第59話 3人一緒の部屋でお泊まり?
「なぁ……1つ質問して良いかな?」
俺は宿泊する部屋に着いて、すぐにそう言った。
「なんなのじゃ?」
先に部屋に入って、すみっこの壁際に荷物を下ろしていた幼女魔王さまが、入り口のところで立ったままな俺の方へと振りかえる。
「チェックインした時にも『あれ、おかしいな?』って思ったんだけどさ」
「ふむ? なにか不審な点でもあったかの、ミスティ?」
「そうですね……不審というわけではありませんが、可愛い黒猫の子猫がカウンターでお店番をしていた件では?」
「おお、あれは実に可愛かったの! 撫でると愛想よくにゃーんと鳴いたのじゃ。猫にお出迎えされたのは妾、初めての経験でほっこりしたのじゃよ」
「看板娘ならぬ看板子猫ちゃんですね」
「おおっ、ミスティ。上手いこと言うの! 座布団1枚じゃ」
「ありがとうございます魔王さま」
「それに関しては俺もびっくりしたけどさ」
まさか子猫がお出迎えしてくれるとは俺も思ってもみなかった。
人懐っこい猫の頭をそっと撫でてあげると、甘えてごろごろにゃーんしてきて可愛かったなぁ。
猫をマスコットアイドル化して店番に使うとは、さすがゲーゲンパレスの最先端文化は奥が深い。
熱心に学んで分かった気になっても、俺の想像の遥か上を当たり前のように行ってしまうのだから。
だが、今はそれはさておいてだ。
「でもそうじゃなくてだな」
「ふむ、看板子猫ではないと……ではいったい――というか何ゆえハルトは入り口で突っ立ったままなのじゃ? 早く部屋に入って、荷物を下ろすがよいのじゃよ」
入り口で立ちんぼしている俺を見て、幼女魔王さまが首をかしげた。
「俺が言いたいのは、まさにそのことなんだ」
「はて、どのことなのじゃ?」
「看板子猫のことでないとなると、なんでしょうね?」
この状況に、幼女魔王さまもミスティもまったく疑問を感じていないようだった。
せっかく温泉旅館に来たのに、話が進まないままこうやって突っ立ってるのもなんだよな。
「じゃあずばり聞くけど――もしかして俺たち3人とも、一緒の部屋なのか?」
チェックインの時、幼女魔王さまたちはこの部屋以外の鍵を受け取っていなかった。
そして目の前の部屋は、畳が敷かれた3,4人は楽に泊まれそうな大部屋だ。
つまり総合的かつ俯瞰的に判断するに、3人一緒の相部屋――ということになってしまうわけである。
俺的にはこれは由々しき事態だと思ったんだけど――、
「そうじゃの。それがどうしたのじゃ?」
幼女魔王さまは、俺の言っていることがまだよく分からないって顔をするんだよ。
「どうしたもこうしたも、俺は男で魔王さまとミスティは女だろ? 一緒の部屋って言うのはちょっとまずくないか?」
年頃の男女が一緒の部屋でお泊まりするというのは、果たして公序良俗的にいかがなものだろうか?
だって言うのに、
「妾たちは勇者パーティの仲間でもあるじゃろうて。パーティの仲間なら一緒に寝泊まりくらいはするじゃろう?」
幼女魔王さまはそんなことを言うし、
「今回の温泉旅行は新生・勇者パーティの結成にあたって、より親睦を深める意味もあるんですよ」
ミスティもいつものように変わらぬ態度で、補足説明をしてくれる。
「そうは言っても、男女で部屋は分けるんじゃないかな? それに俺がいると2人とも気を使うだろ? 着替えとかさ? 寝起きを見られたくないとかも、あるんじゃないかなって」
「妾は別にそこまで気にはならんのじゃ」
「わたしもハルト様にならぜんぜん一緒で構いませんので!」
「えっ? あ、そうなのか? まぁ2人が良いっていうなら、良いんだけどさ……」
2人に良いと言われてしまったら、話はそこで終わってしまうわけで。
というわけで。
俺と幼女魔王さまとミスティは、同じ部屋で泊まることになってしまった。
俺は荷物を持つと、既に2人のいる大部屋へと足を踏み入れる。
ま、俺が変な気を起こさなければ大丈夫だろう。
ほとんど同い年とはいえ、わずかでも俺が年長者であることは間違いない。
年長者として、自覚と節度をもって行動するとしよう。
俺が部屋に入って荷物を置くと、すぐに窓からの見晴らしのいい眺望が目に入ってきた。
窓際に板間があってその先が窓になっていて、少しずつ秋めいてきた山の見事な景色を、遠くに眺められるようになっているのだ。
紅葉のシーズンには、赤や黄色に染まった木々の色どりを、視界いっぱいに見晴らすことができるんだろうな。
アイセルが淹れてくれたお茶を飲んで一服しながら、そんなことを思っていると、
「では落ち着いたところで早速、温泉に入りに行くのじゃ」
「ですね♪」
「賛成だ」
俺たちは温泉旅館の醍醐味、温泉旅館を温泉旅館たらしめる源泉かけ流しの温泉へと向かった。




