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太陽-Beast Friends-   作者: 黒井 夕
第2幕 リスの花が開いた真昼に
20/30

第19話

『私はいつも、リオさんとこうやって話をしています』


丸い小さな字が流れるように文章を造っていく。


「面倒くさくねぇの?」


ミナトが余計な口を挟むと、サクヤは首を横に振って否定したあと、また白いページにペンを走らせる。


『大丈夫です。リオさんはきちんと聞いてくれます』


よく見るとサクヤの指は赤くなっていた。

いつもこうやってペンを握っているからだろう。


「…質問、いい?知られたくないなら、いいから」


聞いておきたかった。

初めて見た時から感じていた。サクヤという少女は何か、不安定な何かを抱えている。そうでないならば、自分はともかくミナトまで恐れる必要はない。

サクヤが頷くのを確認してアキは口を開く。


「サクヤが話せないのは、生まれつきじゃないよな?」


ペンを持つ手が震えた。


「俺の推測だけど」


訳がわからないといった風にぽかんとしているミナト。


『それは』


その後の文字が綴られることはなかった。

震える手から落ちたペンが音を立てて机に転がる。

サクヤは涙をためた目でアキを見つめていた。







―――――――

小屋のそばの井戸から水を汲んでいたリオは、ふと中の様子を見て舌打ちをした。

――サクヤの様子がおかしい。

怯えたように後退り、それでも必死に何か言おうとしている。しかし、それは音にならず、口を動かすだけ。


「アキでも、駄目なのか…?」


リオは水の入った桶を提げ、早足で小屋に戻った。


「何をしているんだ?サクヤ」


サクヤはリオの姿をみとめると、思い出したかのように再びテーブルに近づくとペンを拾い、乱暴に何か書き留めた。感情の読み取りづらいサクヤだが、その時は唇を噛み締め、怒っているようにも見えた。

書き込んだページを破り、アキに見られないように気にしながら小さく折り畳むと、押し付けるようにリオに渡し、自分は小屋を出ていった。


「なんだなんだぁ?」


状況が理解できないミナトは間抜けな声をあげる。


「俺があんな質問したからだよな」


それでも聞いておきたかったのだ。逆に怒らせてしまったが、力になれるかもしれないと思っていたから。

アキの横にリオが立った。

先程の破られたページを広げ、裏返しにして置いた。


「見るか見ないかはアキの自由だ。私はサクヤを追ってくるからな」


ドアがまた開いて閉じた。


「どうする、アキ」

「…………」


窓から入ってくる、夏の昼の日差しがサクヤの紙を照らしていた。

サクヤは見られたくないようだった。


「見ちゃえば?リオも見るなとは言ってなかったしよ。むしろ見ていいってかんじだったぜ?」


紙をちょいちょいつつきながらミナトが言った。

アキは迷っていた。

これを表にすれば、サクヤの抱えている真実がわかるかもしれない。

でも。


「俺は…直接サクヤから聞きたい。…今すぐには無理だろうけど」

「ふぅん。かっこいいこと言うね、アキのくせに」

「…なんだよ、それ」

「なんでも?…あー、サクヤ可愛かったもんなあ」

「!!」


耳を掴んでやろうと手を伸ばすと跳ねて避けられた。ミナトはその場で何回か跳ねて挑発すると外へ駆け出ていった。


「こら待てっ、ミナト!」


アキも後を追って小屋から走り出る。


「めっずらしー!アキが慌ててるー!」

「止まれよ!その鬱陶しい耳、結んでやるから!」

「ぎゃーっ!」


小屋から声がどんどん遠ざかっていく。

紙はそのままテーブルに残された。

窓からの風が滑るように入ってきて、その紙をテーブルの下へ飛ばした。

紙は小屋の隅で、ふわり、と裏返る。



『お姉ちゃんに会いに行く。私はどうすればいいの?こんなヒト初めて』




ちょっと頑張ってます。

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