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太陽-Beast Friends-   作者: 黒井 夕
第2幕 リスの花が開いた真昼に
15/30

第14話

「アキ…っ」


あの男がミナトに歩み寄る。

周りに人が集まったことによって、子供のケモノなら危険はないと判断したのだろう。


「さっきは子供だと思って遠慮したけどな、お前がケモノなら話は別だよなぁ」


他のヒトも、次々と男をあおる。


「いいぞ、捕まえろ!」

「殺せ!」

「ケモノは殺してしまえ!」


誰かも分からない人に耳を掴まれる。


「いたっ…はなせ…っ」


押し寄せてくるヒトに、目を開けていられない。

殺せ、ころせ!ころせ、コロセ!!

声は段々と大きく膨れ上がっていく。

ミナトを囲むヒトの壁は皆笑っていた。

男達に引っ張り起こされるミナトを見て、狂ったように笑っていた。

同じ、だ。

ミナトは今度こそ自分に向かって飛んでくる男の拳を見て、ぼぅっと考えた。


そうか、父さんと母さんが殺された時の…。


ドッという鈍い音と共に頬に熱が走った。

倒れ込むと同時に、脳裏にフラッシュバックする映像。


銃声、悲鳴。

見知らぬ男が森の広場に入ってきた。

その男は銃を持っていて、気づいた父さんがオレを洞窟に押し込む。

その時、男が父さんと母さんに気づく。

運悪く帽子を被っていなかったふたり。

銃声。

倒れる父さん。母さんの悲鳴。

また銃声。

今度は母さんが。

そして笑い声。

静寂。


今も頭にこびりついて離れない。

ミナトは洞窟の奥から全てを見ていて、男がこっちに来るのを見て、さらに奥へと逃げ込んだ。

どれくらい隠れていただろう。

次にそろそろと洞窟を出た時、両親はいなくなっていて、残されていたのは、まだ真っ赤な血溜まりだけだった。


「うっ…ク…ッ」


自分は殴られた頬が痛くて泣いているのか、両親のことが悲しくて泣いているのか、それとも悔しくて泣いているのか、それも分からなかった。

ただ涙が溢れた。

群衆からはまだ、うるさいくらいの笑い声が響いてくる。


「やっぱり…、ヒトは、嫌いだ…」


突然、ヒト達がざわめいた。

誰かが間を縫って進んできている。


「アキ…?」


最前列にいた男がひとり、横へ弾き飛ばされた。

違う、アキではない。

マントにフード。見覚えがある。


「…何をしているんだ」


アキと離れたとき、自分にぶつかった人物だ。


「こいつはケモノだ。見ればわかるだろう、私達はケモノを追い出そうとしているだけだ」

「なるほど」


マントの人物はゆっくり、靴音を響かせながらミナトに歩み寄った。

手が差しのべられる。

ミナトは目を丸くした。

またやられると思って、マントの人物を睨んでいたのだ。

見上げると、フードの下の口元が笑っていた。

でもそれは、あの狂った笑い顔ではなく、穏やかな優しいもの。


「おい、あんた何してんだ!」


ヒトがひとり、ふたり間に割り込んでくる。


「自分が何やってるか…」

「黙れ。私はこの子に用がある」


手がミナトに掴めと言うように動いた。

ミナトは少しためらってその手を握った。

ぐいっと力強く引っ張り上げられる。


「なぜケモノを救う必要があるんだ!」

「こいつらはエリルを滅ぼそうとしているんだぞ!ケモノは悪だ!」


ミナトはマントの人物の後ろへ隠れた。マントを強く掴む。

ケモノを憎む、ヒトの目を見るのが怖かった。

なぜ、亜人を嫌う。亜人はなにもしていないじゃないか。


「悪、か。おい、お前、私に何をしていると聞いたな?」


“大丈夫”

そう、小さな声で聞こえた。

男が答えるより先に、マントの人物はおもむろにフードをとった。


「悪が悪をおかして、何が悪い」


空気が一瞬にして、凍った。

フードの下の素顔は女性のもの。しかし、今はそんなこと関係ない。


「ひっ…あ…」

「う、うわあぁぁ…っ」


群衆が皆じりじりとさがっていくのだ。

恐ろしいものを目にしたかのように。ミナトは彼女のほうを見上げて、はっとした。


「…銀華(ぎんか)、オオカミ?」

「あぁ」


女性――銀華オオカミの亜人は、ミナトに笑いかけると自分の尖った耳に触れた。


「大丈夫か?黒月ウサギの少年」


そう言われて急に力の抜けたミナト。その場に座り込んだ。

と、同時に涙がこぼれた。


「泣くな、泣くな。私は少し用があってこの市へ来たのだか…やけに騒がしいと思ってな。来てみたら、この有り様だ」

「オレ、うっかり帽子落としちまって…」

「そうか。もうこんなことにならないよう、気を付けるんだ。…よく頑張った」


頬に手をやると、そこが痛んだ。

いつの間にか、女性はフードを被り直していた。それを見て、ミナトも帽子を被ろうとしたが、誰かに奪われてしまったようで、ない。

どうにか手で隠そうとしていると、ばさっと何かを被された。


「これ…」

「私は肉食獣の亜人だからな。ヒトに見つかっても問題はない。まあ、もう見つかっているも同然だが。君のほうが、それが必要だろう?」


渡されたのは女性のフード付マントだ。

つまり今、彼女の耳は完全に人目にふれている。

だが、周りを行く人々は、彼女から離れるようにして通りすぎていく。先程までミナトを囲んでいたヒト達は、みんなどこかへ行ってしまった。

銀華オオカミの亜人にむかってくる勇気の持ち主はいなかったということだ。

弱い者には勝ち誇った表情(かお)でくってかかり、強き者には巻き込まれないよう、こそこそと逃げていく。


「オレ…ヒトが許せない」

「なぜ?君はこの市にいたのに」

「それは―――…」


ミナトは昨日までにあったこと全てを亜人の女性に話した。

彼女は信頼できると思ったから。



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