第26話
テスト週間って小説が書きたく…あ、なりませんか。そうですか。
女の子は頭を押さえながらぼーっとして目だけを動かした。
「あれ…?私、えっと…」
「助けてもらったんだよ!」
女の子の目がサクヤをとらえた。
そしてようやく自分に起きたことを思い出したのか、弱弱しく笑った。
「ケモノなんだよな…?」
男の子のひとりがアキに尋ねる。
「正しくは、亜人、だけどな」
アキが言うと男の子ふたりは首を傾げる。
「亜人?」「あじんって?」
アキはミナトに視線を送る。
それだけでアキの意図に感づいたミナトがいたずらっぽく笑う。
「こういうの持ってるやつらのこと!」
得意げに言い切るや否や勢いよく帽子をとった。解放された耳がピンと立つ。
「ケモノじゃないぞ。亜人って呼べよなー」
そしてこちらも楽しそうなリオがフードをはずした。
最後にサクヤが半分リオの後ろに隠れながら自分の耳を引っ張ってみせた。
3人は目を丸くしてミナトたち亜人を見ていた。
「サクヤに礼を言っておけ。助けに行ったのはサクヤだ」
リオに言われてサクヤはぶんぶん首を横に振る。
「違わないだろ。最初に勇気を出したのはサクヤ、お前だ」
背中を押されてサクヤは前に出た。それを見て女の子は口を開く。
「うん…ありがとう。…あじんの、リスのお姉ちゃん」
「…ありがとう」
「ありがとう」
あのね、と女の子は続ける。
「私、"サクラ"っていうの。なんだかね…リスのお姉ちゃんにね、前にも会ったことがある気がするの。今度またお姉ちゃんに会いに来ていいかなぁ…?」
今度はサクヤが目を丸くする番だった。
固まるサクヤの肩にリオの手が触れる。
「あながち、本当かもしれないな」
女の子―――サクラは病院に連れて行くというリオに抱えられて行ってしまった。
子供たちがいなくなるとサクヤは崖に歩み寄った。
お姉ちゃん。
私が変わるのを手伝ってくれたの?
「………」
いくら姉に言われてもヒトとは分かり合えないと信じて生きてきた。
ふたりで暮らしていた時も、姉が死んだ時も、リオと暮らし始めてからも。
だけど、今何かが変わった。サクラが変えてくれた。
子供達は悪くない。
大人に"ケモノは悪"だと教え込まれれているだけだ。知らないだけなのだ。
だから今からでもヒトは変わって行ける。
―――私はお姉ちゃんに新しい世界を見せてあげられる。
「……よかっ…」
アキとミナトは、はっとしてサクヤを見た。
「サクヤ、今…」
「声、出たよな!?」
自分でも驚いたのか喉を押さえてサクヤはふたりを交互に見たが、やがてアキに向かって、ふわり、一度笑顔になった。
「よかった…っ」
そしてアキに飛びついてきた。
「サ、サクヤ!?」
「仲いーなーぁ」
アキが引き剥がすとサクヤはまたとびきりの笑顔になる。
「…アキさんは、私たちの、太陽…!」
「太陽…?」
「…うん!」
それ以上は何も言ってくれなかったが、サクヤはいつまでも笑っていた。
それに答えるように桜の髪留めが太陽の光を浴びて輝く。
リスの花が開いた真昼に。
小さな奇跡が起こったこの崖が、氷桜リスの亜人と子供達が遊ぶ場になるのは、もう少しだけ先のこと。
サクヤ編完結です。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
次はサクヤ編の短編を挟みます。