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太陽-Beast Friends-   作者: 黒井 夕
第3幕 ネコ達の集う夕暮れ時に
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第28話

息抜き、息抜き・・・


ある日のこと、目覚まし時計の音でいつも通り苦しんでいたミナトがぽつりとこう言った。


「すっげぇ、ストレス」

「我慢しろよ。それとも森へ帰るか?」


布団をなおしながらアキは冗談交じりに言う。

そう冗談で言ったつもりだったのだが。


「い、いや…オレは帰るつもりねーし…」


アキから着替えを受け取るとさっさとそれに着替える。


「オレの今の、家はここだから」


そうしてご飯だご飯だ、と部屋を出て行ってしまった。

置いていかれたアキは違和感を感じながらも急いで着替えを手に取った。


カタンと朝食がテーブルに並べられた。

ミナトが来てから、アキの家にはイスがひとつ増えた。それを知ったミナトは文字通り飛び上がって喜んだ。

ここは「オレの場所」なのだそうだ。


「今日はどこか行くの?」


ミナトにオレンジジュースを渡して、母がそう聞いてきた。


「んー…ミナト、どこか行きたいところあるか?」


人ごみが多いとミナトが嫌がる。

あの日、あの市場での事件以来、ミナトは余計にヒトの多い場所を嫌うようになった。


「…静かなとこ」

「静かなところ、ね…」


あの日の夜、ミナトはアキに言った。

ヒトを見ると悔しくてしょうがないんだ、と。

家でも、アキは平気でカイがだめ。父には近づこうともしない。母は大丈夫だが自分から話しかけに行くことはあまりない。


「静かな…。そんなところあるかな…」

「あっ…」

「ん?」

「オレ、行きたいとこある。よく父さんが行ってた店」


カイは僕も行きたいと言っていたが、ミナトが首を横に振ったのでお留守番になった。

母に今日の晩御飯を決めていいと言われて、すぐに興味はそれたようだったけれど。






ミナトの様子がおかしい。

いや、いつもおかしいのだが、最近は特に。

塞ぎこむことが多くなった気がする。


「ミナト、何か悩み事か?」

「別に」


そしてよそよそしくなった。


「ならいいけど」


アキが聞いても答えてくれない。


「ほんとになんでもないんだな?なんかあったら言えよ?」

「…おう」


家でカイとふざけている時はいつも騒がしい。でも夜寝る前にふと表情が陰るのをアキは何度か目にしていた。


「で、行きたい店って?どこ?」

「『猫のしっぽ』って店。ここの角を曲がって…」


なるべく人目を避けてここまで来た。

そして角を曲がってたどり着いたのはレンガの建物に挟まれて建つ小さな店。

『猫のしっぽ』の看板がかかっていた。


「こんなところに店があったんだ…」

「オレが小さいときに、一度だけ森を出てつれてきてもらった店なんだ。よく覚えてねーけど」


ドアにはくすんだ色の鈴がひとつ結び付けてあった。


「これが目印で」


ミナトがドアに触れると、澄んだ音で鈴が鳴る。


「さあ、入ろうぜ」

「俺もいいのか?亜人の店なんだろ」

「アキならかまわねぇよ。オレといれば敵視とかされないと思うし」


ドアを押すとまた鈴が鳴った。


「うわ…」


一歩足を中に踏み入れてアキは思わず声を上げた。

小さな店内なのにところ狭しと商品が置かれている。服から食べものまで。


「何でも売ってんだな」


その中でも一番多いのは帽子。耳を隠すためだ。


「おー?誰もいねーじゃん」

「確かに」


カウンターはあるのに店内に従業員の姿は見えない。

ミナトが近くの棚から白い帽子を取った。


「オレこの帽子が一番しっくりくるな」


今はうちにある帽子をかぶっているのだが、どれも気に入らないと文句を言う。

ミナトが取ったのはあの白い帽子と同じもので、耳をしまってシシッと笑った。


「こっちのほうがオレってかんじだろ!」

「ああ」

「もっと何か言うことねーのか!」


その時。

奥のほうでドアが開いた音がした。

誰かが階段をリズムよく駆け下りてくる。




次回、新キャラ登場…

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