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太陽-Beast Friends-   作者: 黒井 夕
第1幕 ウサギ跳ねたその朝に
8/30

第8話


その音に驚いたのか、鳥が数羽飛び立った。

そして、静寂。


「…っあー…耳がガンガンする…」


しばらくするとアキが起き上がった。耳を押さえながら辺りを見回す。


「っ、おい、大丈夫か?」


すぐ隣には、あの男の子が倒れていた。

眼を閉じてぐったりしている。


「どうした!?まさか…」


さっきの弾があたったのか。不吉な考えに目の前が真っ白になる。

俺の銃が命を奪った―――?

アキはその場にくたっと座り込んだ。

助けられなかった。あれだけ言っておいて、救えなかった。


「……ごめん」


すぐ前で倒れている男の子は青白い顔をしていて、まるで生気を感じられない。


「お前は…これを望んでたんだよな…」


じわっとアキの目に涙が浮かんだ。

目の前で人が死ぬなんて、もちろん初めてだ。

それが今日会ったばかりの名前も知らない他人だったとしても、こんなに悲しくて苦しくなる。


「ごめんな……っ」


助けられなくて。

ついに涙がぽろっと落ちた。

“ありがとな”そう男の子の声で聞こえた気がした。


「ごめん」


しばらくただ座って遠くを見つめていた。

泣いたせいか、頭がガンガンする。


「埋めてやらないとな…」


立ち上がると、少しふらついた。ずいぶん長い間座っていたのだろう。

男の子を抱えあげ――たのだか、そこである違和感を覚えた。


「………ん?」


なぜか…男の子の体が震えていたのだ。

怪訝そうに男の子の顔を見つめるアキ。するとゆっくりと顔をそらしていった。


「…………お前……」


なんの迷いもなく、男の子を地面に落とす。


「っで!」

「お前……なにしてたのかなぁー」

「騙されるほうが悪いんだ」


男の子はケラケラ笑うと、アキの前にぴょんと立った。

長いウサギの耳が風に揺られる。


「血ぃ出てないし。そんなのにも気づかなかったんだなー。よっぽど気が動転してたんだ」


もう一度笑うと今度は背伸びしてアキの肩を軽く叩いた。


「にしても…ほんとに埋める気だったろ?危なっ」


その手をはらうと、アキはあらぬ方向を向いた。


「姫だっこまでしてさ…くくっ、あー恥ずかしかったー」


無言で歩きだすアキ。

それに気づいた男の子、一歩1mのペースでぴょんぴょん追いかけて来る。

一体どこからが演技だったのか。


「待てよー」

「帰る」

「なんでだよー」

「お前が俺を騙したからだ」


スピードを上げても男の子はついてくる。それも楽しそうに跳ねながら。

アキも帰るとは言ったものの、父がここへ戻ってくるまでは帰るわけにいかず、結局は広場の中をぐるぐる歩き回るだけ。


「オレさ、お前のこと気に入ったんだよね」


アキが疲れてその場に座り込むと、男の子も一緒にちょこんと座った。


「なー、お前名前はー?」

「そっちから言え。自己紹介の時は自分から。常識だろ」


そういえば、ふたりとも出会ってから一度も名乗っていなかったのだ。

それを忘れるほど、少しの間にいろいろありすぎた。


「ちぇー。オレはミナト!で、黒月(くろづき)ウサギの亜人。よろしく!」


男の子――ミナトはニカッと笑ってみせた。


「あじん?」

「こういうのが付いてる人間のこと」


自分の耳を引っ張ってみせる。

つやつやしていて、触ってみたくなるような黒をアキはどこかで見たことがあるような気がした。


「お前らはケモノって呼んでるらしいけど」


その考えはミナトの明るい声にかき消された。

オレ達にもちゃんとした名前があるんだぜー。と語っているミナトの笑顔は、騙されたばかりなのに怒る気もなくしてしまった。


「次はお前な」

「俺は……アキ」


びしぃっと指差されて仕方なく名乗る。

すると名前を聞いたミナトは目を輝かせた。


「アキ、だな。へぇー、女の子みたいな名前」


なぜかぴょんぴょん跳ねながら、アキちゃんアキちゃんと繰り返している。

それを見ながらアキは額を押さえて溜め息をついた。これたがら名前を言うのは嫌いだ。

それにしても、なぜこんなになつかれてしまったのか。

ついさっきまではアキのことをあれほど嫌っていたのに、今はどこへ行ってもついてくる。

試しに立ち上がってその場を離れると。


「おい、おいてくなよー」


やはり、ついてきた。


「…なんで俺にくっついてくるわけ」

「アキがいいやつだからだ!」


ミナトはぴょーんと跳ねて言った。

アキの上を飛び越えて反対側に着地する。


「…すごいな」


一瞬の出来事に、つい正直な感想が漏れてしまう。


「そのジャンプ力も、亜人…だっけ?…だからか?」


それに足の速さも。

先刻、アキから逃れていた時の動きは、あきらかに人間のものではなかった。


「そ。オレ達はこれの種族の力を受け継ぐんだ」

「と、いうことは?」

「ということは――、オレはウサギの亜人だからジャンプ力と脚力がハンパない。でもウサギだからニンジンが好きとか、そういうのはないからな。オレ、野菜全般嫌いだし」


いまいち話についていけていないアキに気づいたのか、聞いていないことまで教えてくれた。

聞くよりも見たほうが早いとでも言うのだろうか、ミナトは走っていったかと思うと、3mほども飛び上がっていた。


「ほら、アキー、見ろよー」

「見てるって」


そしてまた戻ってくる。

少しでもアキと離れたくないかのように。


「んで、さっきの死んだふりも亜人の特技」

「なるほど。リアル過ぎて埋めるところだった」


いや、ほんとに埋めてしまおうか。今からでも遅くない。


「ミナト、そろそろ帽子かぶれよ」

「お、おう」


ミナトがずっと大事そうに握っていた白い帽子を深くかぶる。

その直後、すぐ近くで聞き慣れた声が聞こえた。




ウサギさんのキャラが変わってる?


そんなことはありません。

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