業火
何とか大通りを抜け、命辛々踏切の側まで逃げ延びる事ができたが、次の空爆が来るのも時間の問題だ。
建物に逃げるのは危険だ。取り敢えず左側にある公園に逃げないと。死ぬ。
そう思っていた時だった。
「良佑!」
急に呼ばれて、声のした方に振り向く。そこには、クラスでも美少女として有名な、そして俺のはとこに当たる千栄子がいた。
「千栄子!どうした、腕に傷が…」
「うん、ガラスの破片で切っちゃった。でも浅いから、簡単な応急処置をすれば治る。多分。」
"たぶん"…この言葉が頭に残る。よく漫画やアニメで、戦闘中に負傷し、「『たぶん』大丈夫」と言ったキャラクターがそれなり確率で死んでいくのを見ていた。
しかし今はそんな暇はない。今すぐ公園に逃げなければ、そう思い、千栄子の手を取って、公園へ向かって走り出そうとした瞬間だった。
聞き慣れない不協和音が、その場にいた全員のスマホやタブレットと言った機器という機器から鳴り出したのだ。
その、瞬間だった。
聞いたこともない重低音が、耳のすぐそばで響いた。
体が、少しづつ灼けていく様な感覚に陥る。
…ああ、俺はここで死ぬんだ…
そう思いながら、最後の景色を目に焼き付けながら、ゆっくりと目を閉じた。