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七、 せめて、オタクらしく

正直、あのキンブレはもうオレの手元には返ってこないものと思っていた。

テクオ氏のことだからどうせ汚い部屋での一人暮らしだろうし、その中から遺族の方がわざわざキンブレ一本を探して返してくれたり、またこちらから返してくれと申し出る気もなかったので、きっとうやむやになるだろうと考えていたのだ。


それがなんということでしょう、またあの "悪魔" がオレの元へ戻ってきてしまった。

これもあの日、雨の新宿で偶然にこれを拾ってからの因縁なのかもしれない。

いや、そもそも拾ったこと自体が偶然ではなく必然なのかもしれないが……。


さて、この悪魔のキンブレを今後どうするべきなのか。

自分なりに思いつくだけの選択肢を挙げてみた。


①特に何もしない、ほっておく

②気持ち悪いから捨ててしまう

③神社やお寺で供養してもらう

④現象をSNSに投稿してバズりを狙う

⑤これは一体何なのか研究機関的なところで詳細に調査してもらう

⑥探偵ナイトスクープに依頼する

⑦落とし主を探して返す



①②はまずない。


こんな魔訶不可思議な現象を目の前にして放置または単に捨てる、というのはただの思考停止だろう。

我々オタクは、人間である前にオタクなのである。

よって、常にオタクらしい規範に則り行動を起こすべきだと思うのだ。

オタクとは、


 こだわりのある対象を持ち、

 その対象について惜しみなく時間やお金を費やし、

 深く研究して知識を重ね、

 発信活動や創作活動を行うことである種の文化としてまで研鑽していくもの、


だと思っている。

そう、我々オタクは文化の探究者なのだ。

その探究者が『よく分かんないから捨てる』とは完全にオタクの名折れであり、それはないだろう。

知識の敗北である。


次にないのは⑥である。

もちろんオレも大好きな番組で、⑥を行うことで⑤の内容も含めて実施されそうであるが、なにぶんあの番組は依頼者の顔出しと本名、そして年齢表記がデフォなのである。

ネタとしては面白く、採用される可能性は十分ありそうに思うが、だからと言って全国区の人気番組でアイドルオタクとしてモロ晒されるなどありえないだろう。

これは社会的な死を意味するものであり、よってもしかしたら①②よりもないのが⑥である。

『オタクに誇りを持っているのか、いないのか、どっちなんだい!』、と思われるかもしれないがここはどうか分かって欲しい。


④は難しいところであるが、テクオ氏の死を思うとこれは安易にやってはいけない気がする。

昔読んだ短編小説で、このようなものがあった。

あるテレビ局が、現代社会の中でひっそりと隠れるように極貧生活を送っている孤独な老人を見つけた。

その老人についての特集をテレビ放送したところ、同情した世間から大反響を得て高視聴率をたたき出し、再放送も繰り返しされ、テレビ局は大喜びした。

しかし、その老人の正体は実は貧乏神であり、見た者全てを貧しくする力を持っていたのだ。

それから日本全体が原因不明の大不況に陥った……という話である。


あくまでフィクションであるが、悪魔のキンブレも同じような性質があるような気がする。

簡単に世に出してはいけない類の、ある種の呪物ではないかと感じるのだ。

これに確証はないが、オタクの直感である。つまり全然あてにならないのだが。


⑤は現実的であると思う。

元々オレも詳しい人に意見を求めたくてテクオ氏に相談したわけである。

テクオ氏の死は偶然だったのか必然なのかは分からないが、ともかく専門家に委ねてみたいところではある。

⑤の結果、何も得られるものがなければいよいよ③だろう。

映画『エクソシスト』(1973)における、悪魔に憑かれた少女と神父の戦いのステージだ。


ただ、それは⑦の後でもよいだろう。

これはうすうす考えていたのだが、元々このキンブレは誰の物なのか?である。

なぜ新宿のあの場所に落ちていたのか。いや、落としたのかあえて捨てたのかも分かっていない。

そして"あの力"がある事をそいつは把握していたのか。


ともかく商品であるからには以前の所有者がいるはずで、その所有者を探して返すなり事情を聞くなりしてみたいのは確かである。

通常ならば落とし物として警察に届けるのが筋であろうが、半月も前に拾ったものを今更届けるのも変な話だろう。


しかしあの一見何の変哲もないキンブレに、元の持ち主に辿りつけるような情報など……

あった、ひとつあった。キーホルダーである。


元々あのキンブレにはアクリルのキーホルダーが着いていたことを思い出した。

少し汚れていたし要らなかったので、拾った直後に外してカバンの中に放り込んだはずだ。そこに何か手がかりがあるかもしれない。

オレは急いであの日持っていたトートバックを開いて中を探した。


見つけた。

それは4cm四方の正方形の透明なアクリルの中に、四角形の紙、いわゆるペーパーが挟まっている、よくあるタイプのアクリルキーホルダーであった。

普通のミュージシャンやアーティストのCD購入特典などでも見かける、いわゆるチープな物である。


その中の紙に印刷されてるのは、シンプルな丸Aマークであった。

一方側には白地に黒文字で、丸の中にゴシック体の大文字Aがプリントされ、

逆サイドには黒字に白文字で丸の中にゴシック体の大文字Aがプリントされている。

ただし、両サイドともにAの横棒部分が赤と青の二本線なのである。特徴としてはこれだけだ。

何かの名前だとか、言葉だとか、そんな記述は一切なくAマークだけである。

なんだAって。


それでもいろいろとネット検索しして分かったことがある。

このゴシック体の丸Aマークは、『サークルA』と呼ばれるアナーキズムのシンボルであった。

アナーキズムの詳細な歴史は省かせてもらうが、『サークルA』は1970年代後半に発生したセックス・ピストルズをはじめとしたパンク・ロックブームにて使用され、現在でもパンクスファッションには欠かせないマーク/モチーフとなっている。

つまり、世界的に超有名なマークなのだ。


その中で特徴となるのが、このAの赤青の横二本線である。

しかし通常の『サークルA』はいくらでも出てくるが、どれだけ検索しても全く同じ形が見当たらないのだ。

恐らく『サークルA』をアレンジした何かのマークなのではあろうが、それが何か分からない。

キーワードをいろいろ変えてみたり画像検索もしたが、結局お手上げであった。


これは一体何のマークなのか。そこで、困った特のオタク頼み。オレはダメ元で、スマホでそのキーホルダーを撮影してTwitterに投稿した。


シューゴ「これってなんのマークか知ってる人います?」


オレの約600人のひょろわーさんの中でこれが分かる人はたぶん居ないとは思うが、それでも多少は拡散されて何かヒントが得られるかもしれない。

そこから、元の持ち主までどうにか繋がれればラッキーだ。


しかし、そのツイートのたった2分後である。

なんと、あるひょろわーさんからズバリとなるリプライがあったのだ。


ケンタ「それAAMUSアームズのマークですよ。懐かしいですね。」


正に知識の勝利である。

誇るべきはオタクである、オタク万歳!!

※ただし顔出しと本名/年齢公開はNGで。


〜つづく〜

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