~プロローグ 1
初作品です。指摘、アドバイス、その他ありましたらどんどんどうぞ。
暗い。
暗いよ。怖いよ。
ずっとこの真っ暗な場所に独りで。
怖い。
誰か、誰か、誰か…
「あれ?君、だあれ?」
急に誰かの声がした。
見回してみると、暗闇の中、壁だったはずのところから不思議な光景が見えている。
「僕は閉じこめられてたはずなのに。なんで部屋の中に人がいるの?」
見れば、そこにいるのは綺麗な顔立ちをした男の子だった。年はわたしと同じくらい。
彼は壁の中の部屋からこちらをのぞいていた。
壁の中の部屋?違う。
見た目には、隣り合っている二つの部屋の壁が一部だけ透明になってしまったかのようだ。
絢爛豪華な調度品。見るからに高級そうな絨毯や壁紙。ベッドや椅子はふかふかそうで、複雑な装飾が施されている。
男の子も煌びやかな服装で、綺麗な身なりをしている。
彼はそんな部屋から、不思議そうな顔で『境目』に手を突き、じっとわたしを見つめていた。
「ねぇ」
「うっ、うん」
怯えながら返事をする。
こんなにお金持ちそうな子だ。きっと院長さんのお客様の子供とかなんだ。
いい子にしてないと、院長さんにぶたれる。
『よくもお得意様の機嫌を損ねたね!!このどうしようもない…気味悪い子!これは罰なんだよ!へまをしたあんたが悪い!!』
きっとそういって何度もぶたれる。
「ねぇってば」
「ご、ごめんなさい!お客様の子供でしょう、わ、たしはここから―ここから出れないから、応接室へは、だ、誰か違う人に案内してもらって―」
「待ってよ」
澄んだ声でわたしの言葉を遮る。
「僕はお客様の子供なんかじゃないよ。お飾りの王位継承者だ。」
「おういけいしょうしゃ?」
「うん。今はただの飾りだけど。
ねぇ、君は誰なの?名前は?
僕この部屋に閉じこめられてたはずなんだ。君はどうしてここにいるの?」
「わかんないよ」
わたしは素直に答えることにした。
この人はおういけいしょうしゃで、お客様じゃないんだ。
だったら、おしゃべりしてもいいはず。
年が近い子とお話しするのはとっても久し振りな気がする。
「院長さんがわたしのこと嫌いなの。よくぶたれるの。でもわたしが悪いんだって。この目が気味悪いんだって。」
「そんなの…」
彼は怒気の混じった声を出した。
そのまま視線をあげてわたしの顔に目を向けると、首を傾げながら手招きをする。
「?」
不思議に思ったけど、素直に『境目』に向かった。
この子はわたしのこと、嫌いじゃないのかな。
しばらくわたしをじっと見つめたあと、彼は呟いた。
「僕は君の目、綺麗だと思うけれど」
「ほんとう?!」
「うん。月と太陽が混ざったみたいな…銀色と金色の間みたいだね。僕はとってもすてきだと思う」
「ありがとう…」
ずっと気味悪いと言われ続けていた瞳の色。初めて誉めてもらえて、わたしは生まれて初めて舞い上がったように喜んだ。
この人なら、思ったことを言っても大丈夫かしら。
「あなたの目と髪もとても綺麗」
「これが?」
「うん。綺麗な黒紫ね。暗いところで目を閉じると、まぶたの色に見える色」
「僕も…そんなこと初めていわれた」
少し照れたように笑う彼。
本当に嬉しそうで、誉めたわたしが幸せな気分になってしまった。
「真っ暗じゃないか…なにも見えないけど、家具もないんだろう?窓も、灯りもない」
「ずっと前にここに入れられたの。ご飯はもってきてくれるけど…たぶん1日一回だから、これで30日くらいになるのかしら」
「そんなに長い間…」
二人とも九歳か十歳くらい。