不本意な、お妃候補
月兎 暁の名義で書いていた「お妃候補」というタイトルのBLを、主人公を女の子にしています。
「何故、私なんですか!?」
リアは、使い古された村長の机を両手で叩いた。
いつも穏やかなリアにしては顔を真っ赤にさせて叫んだ事に驚いて、村長は細い目を見開いていたが、 すぐにいつもの優しい細目に戻す。
「すまないね、リア。でも、君以外は最高十歳の子しかいない。他の子は、お妃候補にするには少し早い」
リアもわかっているだろう? そう言われてしまえば、リアは、口を噤むしかなかった。
この村は、若者が極端に少ない。
それは、この村が辺鄙な地で、若者達が王都やそこに近い街などに移り住んでしまったからだ。
だから未婚に値する若者は、リアも含め両手で足りてしまう。
村長の言っている事は本当で、リアはわかっているのだが、ここは諦めたくない。
怒鳴っても解決しないと、一息ついてリアは口を開く。
「じゃあ、この村は若者があまりいなくて、候補を選出しようにもいないと断れば良いじゃないですか?」
それが良いと縋る気持ちで村長を見詰めたリアに、村長は首を横に振った。
「王のお妃様候補は、占の導きで決められた場所の長が候補を選出する。それは、知っているね?」
それは、知っているのでリアはコクリと頷いた。
リアがときどきする仕草は昔から変わらなくて、何時もの様に村長は頭を撫でる。
「この村が貧しいのは知っているね?」
それも事実なので、リアは頷く。
すると、村長は困った様な顔で笑った。
「大人の事情なんだけれどね。お妃様候補が村から出たら、その候補がお妃様にならなくても村に謝礼金が出されるんだよ」
そこまで聞いて、ああそうかと村長が言いたい事をリアは理解した。
つまり村長は、謝礼金が欲しいので断らず、自分をお妃様候補したのだとリアは悟る。
この際、占とかお妃様候補を利用して―――と言うのは聞えが悪いかもしれないけれど、村に貢献できたらとリアは思った。
(どうせ、選ばれないし……)
そうと決まれば、リアはすぐに頷いた。
「行きます」
村長は、何とも言えない顔をリアに向ける。
「リアはああ言ってしまえば、頷いてしまう良い子だ。それをわかっていて、言ってしまった私を許しておくれ。 でも、もしリアがお妃様に選ばれたらと思うと……」
そこで言葉を切って村長は寂しそうに笑って、最後の言葉を誤魔化す様にリアの髪をグチャグチャに掻き雑ぜた。
子供を育てるのは両親はもちろだが、この村は皆で育てると言う風習の様な意識がある。
だから、村長もリアや他の子供達も自分の子供の様に育てて来た。
リアがお嫁に行く姿を想像してしまったのだろう、娘を嫁にやる父親の様に村長が涙ぐんだのを見て、 リアはそんな村長を安心させるように微笑む。
「大丈夫ですよ。私は、凡庸な顔だし、器量良しでもないから、お妃様には選ばれないです。ただ、心配なのは……」
「心配なのは?」
「王様が私の凡庸な顔を見て、侮辱されたのだとお怒りになるんじゃないかなと」
今の王様が即位して約一年しかたっていないので、どんな人なのか分からないが、不興を買って村に何かあったら……。
それを考えると、リアは恐くなってブルリと震えた。
「大丈夫。お優しい方だと聞いた事があるし、リアは素直な心の持ち主だからね。 気に入られる事はあるが、嫌われる事は無いよ」
村長の言葉に、リアは不安な気持ちを奥へ仕舞い込んで頷いた。
そして一ヵ月後、村の皆に別れを告げて、迎えに来た馬車にリアは乗った。
リアの持ち物は、村の精一杯の質の良い布で女性達が作ってくれた服を数枚と本数冊、子供達が書いてくれた手紙など ――荷物が少なくて迎えに来た者を驚かせたけれど、リアは気にしない。
集会場がボロボロになっているからその修復をとか、お妃様が決まったら王都から帰る際、 子供達にお菓子を買おうなど考えて、リアはほくほくとしながら馬車に揺られて王都へ向かって行った。