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太陽-Beast Friends-   作者: 黒井 夕
第1幕 ウサギ跳ねたその朝に
5/30

第5話


「アキー、ついて来てるかー?」

「……ああ」


不機嫌なアキは今、すっかり元通りな父と一緒に森の中。つい一時間前――昼過ぎに家を出てきた。

エリルは周りを森に囲まれているため、少し街のはずれまで来ると、そこはもう緑生い茂るケモノのテリトリーなのだ。

やはりカイは許しが出ず、アキは父とふたりきりのこの状況にかなりイラついていた。

腰のベルトには、少し小ぶりだが、本物の銃がさしてある。

これは朝、父に渡された物で、“自分の身は自分で守れ”ということらしい。

まったく、実の息子に何を言っているのだろうか。


「その銃、いつでも撃てるようにしとけよ?ケモノがいつ襲ってきてもいいように」


と言う父は大型のライフルを背負っている。

エリルでは、ケモノ狩りの許可を得ている者のみ、武器を持つことが許されている。アキは父が同行している、という理由で街の許可がおろされていた。ケモノ狩りに行くには街の機関への届けが必要なのだ。


「ここだ。父さんが前に黒ウサギを倒したのは」

「……ふーん」


ここで、ひとつの命が失われた。

それも自分の父の手によって。

そう思うと、無意識に息が詰まった。


「洞窟と広場…。……家と庭みたいだ」


主を失った家と庭は必要以上にがらんとして見えた。


「じゃあ、父さんは早速行ってくる。アキはどうする?」

「あ、…一緒に行かなくていいんだ」

「来るか?」


父はアキの呟きには全く興味を示さず、銃を担ぎ直した。


「ひとりで、頑張る」


アキがそう言うと、父は満足そうに、頑張れと頭をぽんとして去っていった。

父の背中が隠れて…現れて…今、見えなくなった。

アキはそれを確認すると、広場の中をぶらぶら歩きだした。

ついてこいと言われなかったのは、ラッキーだった。これで、どうだったか訊かれても、駄目だったとそれだけ言っておけばいいからだ。

と、言っても…父は当分帰ってこないだろうし、時間がありすぎる。

――ふいに腰の銃に手が当たって、その存在を思い出す。

引っ張り出してじっくり眺める。


「父さんに使われなくてよかったな」


使われてたら、お前はケモノを殺してた。


「…って、銃に話しかけるとか、俺はバカか」


銃をぽーんと高く放り投げた。

予想以上に高く投げすぎて、なんとかキャッチしてから、ほっと息をつく。


「…よかった、ロック掛けてて」


今日の俺、おかしいと自分で思ってから、アキは再び銃をベルトに納めた。

そしてまた、広場の中を歩きまわる。




――そんなアキの行動を見ている人物がいた。


「何やってんだ?あいつ…」


洞窟の中から素早く走り出た男の子は、白い帽子を飛ばないように両手で押さえ、木の影へ隠れた。


「へんなやつ…」


アキはそんなことには全く気づいていない。


「なんで、こんなところにいるんだ?」


男の子はパッと隣の木へ移った。

そうやって少しずつアキに近づいていく。


「ヒト、だよな…?」


――と、突然激しい風が駆けてきた。

この時期に吹くことは滅多にない風だ。


「ぅわっ…!」


だから、男の子は油断していた。


「……あっ、な、ない!」


風は見事に男の子の頭から帽子を奪い取っていったのだった。



――アキもまた、この風の強さにおどろいていた。


「すごい風だな。夏なのに」


周りの木がざわざわと音を立てる。

風は一瞬で通り過ぎて行ったが、広場には瞬く間に木の葉が散らばった。

アキの周りにもたくさん。

そのうちの一枚を拾い上げて、何気なく指で弄ぶ。はらりとその葉が落ちた時、アキはふと気づいた。


「…白い…なんだ?」


遠くの地面でなにか白いものが動いていたのだ。

一定の間隔で動く、白い鳥のようにも見えた。

好奇心には勝てなかったアキ。もし鳥ならば、とゆっくりと白い物体に近づいていった。

近づいてみると、それは鳥などではなく、白い帽子だった。


「こんなところに帽子?誰のだ…?」


手にとってみると、それはサイズも小さく、アキよりも小さな子のもののようだ。


「…に、しても…」




男の子はその様子をすべて見ていた。


「オレの帽子…!」


あれがないと大変だ。


「あっ」


見れば、広場の少年は帽子を片手に持ったまま、歩いて行ってしまうところではないか。


「ど、どうしよう…!ま、まずいぞ」


わたわたとあわてていた男の子だったが、アキが行ってしまうのを見ると、諦めたように木の影から飛び出した。



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