トローヤン・シールド作戦
トローヤン・シールド作戦って?
トローヤン・シールド作戦(Operation Trojan Shield)は、2018年から2021年にかけてアメリカのFBI(連邦捜査局)やオーストラリア連邦警察(AFP)、欧州刑事警察機構などが主導し、世界規模で行った歴史上最大級の「おとり捜査」です。
日本語では「トロイの盾作戦」とも呼ばれます。
この作戦の映画のような全貌を、いくつかのポイントに分けて分かりやすく解説しますね。
作戦の核心:
警察が作った「偽の暗号化アプリ」
ことの発端は、麻薬組織やマフィアなどの犯罪グループが、警察の傍受を逃れるために「特別な暗号化スマホ」を愛用していたことでした。
2018年、FBIがその大手の暗号化端末会社を摘発して潰した際、捜査当局は画期的な(そして大胆な)アイデアを思いつきます。
「犯罪者たちが次に乗り換えるための、新しい暗号化通信システムを『警察の手で』作って提供すればいいのではないか?」
こうして開発されたのが、「ANOM」という秘密のメッセージアプリでした。
徹底した「偽装」と口コミによる拡散犯罪者たちに「これは安全だ」と信じ込ませるため、当局は非常に手の込んだ偽装を行いました。
普通の機能はすべて使えない:
配られたスマホ(ArcaneOSという特殊なOSを搭載)は、普通の電話やメール、GPS機能がすべて使えないようになっていました。
電卓に隠された入り口:
一見するとただの「電卓アプリ」ですが、そこに特定の数式を入力すると、初めて秘密のチャットアプリ「ANOM」が起動する仕組みでした。
インフルエンサーの利用:
警察の潜入捜査官らは、犯罪組織の中で信頼の厚かった大物(本人にはおとり捜査とは知らせず)に「このアプリは絶対に安全だ」と勧めて使わせました。
これにより、組織の間で「あの人が使っているなら確実だ」と口コミで爆発的に広がっていったのです。もちろん、犯罪者たちが安全だと信じて送っていたメッセージや写真、動画は、すべてFBIなどのサーバーにリアルタイムで転送(BCCで常時送信されるような状態)され、丸見えになっていました。
驚くべき作戦の成果
(2021年6月の一斉摘発)
3年間にわたり、世界100カ国以上、300以上の犯罪グループ(イタリアのマフィア、国際的な麻薬カルテル、バイカーギャングなど)が約1万2,000台のANOM端末を使用し、2,700万件以上のメッセージをやり取りしました。
そして2021年6月8日、世界中で一斉検挙が行われ、凄まじい成果を上げました。
項目押収・逮捕の規模逮捕者世界で 800人以上違法薬物コカイン8トン、大麻22トン、合成麻薬など 計40トン近く武器銃器 250丁資金・資産現金や暗号通貨 4,800万ドル(約53億円)以上、高級車55台メッセージの中には、具体的な麻薬の密輸ルートや、数週間後に実行予定だった殺人計画なども具体的に書かれており、多くの重大犯罪が未然に防がれました。
作戦の終わり
これほど成功していた作戦ですが、2021年3月頃に「ANOMのセキュリティは怪しい(詐欺ではないか)」と分析する匿名のブログ記事が出回るなど、徐々に犯罪者側の疑念が強まったこと、また通信傍受の法的な期限が迫ったことなどから、2021年6月に一斉摘発へ踏み切り、作戦の全貌が公表されました。この作戦は、現代の警察が「犯罪者のテクノロジーを逆手に取った」記念碑的な事件として、今も語り継がれています。




