第16話
――翌日。
ミナトをつれて、アキは森の前に立った。
もちろんカイは一緒ではない。森に遊びに行くとでも思ったのか、僕も行く、と最後までねばっていたが、さすがに今日は無理だ。
俺達が帰ったら、何してきたの?とか…煩いだろうな。
そんなことを考えて、アキはもう一度目の前森に目をやった。ここは、ミナトと出会った森であると同時に、ケモノ狩りで亜人を殺していたかもしれない森なのだ。
なかなか足が進まなかった。
「リオ、いないな…。ほんとにここであってんのか?」
「オレが嘘つくように見えるかよ。亜人はみんな、ここを森の出入り口にしてる。ここが一番人目につかないんだ」
昨日は疲れはてていたミナトも、一晩たつと大分本調子に戻ってきたようだ。
この辺りにヒトはいない、とか言って出しっぱなしにしていた耳をピンと立てている。
「とにかく!亜人はここから街に出ていって、市とかで買い物してから、またここ通って森へ帰る!」
「ふーん。ミナトも?」
「オレは一回だけ。それ以外は父さんと母さんが行かせてくれなかったからな」
と、カサッと草木の擦れる小さな音がした。
ミナトが先にそれに気付いて、そこに現れた人物を見つけると、おっ、と声をもらした。
アキも少し遅れて気付く。
「リオ」
今日はフードもマントもない。
「待っただろう?終わらせなければならないことがあってな」
「今、来たとこ!」
ミナトが先にリオのほうへ駆けていく。
人目がないのをいいことに、大きなジャンプひとつで彼女のもとへたどり着くと、アキに手を振った。
「あのなぁ…」
少し坂になっているところに足を滑らせながらアキも追いつく。
「では、行くか」
三人で黙々と森の中を歩く。
この森に入ったのは、父と一緒だったあの時だけ。亜人と歩くのはもちろん初めてだ。
森に入ってしばらくしたところで、アキは珍しい光景に出会った。
「…り、リオ?さっきから後ろのやつら…気になるんだけど…」
「ああ、気にするな。いつものことだから」
「ヒトはこうなんねぇの?」
「なるわけないだろ!」
アキ達、正しくはミナトの後ろにウサギが列を作り始めた。それも黒月ウサギだけが。
ウサギ達は何処からともなく増えていって、もう5、6羽がぴょこぴょこついてきている。
「オレ、人気者だろ」
ミナトがそのうちの一羽を抱えあげても逃げようとしない。
「別に無理についてこなくてもいいんだぜ?」
「…これ呼んだのお前か、ミナト」
「勝手に集まってくんの!」
なぜか黒いウサギを手渡される。
両手に乗ってしまうような黒い子ウサギは、アキの目をじーっと見つめる。
「……………」
仕方なくアキも見つめ返す。
するとウサギは急に暴れだして、アキの腕を引っ掻いたかと思うと、ぴょんと飛び降りた。
「………なんで」
「ぎゃはははは!アキ、嫌われたなっ」
逃げたウサギはミナトの足元へ行き、もう一度アキを見つめると後ろの足を地面に叩きつけた。
「アキ、知ってるか?今のはウサギの威嚇だ」
「それ…教えなくてもいいから、リオ…」
リオもいつの間にか黒いウサギを抱えていた。
「リオは?リオには何もついてこないのか?」
聞くと、待ってましたとばかりに、銀華オオカミの亜人は笑みを浮かべる。
「呼んでやろうか?喰われてもいいならな」
「あ…い、今はいい」
すっかり忘れていた。
今、銀華オオカミがうようよ集まってきたらリオはいいとしても、ウサギも含めこの場に居る者は胃のなかの住人になってしまうだろう。
「オレは銀華オオカミ見たいけどなー」
「喰われても?」
「襲われたら蹴り飛ばす!」
「ああ…そう…」