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第58話 【精霊騎士】、温泉に行く。

 ブイブイ言っていた夏がめっきりと勢力を失い、少しずつ秋の気配が深まりだした――とも言えない残暑厳しい今日この頃。


 それでも朝夕はだいぶん涼しくなって、過ごしやすくなった季節の変わり目に。


 俺と幼女魔王さまとミスティは、ゲーゲンパレスから馬車で10時間ほどのところにある、温泉宿へとやってきていた。


「着いたのじゃ!」

 着いて早々、幼女魔王さまがお行儀悪く馬車から飛び降りる。


「冬の終わりに来て以来なので、半年ぶりでしょうか」

 続いてミスティが、それとは対照的におしとやかに馬車から下車した。


「日が沈んでいる時間は涼しくなってきたからの。そろそろ温泉のシーズン到来じゃ」

「ですね♪」


 会話を弾ませる2人に続いて最後に俺も馬車から降りると、いい感じに趣のある宿を見上げた。


「へぇ、見るからにいいところだな。めちゃくちゃ豪勢ってわけじゃないけど、(みやび)って言うか、すごく風情を感じるよ」


 俺がとってもふんわりとした感想を言うと、


「ほほぅ、ハルトもついに『風情を感じる』などといっちょ前に言うようになったのじゃのぅ。ここにきて数か月、ハルトも大いに成長したものじゃ」


 幼女魔王さまが、うむうむと感慨深げに頷いた。


「なんとなくなんだけど、豪華なこと以外の価値観があるってことが、分かってきた気がするんだよな。まだなかなか上手くは言葉にできないんだけどさ」


 前までの俺はキンキラキンだったり、大きくて荘厳だったり、細かい装飾がされていることがスゴイんだって、そんな風に思っていた。


 だけどなんて言うのかな。


 世の中はそれだけじゃなくて、製作者が込めた情熱とか、それを継承してきた人の思いとか、あとは()びしさや寂しさみたいなものがあるって、なんとなく分かってきた気がするのだ。


「なーに、必ずしも仔細に言葉にする必要はないのじゃよ。(わらわ)たちは文化を研究する学者ではなく、文化を享受し共に作っていく『中の人』なのじゃから、気楽に楽しむがよい」


「そうか……俺もまた、今この瞬間に、まさに文化を担っている1人なんだな。『お客さま』じゃないんだ。そうか、うん」


 さすが幼女魔王さまは良いことを言うな。

 俺ちょっと感動しちゃったぞ。


「まぁ小難しい話は置いておいてじゃ。このアーリマ温泉はの、『太閤の湯』として有名なのじゃよ」


「太鼓の湯? 温泉で太鼓をたたくのか?」


 太鼓をたたいてBGMを演奏してくれるのかな?

 でも太鼓は木と皮でできているから、温泉の湿気で音が変わったり痛んじゃいそうな気もするけど。


「ハルト様ハルト様、太鼓ではなく太閤です。偉大な聖魔王さまの呼び名の一つなんですよ」


「ああ、そういうことな。さすが聖魔王さまは、いろんな呼ばれ方をしているみたいだな」


 昔の偉人に多くの呼ばれ方があるのは、どこの国でも一緒のようだ。


「近年の宮廷研究によると、聖魔王は実はひどい腰痛持ちだったようでの。晩年は寒くなると腰がギシギシ言ったらしく、痛みがひどくなるたびにこのアーリマ温泉に、湯治(とうじ)に訪れておったそうなのじゃ」


 幼女魔王さまがややセンシティブな王家の昔話を、あけすけに説明してくれる。


「ほうほう、太閤――つまり聖魔王がよく入りに来てたから、『太閤の湯』なのか。納得だ」


「そしてなんとですよ、この宿は聖魔王さまがいつも泊まっておられた宿なんです。以来500年の長きに渡ってその伝統が受けつがれている、由緒正しい温泉宿なんですよ」


 ミスティがさらに補足説明を入れてくれる。


「500年も!? それはすごいな」


「しかもたくさんの薬効成分が含まれた源泉が、贅沢にかけ流しなんです。血行が良くなってお肌はつるつる、肩こりや頭痛も解消されると評判なんですよ」


「ここに来ると若返った気がするのじゃよ」


「ん? いや魔王さまって20歳(ハタチ)だよな? 若返るも何もないよな? バリバリのヤング・エイジだよな?」


「気分の問題なのじゃ」


「気分か。それは大事だな、分かる」


 つい先日、戦場に向かった幼女魔王さまとミスティが心配で気になって仕方なくて、何にも手につかなかくなってしまった俺だ。

 そう言われると納得せざるを得なかった。


「話も一段落したところで、早速チェックインをして、まずは温泉で一服するとしようかの。名物の銀泉にしっぽり入るのじゃ。薬効たっぷりの、真っ白な湯なのじゃよ」


 今日も今日とて、最後に幼女魔王さまが良い感じに場を締めると、俺たちは宿の受付で手続きを済ませてから、宿泊する部屋へと向かった――のだが。


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