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駅のホームで君を見た時、夢中で…feat.あれから二人/浜田省吾

作者: 深海周二
掲載日:2026/03/20

我々はいつも恋人を持っている。

彼女の名前はノスタルジーだ。


若き日の恋は、いずれ必ず行き止まりにぶち当たり、二つの道のいずれかを辿ることになる。

一つは、行き止まりでぶち当たったまま、その場で立ち消えてしまう道。

そしてもう一つは、ノスタルジーとなって、いずれまた燃え上がる日を待ち望み、くすぶり続ける道。


駅のホームで君を見た時、心の奥底で、音も立てずにくすぶっていた君の記憶の欠片が、寄り集まっていくのを感じた。欠片を組み合わせ、出来上がったあの頃の君の面影が、電車を待つ君の横顔に、重なっていく。寸分違わずに。


声が出ない・・・


俺は、すぐそこにいる君の名を呼ぼうとするが、声がでない。あの頃、何度も口にしたはずの君の名前が、胸の高まりで喉につかえたまま、声帯を震わせることなく、喉元で渋滞している。


電車がホームに滑り込んでくる。


俺の中で、ここから始まる二つの未来が交錯する。


ここで何もしないまま、再び日常に埋もれていく未来。カレンダーと時刻表、手帳に書かれたスケジュール、誰かに会い、何かを話し、それほど思いあぐねることもなく、淡々と過ぎていく未来。


あるいはここで君に声をかけ、見えない可能性の中に生きる未来。曜日も時間も、明日の予定も、いっさいが脇に追いやられ、それでも生きている実感だけは、嫌というほど味わう未来。


電車のドアが開き、君は人混みに紛れ、電車の中に吸い込まれていく。人と人の隙間に揺れている、君の後ろ姿。

俺は電車に乗ることなく、ホームに立ち尽くしたまま、電車の窓ガラスに映る、無力な自分を、眺める。


ふと、電車に乗り込んだ君と、目が合う。


窓で隔てられたた君がいる車内が、まるで次元が違う世界のように思えてしまう。今、君がいる空間が、なぜか、遠い昔の、あの頃と地続きになっていて、触れようにも触れられない世界のように、思えてしまう。


足が動かない・・・


電車の窓に、普段は見ることができない、時の顔を、俺は見た。可能性を連れ去る時の無慈悲で残酷な顔。


俺は過去に一度、時の顔を見たことがある。

あれは16歳の夏、俺は校舎の窓にもたれて、君を見ていた。グランドを一人歩く君の視界に、おそらく俺は映っていないだろう。

俺の中で、ここから始まる二つの未来が交錯する。

ここで何もしないまま、再び明日もこの時この場所で、君の視界の外側で、無力な自分にさいなまれる未来

ここで君に声を掛け、喜怒哀楽のルーレットに身を委ねる未来

君は一歩一歩、確実に俺から遠のいていく。俺は振り返り、校舎の窓に映った自分を見る。俺はそこに、初めて時の無慈悲な顔を、俺の未来の一方を飲み込む時の残酷な顔を見た。


あの、16歳の夏、俺は時の顔から自らの眼をそむけたのだ。

そして今、電車の窓に映る時の顔と対峙している。


意識の端に浮かんだ過去の思い出は、今、この場にある現実の絵具で着色されている。

あの、16歳の夏の思い出。あの思い出から気だるい切なさを取り払い、跡形もなく消し去りたい過去になったとしてもいい。


そして俺は、夢中で・・・君の名を呼んだ。

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