瓦礫の中で
瓦礫の中から、一本の銃身が窓の外を覗いている。その遥か先には、一人の兵士が見える。
金髪に蒼目、国民救済同盟(通称:国救同)の欧米義勇兵だろうか、そう思いながらスナイパーライフルの引き金を引く。
スコープ越しに、砕かれた脳の欠片と血飛沫が見える。本来の人間ならば(よほどの異常性癖でない限り)その様子は吐き気を催すものだろう。
今日もまた、一人の人を殺した。本来ならば高校受験勉強と共に青春を謳歌する世代である彼女は、日本内戦という一つの国難を前にして、日本政府軍の一狙撃兵として人を殺す立場にあったのだ。
「おい、杉藤、、、こんな所で何をしているんだ。」
「何って、狙撃だけど、分かってる?東雲くん?私は狙撃兵なの!」
「いや、そうじゃなくっ…」
しかし瓦礫の山の中での束の間の平和は、吹き飛んだ。
かつての東雲は、顳に弾を受け、即死だった。
「嘘でしょ、嘘でしょ…」
確かに志願した時の上官が、昨日まで語らいあっていた親友が、今日は肉片になって帰ってきたという事がザラにある、と言っていたが、実感を齎さなかった。戦争を、外国の、遠いものだと思っていたからだ。
しかし、そんな彼女の常識は、たった今音を立てる事なく崩れ落ちた。
その時
誰かの足音が近づく。
「……………」
新たに現れた気配。取り敢えず、東雲の愛用していた9mm拳銃を彼の軍服のポケットからこっそりと盗み、息を殺して気配のする方向に向ける。
来た!
そう思い、彼女は引き金を引く、しかし、彼女の盗み取った銃に、弾など入っていなかった。東雲が愛用していたはずの9mm拳銃は、お守り的な存在だったのだろう。
絶望し、全身から力が抜ける。感情も、家族も、友も、自分の死を躊躇わせる邪魔だと気づいた。何もかも全て忘れて、このまま殺されよう。
そう思い、彼女は歪んだ視界を闇に落として、意識を沈ませた。