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枯れた街  作者: そーゆ
前夜と幕開け
4/5

ハルマゲドンの夜明け

錆びた雨水管や外壁塗装工事途中の足場や防音シートが目立つ校舎を尻目に、いつものかつ丼屋へ急いだ。

教室の扉を閉めるのが、最後とは知らずに。


かつ丼屋は空いていた。なんせ平日の昼間だから。

「らっしゃい!」

店主の気前良い声が耳を劈く。


良佑(りょうすけ)!学校は?」

「終わったから来てるんですよ。ヒレカツの並盛一つ。」

「あいよ!」


言って後悔した。一杯1210円に値上がりしたヒレカツの並盛を頼むことで、もらった小遣いの残金が600円を切ることを。店主の調理姿を見るのに飽きて、メニュー表に手を伸ばした。特盛1530円、鶏丼1320円、ノーマルかつ丼950円。最後にここに来たのは先週。並盛は千円札一枚で食べられたはずだったんだけど。


「なぁ、おじさん。」

もう聞き飽きたよ。という顔でだるそうに答える。

「材料と野菜だよ。」


目の前のカウンターに座って、真っ先にメニューを見る客のいう事なんざ一つだと言わんばかり。


「やっぱり高いんすね。前から安くはなかったけど。」

「ここらは都市部だしなぁ。ここは駅前だからまだマシだが、ガソリン代はよう高いよなぁ。」

昨日のニュースで、平均的なガソリン価格が1ℓ当り200円の大台を突破したと、各局が報じていた。

「ここならばまだしも、群馬でラーメン屋台やってた俺の友人は、車検代はかかるわガソリンは高いわ、走行距離税もバカ高いわでもう店を畳んじまったよ。」


「野菜も高いですか。」

「高い高い。今年は不作らしいん。大雨あっただろ?夏休み真っ只中に。そんでネギだの白菜だのがよう上がってなぁ。」


「肉は?」

「肉も。豚や鶏に食わせるエサが高騰しとって、肉の値段にもツケが回ってくるんだと。」


餌か。この店の売りは国産でストレスフリーに育てられたいいとこの豚を使ってることでもあったが、ストレスフルになってるのは食べる側だったようだ。


「おまけにあれさ。」

「例のアレ(・・)ですね。」


湯切りザルが激しく頷く。


「自民のマッドマンが始めた、ほら、『生産税』だっけか?」


「農業振興生産税、ですね。」


「そだ、それ。」


農業振興生産税。農業分野での若い後継者の不足から、特定分野の食糧に課される税らしい。農業支援の予算に使うらしいが。


「ただでさえこっちは消費税が20%に上がって大変だっつーんに。まだ税金搾り取られちゃ、たまんねぇよ。はい、お待ち。」


橋差しから一膳。


「まぁ政府の世襲議員共は国民の生活なんて考えてないんじゃないですか。いただきます。」


「うまい。」


「そりゃよか。」


よか、という事は決まっていたことを知らないふりして食べ続ける。妙な緊張時間が走り去る前に口を開くのはいつも子供の俺の方だ。


反射光に移る店主の後ろ姿を尻目に、残りの飯を口に掻き込んだ。


「はい。1210円。悪いな。」

「いえ、また来ます。ごちそうさまでした。」

「じゃあな!」


かつ丼やから大通りに出て、家への近道である永井踏切を待っていた。行く当てはない。来年から受験学年(中学3年生)なのに「行く当てがない」といって自習室に行こうとしない俺を、どこかで攻める俺がいた。進路に興味がないわけではない。でも態々義務教育ですらない高校に行く意味も感じない。妹のように、中学校から私立に行って何か特別な物を学びたい!という欲があるわけでもない。かといって就職しようという気も起きない。こういうのを何て言うんだっけか。忘れた。


そう思いながら、やっと開いた踏切を渡り、反対の大通りに辿り着くその時だった。


信号待ちをしていた車が飛んだ(・・・)


「え?」


ほどなく、辺りは炎に包まれた。


「ヌゥァァァァァ!」


自分でもなぜ目を開けていられるのか分からない。さっき右側で右折待ちをしていたはずの、黒塗りのアルファードが右奥の雑居ビルに飛んで行った。炎に巻かれる。まずい。必死になって来た道を踏切側に戻る。


何台の車が飛んだだろう。1分ほどに感じた出来事は、後から知ったがものの数秒ほどの出来事だった。地震か。事故か。暴走車でも突っ込んできたのか。それにしては交通再開を知らせるエンジン音が聞こえない。というか、痛い。立ち上がるのもやっとだった。幸い血は出ていなかった。服が若干焦げていた。でもやけどまでは至ってないだろう。恐らくだが。


気を付けながら、戻った道を戻る。


「は?」

思わず出た声に自分で驚く。

自分が信号待ちをしていた交差点は、奈落へと姿を消していた。

「陥没...!?」


一度ニュースか何かで見たことがあった。大阪かどっかの大都市で大通りに大穴が開いたのを。だが今回はおかしい。ポルシェに突っ込まれた雑居ビルが倒壊し、その近くの歩行者もパニックに陥っていた。んしても被害が尋常じゃない。でも地面は揺れていない。何が起こった。


その地鳴りの正体は、聴力がいいおかげですぐに分かった。

空からエンジン音が聞こえる、移動するスピードを概算する限り、少なくとも民間の飛行機ではない。これは、、、、

軍用機だ。

つまりこの大穴を開けたのは…

空爆だ。

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