団欒と屍
「…?」
火の音と暖かさで、私は目を覚ます。
眠い目をこすりながら、視線を音の方に向けると、そこには、コップ片手に瓦礫に座る敵の姿があったのだ。
「うわあああああ⁉」
思わず大声を上げる。敵側も私が急に大声を上げたのかビックリしていた。しかし慌てながら20式5.56mm小銃を持つ。私の護身銃だ。
「あんた、私が何者か分かっているの⁉」
「言うまでもない。俺に銃を向けてくるやつは敵だ。あとその銃空だ。俺が抜いといた」
話し方、彼の雰囲気、声…まさかまさかだと思うが、恐る恐る彼に問い詰める。
「あんた、名前は?私は杉藤…」
「お前の下の名前は『めぐみ』で合っているかな?」
男の兵士は、一発で私の名前を当てた。間違いない、昔、何らかの形でこの男と会っている。まだ誰かは知る由も無いが。
「俺は松崎浩太、久し振りだな、杉藤。」
まさかだった。あの不真面目クソエリートと、こんな形で再会するとは思わなかった。
松崎浩太、小学校入学までに義務教育範囲を履修し、小4の時には大学生のやる事と同じ事に手を出したクソエリートだったが、その異次元の秀才と引き換えに考え方はサイコだった。自らが利益を得る為なら、上手な嘘でも会議中の分断工作でもなんでもする。
「あ、松崎くん、久し振り…」
「まさかお前とはこんな場所で会うとはな。」
しかし、私は、東雲を殺された悲しみと憎しみを思い出し、憎悪に駆られるがままに彼の胸ぐらを攫み、拳を振り上げた。
「ねえ、東雲を殺したのってあんた?」
彼は黙り込む。正直な話、人を殺すために慈悲は要らない。慈悲があれば躊躇が生まれ、その躊躇が死に直結する。と思っていたからだ。しかし、ここで『彼を殺した』なんて言ったら、間違いなく頭を撃ち抜かれてTHE ENDだ。
「…殺してない。俺は後ろから来た。恐らく撃ったのはまた別の兵士だ。」
「…そっか、疑ってごめん。」
彼女はそっと拳を降ろした。
その後、松崎少年は、杉藤に真実を告げた。
「お前が狙撃している間に、あんたは包囲されていた。最後にアンダーソンを殺したのが運の尽きだったな。お前さんの位置と使ってる銃が特定されたよ。で、捕虜から尋問して聞いた名前が、お前の名前だったから、お前が旧友を殺すか殺さないかを賭けてここに来た訳だ。」
…成程ね。そう言う事だったのか。
そして、私はほぼ無傷でNSAの捕虜になった。