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境界奇譚  作者: otomo2gou
2/16

『展示番号23』

【1. 忘れられた展示室】


大学生の「田嶋たじま そう」は、卒業論文の資料集めのため、地方のとある博物館を訪れた。

その博物館は、古代〜近代の地域文化を扱っており、館内は3つの展示フロアに分かれていた。


第1展示室:縄文〜平安期


第2展示室:江戸〜昭和期


第3展示室:戦後〜現代


パンフレットにはそう書かれていた。

だが、見取り図の隅に、小さく手書きでこう記されていた。


「第4展示室:展示番号23〜 ※関係者以外立入禁止」


田嶋はふと違和感を覚える。

3つしか展示室はないはず。なのに、なぜか“第4展示室”が存在している。


職員に尋ねてみるが、「うちは3つしかありません」と取り合ってもらえない。


だが、確かに――地図の奥、壁に沿った細い通路の先に、「第4展示室」と記されたドアが存在していた。


【2. 展示番号23】


興味に駆られ、田嶋はドアを開ける。

中は狭く、冷たく、照明はなく……ただ一つだけ、小さなスポットライトに照らされた展示物があった。


それは、古びた木製の椅子だった。


プレートには、こう書かれていた。


展示番号:23

名称:記録されなかった居場所

年代:不明

来歴:観測記録なし


それだけだった。


「……意味わかんないな」


だが、妙にその椅子が気になった。

というのも、その形状に、強烈な既視感があったからだ。


自分が幼いころ、家にあったような……。

いや、もっと正確に言えば――小学校低学年のときに通っていた“教室”にあった椅子だった。


【3. 観測記録】


翌日、田嶋は博物館に再訪した。


だが――あの「第4展示室」への通路は、壁で封鎖されていた。


不審に思い、職員に再度確認するも、「そのような展示室は最初から存在していません」と言い張る。


気味が悪くなりつつも、念のため、展示目録を閲覧申請してみた。


古い目録のファイルを調べていると、1978年版の目録に、かすかに修正された痕跡があった。


展示番号22から24への間に、消された記録がある。


さらに、付箋が貼られていた。


「※展示番号23:要封印 記録観測による“逆展開”が発生」


田嶋はゾクリとした。


“逆展開”とは何か?


【4. あの頃の教室】


その夜――夢を見た。


場所は、昔通っていた小学校の教室。

だが、見覚えのない子どもたちが並んで座っている。

そして、その教室の一番後ろに、あの椅子があった。


自分が子どもになった姿でそこに近づくと、周囲の子たちが口を揃えて言う。


「ダメだよ、そこは“記録されなかった子”の席だから」

「座ったら、帰れなくなるよ」


それでも、なぜか惹かれてしまう。

椅子に手をかけた瞬間――周囲の景色がすべて“溶けて”いくように崩れた。


【5. “記録から外れる”ということ】


翌朝。

田嶋は目を覚ましたが、自分のスマホの中の情報が消えていた。


・家族とのLINE履歴 → 存在しない

・友人との写真 → 保存されていない

・大学のメール → アカウントが無効に


あわてて実家に電話すると、出た母親はこう言った。


「……どちら様ですか?」


職員の名前も、大学の履歴も、一切が記録に存在しなくなっていた。


だが、あの博物館のパンフレットだけは手元に残っていた。


そこには、小さくこう書き加えられていた。


展示番号23:観測中 記録範囲外の存在により進行中


【6. 最後の展示】


田嶋は再び博物館へ向かう。


閉館後、強引に裏口から入り、封鎖されていた壁を懐中電灯で探ると、

そこにはうっすらとドアの輪郭が残っていた。


押し入ると、展示室は以前よりも広がっていた。


そして、展示物が増えていた。


「展示番号23-A:記録されなかった生徒」


「展示番号23-B:記録されなかった家族写真」


「展示番号23-C:記録されなかった卒業証書」


最後に――

ガラスケースに収められた一冊の本があった。


展示番号23-F:田嶋 奏


その中には、自分の一生の記録が書かれていた。

ただし、それらはすべて“観測されなかった時間”として扱われていた。


「この展示物は、記録されないまま存在し続けた人間の“抜け殻”である」

「本人の自我は既に“過去に展示”された」

「繰り返しの観測により、次の展示対象を選定中――」


博物館は、忘れないための場所。

だが、逆に言えば、展示されないものは**“存在しなかったこと”になる。**


あなたが最後に博物館へ行ったとき、

展示リストに見覚えのない番号はなかったか?


それが、あなたの“記録されなかった時間”の証拠かもしれない。


そして今――

展示番号24の準備が始まっている。

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