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リアは、自分の知っていた世界の狭さを痛感した。

また、自分がこれまでいた環境が、どれだけ恵まれていたのかもこの一ヶ月で思い知った。


今回、占が選出した場所は五箇所。


リア以外の場所は王都と並ぶ大きな街で、貴族や豪商の娘達がお妃候補として集まった。

煌びやかな服や装飾品を身に纏った彼女達に、田舎出で平凡の顔立ち、田舎者だとすぐわかる質素なドレスを纏うリアは馬鹿にされている。


一ヵ月に服などを買うように、お金が支給されるで服など買えば良いのだが、リアは日用品を買っただけでそれ以外は先日、 様子を見に来た村長に村の為に使うようにと渡してしまっていた。

村の公共施設などで老朽化している直しておいて欲しい所、 足りないので新しく購入して欲しい物などをまとめた一覧もしっかりと添えて。


なので服は、村から持って来たおばさん達が作った物しかない。

村の人達がリアの為に買ってくれた精一杯の質の良い生地、 それよりも上の高級な生地で誂えてある物を掲げて、お妃候補の娘達は鼻で笑うのだから達が悪い。


村の皆の気持ち、丹精込めて縫ってくれたおばさん達が馬鹿にされているようで、リアは悲しくなってしまった。


リアからしてみれば、毎日違うドレスを着ているお嬢様達の方が可笑しいと思う。


「がんばれ、私!」


両頬を叩いて、リアは自分を奮い立たせた。


そもそも、何故、リアはこんなにも頑張っているのか。

それは、リアが孤児であるからだ。

リアが十歳の時、両親は、村人達が作った産品を売りに行った帰りに、事故にあい帰らぬ人となっていた。

そんなリアに、村の人々は例にもれず、皆で育ててくれた。

その恩がリアにはあるが、それだけではなく、村の皆が好きだからだ。


(どうにか、あの村を立て直さないと!)


過疎化している村は、錆び、存続の危機が起こっている。

もしかしたら、数年後、村がなくなるかもしれない。というのが、村の現状だった。


それも、両親の事故で売り上げの紙幣が燃えてしまい、燃え尽きた後、金貨などは盗まれてしまい、そこから若者が都会へと働きだしたのが、はじまりだった。

無くなりつつある故郷に、リアはどうにか活気を取り戻し、出て行った若者達を呼び戻したかった。


そんなリアは、高級そうな調度品ばかり置いてあるこの城で、恐れ多くて外にあまり出れなかった。

だが、 畑仕事などを手伝っていたリアには、本を一日中読んでお茶を楽しむなんて、貴族染みたことはもう耐えきれそうになかった。


自然と、リアの口からため息が零れた。


「リア様。どうかいたしましたか?」

「グランディス……」


先ほどまでいなかったグランディスが、そこに居た。

グランディスは、お付きの者を連れてこなかったリアのために、城が遣わした侍女だ。


どうやら、村長にもリアにも平民にはわからない考えだが、お妃候補に侍女がいないのはもってのほか。というらしかった。


「リア様。バスケットにお菓子を詰めて、お庭でピクニックなど、どうですか? この城にきて、引きこもりがちでしょう? 後宮の庭はこの城、一、二を争う素敵な庭なのですよ」


憂鬱そうな顔をさせて過ごす様になったリアを見兼ね、グランディスが庭に出たらどうだろうかと考えてくれたらしい。

すでにグランディスは、バスケットを持っていた。


調度品の無い庭に行けば良いのか。とリアの憂い顔が、晴れていく。

リアは、心優しいグランディスに、転ばない程度に抱き着いた。


「グランディス! ありがとう!!」


綺麗な蜂蜜を垂らしたような金髪に、紫の宝石のような大きな目、小さな顔……グランディスは何故、お妃候補になっていないのだろうというほど美人だ。

だが、美人をひけらかすことなく、リアを気遣ってくれる。


リアは、自分の髪と目の色が茶色な凡庸な顔だが、そんなの関係ない。

グランディスとは侍女という立場であるが、美人で心優しい侍女が側にいていることに誇りを持っている。

この、お妃候補が終わっても、グランディスが良いと言ってくれたら、友人になってもらって、文通をして親睦を深めるつもりだ。


「グランディス。バスケットは重いでしょ? 私が運ぶわ」

「あっ、リア様」


否定される前にリアは、グランディスからバスケットを奪った。


最初は驚いたようなグランディスだったが、しょうがないなというように微笑む。


(わー! 綺麗!!)


