第6話
「それ…か、返せよ!」
急に背後から声をかけられてアキは足をとめた。
そして振り返って、声の主の正体を見た――瞬間、吹き出した。
「な、なんだよ…っ、そのポーズ……くくっ」
「うるさいぞ!」
それもそのはず、後ろに立っていた男の子は両腕で頭を覆っていたのだ。
「いいから、それ返せ!」
「いや、その前に…なんでその格好?」
「ほっとけ!それ、オレの大事な帽子なんだ!」
アキは持っていた帽子を見た。
白い小さなそれは、確かに男の子のもののようだった。
「これか?」
帽子をひらひらさせる。
「それに決まってるだろ、早く返せ!」
「えー…」
「なんでだよ!」
こういう状況に出会ってしまうと、すぐに返したくなくなるのが人間というもの。
しかも、アキの場合は、相手がちょうどからかいがいのある年頃というのもあり、謎の格好をしているこの男の子で父が帰って来るまでの暇つぶしをしようと決めていた。
「俺から奪い返せたら、考えようか」
帽子を持つ手を高くあげる。
「届くか?」
「~~~~~っ」
男の子は恨めしそうにアキを睨んでいる。
でも、頭を覆う手はそのまま。何か、アキに見せられないものがあるとでもいうのだろうか。
「お前サイテーだな!やっぱヒトだ…っ」
「ヒト?」
アキが眉をひそめた――その瞬間、男の子が駆け出した。
瞬きひとつの間にアキの前まで迫る。
そして地を強く蹴って、跳びあがった。
「………え」
空中の男の子と目が合った。
彼は一瞬、深い憎しみと悲しみが交差する目でアキを見た。
が、アキの目が自分の頭に移るのに気づくと、ニッと笑った。いたずらっぽい笑いだった。
「あーあ、ばれちゃったかー」
ストンと静かな音で着地する。
「ま、いっか。何にも知らないみたいだからな」
「あ」
男の子はあの帽子を人差し指でくるくる回していた。
もちろんアキの掲げた手には何も残っていない。
「い、いつの間に…」
「ちょろいな。ヒトの動きは遅すぎる」
「え…おま、え…」
アキが全て言い切る前に男の子は帽子を深くかぶる。
そしてまたニッと笑った。
「こんなところで、まさか迷子かあ?オレより年上のくせしてさ」
「迷子じゃ…」
「じゃ、なんでここにいるわけ?」
「それは…」
それは…言えない。
もうすっかり立場は逆転、男の子のペースだった。
「なんで言えないの?そんな証拠ぶらさげてて」
証拠―――。
「!これは…っ、ちが…」
腰の銃に手が触れる。意識的にそれを隠そうと手が動く。
「撃てば?」
パッと男の子の姿が視界から消えた――かと思うと、アキの隣に立っていた。
アキが反応するより先に男の子は銃を奪い取って、自分のこめかみにあてた。
銃がカチッと嫌な音をたてる。
男の子(名前だしたれや)の運命やいかに!