第23話
改編しながら執筆中なので一話一話の長さにむらがあります。ご了承ください。
次の日からアキはリオの家に通うようになった。
家で父に毎日どこへ行くのかと聞かれたりもしたがなんとか誤魔化している。
この道を小屋に向かって歩く理由はただひとつ。
――サクヤに笑ってもらいたいからだ。
ミナトには絶対に言わないが。
「ミナトは簡単だったのにな…」
「誰が単純だって?」
「そんなこと言ってないだろ」
今日でちょうど一週間になる。
あの日―――姉サクラのことを教えてくれた日からは、少しづつ打ち解けてくれているように思えたが、それでもアキやミナトがいる時には笑顔を見せてはくれない。リオに聞くと、リオと二人のときであってもサクヤはなかなか笑わないのだという。
コン、コンと2回ドアを叩く。
「サクヤ、いる?アキだけど」
駆け足が聞こえてドアが内側から開いた。開けてくれたのはもちろんサクヤ。
「よっ、今日はいいもん持って来たぜ」
「先に言うなよ…」
とりあえず、いつものテーブルの周りに落ち着いてから小さな袋を取り出す。
「気に入るか、わかんないけど」
サクヤは首を傾げてアキを見つめてきた。
「開けてみて」
そう促すとサクヤは丁寧に袋を開いて中身を手のひらに滑り出させた。
「………」
言葉にはならない口が動く。
ソレを乗せた手がわずかに震える。
「…サクヤとお姉さんが、いつも一緒にいられるように」
アキが持ってきたのは綺麗な桜の花弁を模した髪留めだった。
昨日ここから帰るときに市場で見つけて買っていたのだ。
『お姉ちゃんが帰ってきてくれたみたい』
「それと―――」
それと恥ずかしながら、これを選んで買った理由はもうひとつある。
サクヤの手から髪留めを取って、固まるサクヤの前髪を分けてパチンととめた。
「目、見えたほうが…か、可愛いし」
呆然としていたサクヤの顔が目に見えて赤くなる。
それに釣られてアキも急に自分のしたことが恥かしく思えてきた。
「あーアキが真っ赤。この場を写真に収められないのが残念だなー」
「ミナト!だっ黙れバカ!…ってサクヤもなんでそれ外してるんだよ!」
「…………」
「アキは女心がまるで分かってないねぇ」
それからしばらくすると買出しに行っていたというリオが帰ってきた。
「おお、また来てくれていたのか。ん?サクヤ、その髪留めはどうした?」
『アキさんがくれたの』
「なるほど…サクラの。…それにしてはどうしたサクヤ。そんなに不機嫌な顔をして」
サクヤは答えなかった。
くつくつと笑いながら聞くのだ。リオは大体のことは理解したのだろう。
そんなリオの様子を見るとまた居心地が悪くなってくる。
「気が利くな、アキ」
「別に、そんなのじゃ…俺は、ただ…」
…そんなふうにして時間は過ぎていくのだ。
リオの作った昼食を食べて、また何気ない話をして、なぜかアキとミナトは今日も追いかけっこをするはめになって。
『私、お姉ちゃんのところへ行くけど、アキさんも来る?』
疲れ果てて木の下で休んでいるところへサクヤが手帳を見せに来た。
髪留めで再び目が見えるようになっていた。アキがやったよりもしっかりと。リオがやったらしい。
『アキさんのこれ、お姉ちゃんに見せて来いってリオさんが』
「うん、行くよ」
木の上から長い耳が下りてくる。
「オレはまた置いてかれるのかよー」
『じゃあミナト君も』
「じゃあってなんだ!」
耳をピンと立てて更に高いところへ登っていってしまった。
ウサギは木登りはできないはずだとアキは記憶しているのだが。
「ミナトー?」
上に向かって呼んでも答えはない。代わりに葉がたくさん降ってくるだけ。
『私、登る?桜氷リスだから得意』
「いや、いい。もうほっとこう」
ありがとうございました。