第1話
朝だ。
気持ちのいい日差しが降り注ぐ。
風が木々を揺らして吹き抜けていく。
それらにつられるように、洞窟の中からひとりの男の子が駆け出してきた。
10歳くらいに見え、黒髪と対照的な白い帽子を深くかぶっている。
男の子はきょろきょろと周りを確認してから、洞窟の入り口付近にある3mはあるだろう岩に跳び乗った。
そしてもう一度周りを確認して小さな声で言った。
「おはよう…父さん、母さん」
それは太陽に向けてだった。
男の子はしばらく眩しそうに太陽を仰いでいたが、やがて岩から跳び降りた。
ストンと身軽に着地する。
「また、長い今日が…始まるな」
男の子が洞窟の中へ戻っていき、残されたのは風と木々の音だけになった。
―――――エリルの街に朝がやって来た。
薄暗かった街の通りが少しずつ照らされていく。
レンガ造りの建物にも眩しい光が差し、深い眠りから住人をすくいあげていく。
目を覚ました人々は、それぞれ身支度を整え、外出したり仕事を始めたり。
こうしてエリルの街は賑わっていく。
太陽も輝きを増しながらだんだん昇っていく。
街の中心部の広場では、噴水が光を受けて輝いた。
それをバックに話に盛り上がっているのは数人の若者。
「なあなあ、昨日すごい情報手に入れたんだ」
「情報?どんな」
「密かな大ニュース!」
「密かなって…なんであんたが知ってるのよ」
噴水の水がおさまった。
一瞬、その場が静かになる。
「アキも知ってるよな」
が、噴水はすぐにその勢いを取り戻す。
アキ、と呼ばれた少年は噴水の周りの囲いに腰かけた。
冷たい水に手を浸す。
「知ってる、けど」
「じゃ、アキから発表してもらおーぜ」
「はあ?なんで俺が…」
「いいから、いいから」
真夏の空が水面に映し出されている。
再び水は噴き出すのを止め、波のない水面は空色に見えた。
「…俺の父さんが、森に住むケモノを殺したんだよ」
勢いよく噴き上がる水は水面にぶつかり空を揺らした。
「ケモノって…あのケモノ…?」
「そのケモノだ」
「人間の姿をした化け物なんだろ?変な耳生やしてる」
「変な耳じゃなくて、動物の耳」
アキが注意しても、仲間達は興味がないのか直さない。
「アキの父ちゃんって強かったんだな。ケモノって凶暴らしいじゃん」
「父さんが殺したのは黒ウサギのケモノ。ウサギが凶暴だとは思えないけど」
――アキのその一言でその話は終わってしまった。
彼らはそれからしばらく話していたが、正午が近づくにつれて、1人、また1人と帰っていった。
アキも広場から出て家へと急いだ。
この小説は、一度ノートに書いたのを写していこうと思っているので、更新が速いと思われます。