この城で一番綺麗で美人なんじゃないのかしら。と思いながら、リアは微笑み返した。


「ねえ、グランディスも一緒にお茶しない?」

「私は……」

「ああ。お仕事があるのね。じゃあ、私一人で行ってくるわ」


自分のわがままを押し付けるのは良くない。

言い淀むグランディスに、仕事があると見当をつけたリアは、庭へ一人で行こうとして「リア様」と呼び止められた。


「庭への行き先は、わかりますか?」

「ええ。大丈夫!」


「行ってくるわね」と嬉々として、リアは庭へと向かっていった。






リアは、庭の行き方は確かに知っていた。

けれど、庭の入口である綺麗な細工のされた扉を触るのが怖くて、この庭を見るのはこれが初めてだった。


恐る恐る扉に触れて開いた先、目の前に広がるのは、庭と言うよりは庭園のそれだった。

リアは圧倒されながら、用意してくれていたバスケットを抱えて、道に沿って歩いていく。


大きな東屋があり、白い石でできた重厚なそこは、ぶとうや天使といった技巧が施されていた。

先客は居ないが、リアはそこで楽しくお茶ができそうにないと、通り過ぎていく。


(ここも、私には場違いだわ……)


しょんぼりしながら、リアはお茶ができる、自分に合った場所がないかと歩いて行った。


しばらく歩いていると、木々に覆われた小さな道の先に、小ぢんまりとした東屋を発見した。

歩き疲れたリアにとって、嬉しい場所だった。


「ここなら、落ち着けそう」


バスケットをテーブルに置いて、イスに座ったリアは、ほっと溜息を吐いた。


風が吹いて、さわさわと壁のようになった木々が揺れる。

個室のようになっているが、日の光が差すように設計してあるらしい。

小ぢんまりとしているが居心地が良く、ここなら何回でも来たいと思うほどだ。


バスケットの中身を出していく。

ティーセットにスコーン、クロッテッドクリームに、ジャム。小さなケーキ。軽くつまめるサンドイッチが入っていて、リアは目を輝かせた。

だが、すぐに顔を曇らせる。


「村の子達やおばさん達に、このお菓子を食べさせてあげたいわ……」


上等な小麦粉にバターや牛乳、新鮮な卵で作られている城のお菓子は、上品でいてほっぺたが落ちそうなほど美味しいのだ。

城下でも売っているだろうが、こんな高級な品物は城でしか食べられない。


場所も相まって、村の皆を思い出してしまったリアの目から、ぽろりと涙が零れ落ちた。


その時、ガサっと道ではない場所から大きな音が響いた。


リアが、熊か何かかと――村では普通だった――振り返ると、驚きに目を見開いた。


「おっと、申し訳ない。先約がいたのか」


この小ぢんまりとした東屋には少し似あわない――長身で、金髪に碧眼、すっと通った鼻筋。男らしい整った顔の青年が立っていた。

だが、そんな顔立ちにしては不釣り合いな、庭師の格好をしていた、


侍女にしても、庭師にしても、この城は綺麗どころが集まっているらしい。


(本当に、私、この城に似つかわしくないわ……)


すでに泣いていたこともあり、また、ぽろりぽろりと目から涙が落ちてくる。

どうやらリアは、無理をしていたらしい。


それもそうだ。

辺鄙な村で育ってきたリアが一生働いたとしても、後宮の壺の一つも買えないだろう、そんな城に居るのだから。

占で選ばれなければ、この暮らしなど、到底送ることはなかっただろうに――。


「泣いているのか?」


現に、庭師の青年も、後宮の庭に居たリアをお妃候補だと思わなかったのだろう。

敬語など使わずに、青年はずかずかとリアに近づいた。


ずいっと顔を近づけてきた青年に、リアは固まる。


(ち、近い。近すぎるっ)


グランディスで、綺麗な顔は見慣れていたものの、男性に耐性がない。

頬が熱くなるのを自覚しながらも、イスと共に後退る。

がしかし、またも青年が近づこうとする気配に、焦ったように声を出す。


「あ、あのっ」


どう対処して良いのかわからずに、目をキョロキョロさせる。


「ふっ、ふはははは!」

「え……?」


突然笑い出した青年に、リアはきょとんとした。

何故、笑われているのかわからなかった。


「お前、真っ赤になりすぎだっ」

「――っ!」


腹を抱えて笑う青年に、自分以外のお妃候補の嘲笑う顔が重なった。


むっと口を引き結んだリアは、広げて手付かずのティーセットなどをバスケットに、無言で仕舞いはじめる。


「おい?」


声を掛けられても、リアは立ち上がり、帰り支度の整ったバスケットを持つ。


「まだ、手付かずだったろう? どうした?」


そして、怪訝そうにバスケットを指さした青年の横を通り過ぎた。

東屋の出入り口で、振り返りる。


青年は、何が何だかわからないというような顔でこちらを見ているのに、リアは無性に腹が立った。


「さようなら!」


こうしてリアは、そう大きな声を上げて立ち去った。

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