第9話
「アキー!!」
「うわ…父さんだ」
父が広場に入ってきたのは一瞬の後で、ミナトが隠れる時間がなかった。
「やべ…」
「どうする?俺の父さん危険だぞ」
答える隙もなく父が来て、ミナトはアキの後ろに隠れる。
「アキ?その子は?」
「えー…っと…」
「ん?」
昨日の夜のことがあってから、面と向かって父と話すのがトラウマになってしまった。
答えずにいると父は怪訝そうにして今度はミナトに声をかけた。
「君、どうしてこんなところに来たんだい?」
つまりターゲットがアキからミナトに移る。
「知るかっ」
ミナトはなるべくアキの父と目を合わせないよう、下を向いている。
後ろから服を強く掴まれる。
何とかしろ、ということだろうか。
「あー…その…こいつは―――」
間違っても、ケモノだ、とは言えない。
言ったら即、ミナトは殺られるだろうし、アキだってケモノであるミナトをかくまったのだから無事ではすまないだろう。
「なんだ、言えないのか?」
父の目が鋭くなる。
「まさか…」
「違う」
とりあえず否定しておく。
まさか、ケモノか?と言いたかったに決まっているから。
「こいつは普通に人間だ」
「そ、そうだっ」
アキの背中からミナトがちょこっと覗く。
「えっと、オレ、父さんと母さんがいなくなっちまって…その…」
「あ、ああ…ひとりでここにいたから、遊んでやってたんだ」
嘘とも本当ともつかないミナトの発言に、アキも口裏を合わせる。
「ほんとなのか?」
「ほんとだっ」
隠れるのをやめ、くってかかる。
「ふたりがいなくなって丸一日たつのに、どっちも帰ってこないから…オレ、ここで待ってたんだ!!」
アキと初めて話した時のような激しい口調だ。
どっちも帰ってこない――。
いくら待っても帰ってくるはずはない。それでもミナトはそれを信じたくないようだった。
たとえアキの父がミナトの両親を殺したわけでなくとも、ミナトは全てのヒトは悪だと考えている。
「ほぉ…。親が消えたのか。捨て子…かな」
「そんなんじゃない!!」
「そうかそうか」
父の表情が優しくなる。
ミナトは親に見捨てられた捨て子だと、父の中ではもう固定されてしまったようだ。
「大変だったなあ」
「だから…!」
いくらミナトが反論しても、父は笑ってうんうんと頷くだけ。
決定事項らしい。
「ミナト」
アキがほっとけとでも言うように首を横に振ると、しぶしぶミナトは黙り込んだ。
ミナトの『ヒトは悪』という方程式で、例外なのはアキだけらしい。
「―――と、いうわけだから」
父さんが単純でよかったと心の中で息をつく。
「ミナト君と言うんだね?」
「……そうだけど」
「今日はどこで寝るつもりだったんだい」
「…そこの洞窟」
ミナトが指差したのは、広場の奥、そびえる崖にぽっかり開いた洞窟だった。
見た感じ、かなり深そうだ。
「そうか…ミナト君」
父さんは一度手をぽんと叩いた。
「うちに来るか?」
突拍子もない言葉に、アキもミナトも固まった。
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