第24話
いつまでたっても下りてこないミナトを残してアキはサクヤと歩き出した。
どことなくサクヤの足取りは軽い気がする。
髪留めが嬉しかったのなら…よかった。
『アキさん何笑ってるの』
そんなことを考えていたら目の前に開いた手帳が差し込まれた。
あの崖に着くと誰かの声がしていた。
足を止めるサクヤをつれて木の後ろに隠れる。ここからなら声の主も見えるはずだ。
ただ人間にしろ亜人にしろ、ふたりでいるところを見られたらまずいのは分かりきっている。亜人ならアキは出て行かないほうがいいだろうし、もし人間だとしたらサクヤは無事では済まない。
「…子供?」
だが警戒に対してそこにいたのは、1…2、3人の子供。
亜人ではない、人間だ。
なぜここで遊んでいるのかは分からないが確かに3人の子供が駆け回っている。
「サクヤ…?」
「………」
サクヤは首を横に振って後ずさりした。
「帰る、か?」
あの時と同じ。
崖のそば。3人のヒト。
今すぐここから逃げ出したい。
あの時のヒトとは違うけれど、なぜかあの時のことが思い出されるようで、怖い、怖い。
「サクヤ、また後で来よう」
「…………っ」
お姉ちゃんにこの髪留めを見せてあげたかった。
これでずっと一緒にいられるよ、って教えてあげたい。
でも、怖い。
「時間をおけば…誰もいなくなると思うから」
その言葉を聞いても動けなかった。
「―――帰ってくれるまで待つか。じゃあ、もう少し奥に行こう」
手を引かれて木の後ろを離れようとした時だった。
突然、崖のほうから叫び声。
「え」
アキは思わず顔をあげた。
瞬間目に映るものに違和感を覚える。
さっきまで走っていたのは、3人のはずだ。
固まったように動かないのは2人。
ひとり足りない。
「落ちたのか!?」
2人のうちひとりが何やら叫んでこちらへ走ってきた。
「サクヤ隠れろ!」
サクヤがアキの後ろに隠れた瞬間ほんの数メートル先を男の子が走り抜けていった。
大人を呼びに行ったのだろうか。
残ったほうの男の子は自分も落ちそうになりながら崖に手を伸ばしている。
まだ落ちてはいない…?
「俺行ってくる。サクヤはここにいろよ」
何か言いたげなサクヤをおいてアキはしげみを抜け出た。
「大丈夫か!?」
「あそこ…っ」
手を伸ばしていた男の子は泣きながら言った。
崖を覗き込むと、途中には張り出した岩が何箇所かあり、一番上にある岩の上に女の子が倒れていた。
落ちた拍子に頭を打ったのだろう、赤いものが見える。意識はない。
「くそ…」
ここから岩までは3、4メートルだがその岩が狭すぎてアキには下りられそうにない。
「助けてよ…っ、あいつ死んじゃうよぉ…!」
「…………」
ミナトならあの子くらい抱えて跳べるかもしれない。
だがミナトはいない。リオの家まで戻る時間はないだろう。
何もできないまま時間が進む。
ありがとうございました。