第7話
「おいっ、お前何やって…!」
男の子をとめようと飛びかかったが、あっさりと避けられ、それどころかアキの上を跳び越えてみせた。
「だってオレ、殺されたいんだもん。お前に頼もっかと思ったけど――」
振り返ると、男の子はまた銃を自分に押し当てていた。
「――だめみたいだし」
「殺されたい…って…」
男の子はふぅと息をつき、帽子をとった。
「オレの父さん達みたいにさ」
ケモノ。
アキ達はそう呼んでいる。
動物の耳を持ち、いつか街を襲おうと企んでいる化け物。
「ケモノ…」
「ケモノ?ああ、ヒトはオレらのこと、そう呼んでるんだったっけ」
ケモノは凶暴で…ヒトを憎んでいる。
「オレ達からしたら、そっちのほうが狂った獣だ。オレの親も“化け物”そう言われて死んだ」
男の子は自分の耳――黒いウサギの耳に触れた。
「だから、オレもいっそ死んでやろうと思って」
この世界に生まれなかったら…よかったのに。
銃を持つ手に力が入る。
「………っ、だめだッ」
再び男の子につかみかかる。
が、今度も人間にはとうてい不可能な跳躍で避けられてしまう。
「死んだら…っ、だめだ……!」
「なんで?ヒトがなんでそんなこと言う?」
「…………っ」
何度も飛びかかるが避けられる。速い。
それでもアキは、避けられても、避けられても男の子をとめようとする。
しかし男の子は今にも引き金を引いてしまいそうで。
「簡単に、死ぬとか言うなっ」
「だから…なんでヒトのくせして、そんな必死に…」
「そんなの今は関係ない!!」
ビクッとして男の子は動きを止めた。
アキも肩で息をしながら男の子を見据える。
「関係ない、だろ?……ヒトだとか、ケモノだとか。どっちも同じ人間なんだから」
「お前…ヘンなこと言うな…」
ずっと言えなかっただけで、ずっとおかしいと思っていた。
「ケモノだって俺達と同じ存在だ。そんな存在が今、消えようとしている。それをとめて何が悪い?」
言えなかっただけ。
これは言い訳だ、分かっている。アキも何も行動に移さない、という形でケモノへの差別に参加していたのだから。
しかし今日初めてケモノを前にして、何が変わった。
人間だ。ケモノだって同じ人間だ。
同じ人間をなぜ殺すのか。
「でもよ…お前はそうでも、他のやつらは違うだろ!?オレの両親を殺して喜んでたッ」
「!!」
銃の音がいやに響いた。
「父さんと母さんに会いに行くんだ!!こんな大っ嫌いな世界、出ていってやるんだ!!」
ヤバい。
そう思った時には、もう走り出していた。
「やめろ!!」
確かな、感触と温もり。
タアァ―――…ンッ……
乾いた銃声が空の音と消えていった。
シリアスにつき、あとがき無しです