぐれないのかい? 医者には診て… ははは…、死んでる君に医者というのもな。だいいち、死んだ者が体調を崩す、っていうのも、妙といやあ妙だぜ?」

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