『展示番号23』
【1. 忘れられた展示室】
大学生の「田嶋 奏」は、卒業論文の資料集めのため、地方のとある博物館を訪れた。
その博物館は、古代〜近代の地域文化を扱っており、館内は3つの展示フロアに分かれていた。
第1展示室:縄文〜平安期
第2展示室:江戸〜昭和期
第3展示室:戦後〜現代
パンフレットにはそう書かれていた。
だが、見取り図の隅に、小さく手書きでこう記されていた。
「第4展示室:展示番号23〜 ※関係者以外立入禁止」
田嶋はふと違和感を覚える。
3つしか展示室はないはず。なのに、なぜか“第4展示室”が存在している。
職員に尋ねてみるが、「うちは3つしかありません」と取り合ってもらえない。
だが、確かに――地図の奥、壁に沿った細い通路の先に、「第4展示室」と記されたドアが存在していた。
【2. 展示番号23】
興味に駆られ、田嶋はドアを開ける。
中は狭く、冷たく、照明はなく……ただ一つだけ、小さなスポットライトに照らされた展示物があった。
それは、古びた木製の椅子だった。
プレートには、こう書かれていた。
展示番号:23
名称:記録されなかった居場所
年代:不明
来歴:観測記録なし
それだけだった。
「……意味わかんないな」
だが、妙にその椅子が気になった。
というのも、その形状に、強烈な既視感があったからだ。
自分が幼いころ、家にあったような……。
いや、もっと正確に言えば――小学校低学年のときに通っていた“教室”にあった椅子だった。
【3. 観測記録】
翌日、田嶋は博物館に再訪した。
だが――あの「第4展示室」への通路は、壁で封鎖されていた。
不審に思い、職員に再度確認するも、「そのような展示室は最初から存在していません」と言い張る。
気味が悪くなりつつも、念のため、展示目録を閲覧申請してみた。
古い目録のファイルを調べていると、1978年版の目録に、かすかに修正された痕跡があった。
展示番号22から24への間に、消された記録がある。
さらに、付箋が貼られていた。
「※展示番号23:要封印 記録観測による“逆展開”が発生」
田嶋はゾクリとした。
“逆展開”とは何か?
【4. あの頃の教室】
その夜――夢を見た。
場所は、昔通っていた小学校の教室。
だが、見覚えのない子どもたちが並んで座っている。
そして、その教室の一番後ろに、あの椅子があった。
自分が子どもになった姿でそこに近づくと、周囲の子たちが口を揃えて言う。
「ダメだよ、そこは“記録されなかった子”の席だから」
「座ったら、帰れなくなるよ」
それでも、なぜか惹かれてしまう。
椅子に手をかけた瞬間――周囲の景色がすべて“溶けて”いくように崩れた。
【5. “記録から外れる”ということ】
翌朝。
田嶋は目を覚ましたが、自分のスマホの中の情報が消えていた。
・家族とのLINE履歴 → 存在しない
・友人との写真 → 保存されていない
・大学のメール → アカウントが無効に
あわてて実家に電話すると、出た母親はこう言った。
「……どちら様ですか?」
職員の名前も、大学の履歴も、一切が記録に存在しなくなっていた。
だが、あの博物館のパンフレットだけは手元に残っていた。
そこには、小さくこう書き加えられていた。
展示番号23:観測中 記録範囲外の存在により進行中
【6. 最後の展示】
田嶋は再び博物館へ向かう。
閉館後、強引に裏口から入り、封鎖されていた壁を懐中電灯で探ると、
そこにはうっすらとドアの輪郭が残っていた。
押し入ると、展示室は以前よりも広がっていた。
そして、展示物が増えていた。
「展示番号23-A:記録されなかった生徒」
「展示番号23-B:記録されなかった家族写真」
「展示番号23-C:記録されなかった卒業証書」
最後に――
ガラスケースに収められた一冊の本があった。
展示番号23-F:田嶋 奏
その中には、自分の一生の記録が書かれていた。
ただし、それらはすべて“観測されなかった時間”として扱われていた。
「この展示物は、記録されないまま存在し続けた人間の“抜け殻”である」
「本人の自我は既に“過去に展示”された」
「繰り返しの観測により、次の展示対象を選定中――」
博物館は、忘れないための場所。
だが、逆に言えば、展示されないものは**“存在しなかったこと”になる。**
あなたが最後に博物館へ行ったとき、
展示リストに見覚えのない番号はなかったか?
それが、あなたの“記録されなかった時間”の証拠かもしれない。
そして今――
展示番号24の準備が始まっている。




