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episode 1.5

「サラリーマンみたいだな。」

という相田の言葉が耳に残っている。少ない会話の中で、俺のどこがそう見えたのかわからないが、その違和感が少しだけ俺をモヤモヤさせていた。

そうかな、くらいしか返事はしなかったが、15年前、実際に俺はサラリーマンだった。

もしもこの事実を相田に話せば、そんなお前がなぜ今高校生活を送っているんだと言われるだろうが、それを聞きたいのは俺の方だ。

しかも、もう6度目である。さらっと言っているが、俺としても問題視していないわけではない。もちろんだ。

しかしどうしようもないのが、1度目から5度目まで、何も問題なく高校生活を送り、入学から卒業まで大きな問題を起こさずに過ごしたというのに、卒業式を終え家に帰って眠ると、また入学式の日に戻っているのである。

さらに最悪なのは、これがタイムリープであれば毎回登場人物も同じなはずなのだが、毎回微妙に違うのだ、登場人物が。

俺を除いてクラス39人、担任を含めれば40人が毎回数人ずつ異なっている。1度目にしか出てこなかったクラスメイトもいれば、毎回お決まりの生徒もいる。

さすがに、1度目のやり直しにしか出てこなかったクラスメイトの名前は忘れかけている。

実際30歳だった時、俺は高校時代のクラスメイトの名前なんて数人の親友くらいしか覚えていなかったしな。営業職をやっていても取引先の名前は毎回曖昧だったし、記憶なんてものはそういうものだと自分に言い聞かせている。良し悪しは別として。


こうやって淡々と語ってはいるが、内心のところめちゃくちゃ喜んでいる。

正直1度目のやり直しが終わるときは、人生が終わったと思った。

知っているからだ、ここから起こっていく人生の変化を。右肩上がりに見せかけて、寿命まで転げ落ちていくだけの人生を。

だから2度目のやり直し高校生活が始まった時、滅茶苦茶に喜んだ。

それはもう飛んで跳ねて喜んだし、家中に響く声で叫んだ。


しかしふと、こんなに長いこと高校生活をやり直しているのに、よく耐えられているなと客観的に思うこともあるが、

これはおそらく30歳だった俺が幾度となく、高校生活は楽だった、と思っていたからだろう。どうだ、この世に生ける30歳たちよ、社会に揉まれて老いていく人生と、一生高校生活を送る人生、どちらを望む。

俺はぎりぎり後者である。責任がないのだ、高校生には。

発注を間違えても上司に怒鳴られないし、取引先の顔色を窺わなくても良い。

間違えた発注には読書感想文なんて比にならない文字数の文書を書かねばならないし、書くにあたっての気遣いもとんでもない。感想文なんてのは思ったことを書けばいいだけで、事故報告書には間違っても、この発注ミスから僕も今後正しい行いをしていこうと思いました、なんて書こうものなら上司の怒鳴り声のデシベルが公害レベルに跳ね上がる。


とはいえ流石に2度目のやり直し高校生活が始まった時、この3年間はなるべく記録を残そう、と始めたのが日記である。何か記録に残しておけば、なぜ今自分が高校生活をやり直すことになっているか、この生活からの脱出の糸口が見つかるのではないか、と、半ば謎解きゲームに挑むような感覚で。

もはや今となっては謎に挑む気持ちも薄れてきたのだが、常に疑問に思っていることはある。

・なぜ俺は高校生に戻ったのか。

・なぜ高校生活が繰り返されるのか。

・このやり直しが終わったら30歳に戻るのか?

・あるいは大学生活に進んでいくのか?

このやり直しが突然に終わる可能性があるから、俺は下手なことをしでかせないのだ。

どうせ3年間でリセットだ、なんて気持ちで悪目立ちを重ねて過ごした場合、もしリセットされずにそのまま大学生になってしまったらどうする?犯罪に限らず、ちょっとした学校での悪名だけでも、一生クラスメイトの同窓会でネタにされることになるのだ。あんな痛いやついたよね、わたしあいつと隣の席になったことあって最悪だったよ、なんて陰口を肴に酒が消費されていくのだ。絶対に避けたい事態だ。


話が逸れたが、3度目のやり直しが始まった時、その日記はどこにも見つからなかった。

30歳まで生きてきた中で書いた日記なんて小学低学年の宿題絵日記くらいのもので、俺としては頑張って書いた方だったというのに。

探偵よろしく、もしかしてこれがヒントじゃないか?なんてのを箇条書きにしたり、クラスメイトの相関図を作ってみたり、最終日には到底日記と呼べるものではなくなっていたが。

日記がやり直しに持ち越されないことを知った時、謎の解明のヒントがなくなったことよりも、約1000日以上書き溜めた努力が消えたことがショックだった。

手塩にかけて育てた後輩が、突然退職届を俺に出してきた時に似ていた。今でも思い出せば胸が

痛むのだが、俺の2歳下で入ってきてから3年間苦楽を共にしたのに、退職後は一切の連絡も取れず、ああ、人間関係ってのはこんなものかと落胆したのを覚えている。その時から俺は後輩に対して、同僚に対してもあまり期待をしなくなった。

そのころから自分の仕事を自分で抱えすぎるのが癖になり、上司にも何度か注意されたことがあったな。「頼れるときは人を頼れ」と。「抱えすぎて爆発してからでは遅いから、導火線に火が付いたと気づいたら、いち早く大きな声を出せ」と。(それがそう簡単ではないから、社会人のストレスはなくならないのだが・・・。)


昔のことを考えていたら、もう日付が変わっていしまいそうだ。

さて、明日は委員会決め。司会を行うというのは心底面倒だが、仕方がない。

新年会やら忘年会の幹事が面倒だったように、複数人を取りまとめるのは本当に面倒だ。やり終えた時には達成感があるのだが、そこまでがとにかく大変。というかそこまでのモチベーションを保つのが難しい。やり遂げたら給料アップ、なんて言われればまだいいのだが、あれはただのボランティアだったし。


そして実はかなり気になっているのが、相田との接触が過去よりも一週間早かったこと。さらに言えば司会に指名されたのなんて今回が初めてだ。これは毎回変わる教師の気まぐれなのか?それでも少し気になる。

相田は1回目から今回までフル出場のクラスメイトで、入学から二週間後に行われる新入生交流合宿で同じ部屋割りになる。そこで他愛のない会話をしたくらいで間はスポーツのできる友達を作っていき、俺と話すことも特になくなった。5回ともそうだった。

少し注意して動こう、明日は。じゃあ、おやすみ。



ーー自己紹介、相田の早い登場、司会指名。少ない要素だが、今回のやり直しは何かが違うかもしれない。そんなことを思いながら眠りについた。













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