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自分の割り振られた部屋に戻ったリアは、ベッドに上がり込み、俯けになってじたばたと脚と手をばたつかせた。

幸いにグランディスはおらず、十分に暴れまわってから仰向けになる。


いつになっても慣れない天蓋を見詰めながら、顔を両手で覆った。


「やっちゃった……」


あのこじんまりとした東屋で会った青年に、あんな態度をとってしまった己をリアは恥じた。


(でも、でも、からかうから!)


責任転嫁しようとして、ぶんぶんと首を横に振る。


「いいえ、からかわれても、心配してくれた人にあの態度は駄目よー」


嗚呼。とリアは、またうつ伏せになって、枕に顔を埋めて呻く。


実際のところ、あの青年は泣いているリアを心配してくれたのだ。

しかも、男性に至近距離で見つめられるのは、はじめてで顔が真っ赤だったのは本当だった。


「よし! 今からでも、間に合う!」


勢い良く立ち上がって、拳を突き上げた。

決めればさっそくと、ベッドから降りて、テーブルに乱雑に置いたバスケットをむんずと掴んで入口に歩き出す。


目指す入口のドアが開き、グランディスが部屋に入ると、驚いたように目を見開いてリアを見詰めた。


「リア様。先ほど、庭に行ったのでは?」

「今から、また行ってくるの」

「そうなのですか? いってらっしゃいませ」


今回も付いてくる様子のないグランディスを置いて、リアは先を急いだ。


先ほど、恐る恐る開いた扉をけ破るように開くと、こじんまりとした東屋を目指す。


意外と奥の方で、リアは息を弾ませたまま、東屋に続く細い道を通っていく。

東屋には、先ほどの青年がいた。


目が合うと、安堵したように青年が小さく笑う。


「よかった。帰ってきたのか」

「ええ、ごめんなさい」

「いや。初対面なのに、からかいすぎた。すまない」


お互いがお互いに頭を下げて、顔を上げると、リアは何だが不思議な感覚に微笑んだ。


青年も、そう思ったのか微笑んでいる。


「私は、リア。あなたは……」

「ディーだ」

「ディー。あなたは、ここの常連客なの?」

「ああ。そうだな。時折、休憩にここを使っている」


「落ち着くだろう?」と聞かれ、リアは「ええ」と頷いて、バスケットを掲げ首を傾げる。


「時折、ここに私も来て良いかしら? あなたのお菓子も持ってくるから」


ディーは、どうぞというように頷いた。


それを見た、リアは目を輝かせる。


「ありがとう! あ、そうだ。一緒に今から、お茶しない?」


スコーンとサンドイッチが二つずつあったはずだと、リアがお茶に誘う。


「よろこんで」

「よかった」


リアはこの城で新しい友達になってくれそうな人を見つけて、嬉しさに自分がお妃候補だということを忘れていた。




◆ ◆ ◆




「痛い……」


この頃、ときどき襲う胃の痛みに耐えながら、リアは東屋に置かれているテーブルにバスケットを置きイスに座った。


『あら、何時も同じ服で可哀想。私のお下がりでも差し上げましょうか』などと、 ちょうど先程、豪商のお嬢様に言われてしまった。


嫌味など最初は気にしていなかったリアだが、余りのしつこさに負けてしまった。

リアがお妃様に選ばれないとふんで、お嬢様方憂さ晴らしの格好の餌食にしているのだと、リアはこの頃気付いた。


「うぅ~謝礼金……お役御免にならないと貰えないからしっかりしろ、自分」


痛む場所を擦りつつ、リアは言い聞かせる。


リアは、早く王様がお妃様を決めてしまえ。と思う。


(早くしてくれないと、何時まで持つかわからない。私の胃が…)


はあと盛大な溜息をついて、リアはテーブルに突っ伏した。


「どうしたんだ、リア」

「ディー」


頭上から低い聞き心地の良い声に、リアはゆるゆると顔を上げ振る向くと顔を情けなく崩す。


「本当にどうしたんだ?」


心配そうに覗いて来る整った顔を見て、我慢していた物がリアの目からポロリと一粒零れた。


庭師だと言う彼は、リアが勿体ないと思うほど、外に出れば女性が見逃さないであろう男前な顔立ちで、 過剰ではなく程良く筋肉が付いた長身のディーは、ここではリアの唯一の男友達だ。

あの出会いから、ディーはリアの愚痴を何時も聞いてくれ、今日も例に漏れず、緑色の意志の強そうな切れ長の目を緩ませて話す様に促す。


「また、他のお妃様候補の方に何か言われたのか?」


優しく親指で涙を拭ってくれるディーに、リアは素直に頷く。


「しょうがない、お妃様候補様方だな……そろそろ、リアの為にも何とかしないとな」


髪を撫でてくれる手つきは優しいのに忌々しげなディーの呟きに、リアは勢い良く顔を上げて首を横に振った。


「駄目。そんな事したら、ディーが咎められていなくなったら……。私、嫌だわ」


縋る様なリアの目はまた水が張られ、今にも零れ落ちそうだ。


王様は興味がないのか、お妃候補に会いに来ず、一向にお妃様が決まりそうにない。

リアがこの城にきてから、二ヶ月が経っていた。


そんな中で、友達が居なくなるのもそうなのだが、 自分の為にディーが路頭に迷うのは一番リアは嫌だった。


ついに零れた涙を必死に止めようとしていたリアの目尻に、ディーの唇が寄せられて涙がピタリと止まる。


「でぃ、ディー……」


驚いて裏返った声で呼びかけても、ふざけているのかディーはリアの頬に口付けるだけ。


いくらお妃様に選ばれないからと言って、自分はお妃様候補。

この場面を見られたら洒落にならないと、いつの間にか自分の顔を固定している大きな手を剥がそうとリアは抵抗する。


けれどそれでも放してくれないディーに、リアは焦ったように言う。


「ディーふざけないで! それに、王様が早くお妃様を決めてくれれば、私は解放されるんだから!」


そう言うとディーは頬を舐めるのをピタリと止めて、顔を離した。


「解放――城から離れる……」


ディーの呟きは聞き取れなかったが、リアの顔は未だにディーの手に固定されたまま。


もう一押しだと、リアはいらない事までしゃべってしまった。


「そう。そうしたら、謝礼金貰えるし……いたっ」


村が少しでも良くなる。と言う前に、胃に激痛が走り、リアは眉をひそめた。


「おい。どうした!?」


リアの身体が傾くのを、ディーが咄嗟に支える。


「何をしているのですか!」


第三者の怒声が聞こえると、ディーがはっとしたような顔をしてそちらを向いたのを見て、リアは意識を失った。


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