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四、 なんと面妖な

EiTのイベントが終わり、オレは渋谷O-nestオーネストを後にした。

ライブキッズが行きかうライブハウス通りの坂を登りながら、今しがたキューティクルズの特典会で撮ったかりんちゃんとの2ショットチェキを見直した。

しょうもない顔のオレと、天使のようなかりんちゃんの笑顔がそこには焼き付けられている。


かりんちゃん「今日、急にうしろの方へ行っちゃったよね?どうしたの?」


ですって!

あれだけのパフォーマンスをこなしつつも、自分のオタクの動向をステージ上からチェックしているとは、何とも素晴らしい推しではなかろうか。


「いや、ちょっと。今日はあえて後ろからコールの後方支援をしようと思ってね」

「へー、さすが」


といった、特に面白くもない会話をして今日の特典会を終えたのである。


腕時計を見ると、16時を越えたところだ。

この日はキューティクルズも一現場であり、この後の予定は特になかった。が、気にかかるのは例のキンブレである。

さすがに二本とも壊れてしまっては、早急に新調しなくてはならないし、次のキューティクルズのライブはもう明日の日曜日である。

※因みに、昨日の金曜から三日連続のライブであるが地下アイドルにとっては特に珍しいことではない。


取り急ぎ、本当に二本とも壊れてしまったのか動作確認を行う必要があった。

オレは道玄坂に出るとファミリーマート・道玄坂中央店前の街路樹の縁石に腰を下ろし、二本のキンブレを取り出して光らせた。

まだ陽は高いが、木陰でキンブレが点灯していることは十分視認できる。

そしてここで、オレは驚愕の事実を知ることになるのだ。


先日、新宿で拾ったキンブレをAとしよう。

以前から使っていたキンブレはBとする。

B単体では何も動作に異常はない。点灯も消灯も、色の切り替えもメモリー機能も問題なしだ。

A単体、こちらはやはり電源を入れた当初は問題なく動作するが、しばらくすると例の事象が発生する。

何色を灯していようが、勝手に赤色に切り替わるのだ。その間、約15秒。

その状態になると全てのボタン操作を受け付けなくなり、何をしても赤色から変わらず、消灯するにしても電池を抜くしかない。

この事象は必ず発生して、再現率は100%である。


しかし真に驚くべくはこの後である。

Bのキンブレを例えば青に点灯しておこう。次にAのキンブレを点灯して放置しておく。

するとAのキンブレが赤へ自動的に切り替わる。それからややあって、Bのキンブレも赤へと変わるのである。

そうなるとBのキンブレもAと同様に電池を抜く以外に、何もボタン操作を受け付けなくなるのだ。


何とも面妖なことではあるが、先ほどのキューティクルズのライブ中に二本ともが赤色に切り替わったのは偶然ではなかったのだ。

Bの色をさまざまに変えて繰り返し実験してみたが、Bが何色であろうとAにつられて赤色に変わる、ように見える。

こちらの再現率も100%である。


「なんと面妖な……」


今度は声に出して驚いた。

こんなことがあるのだろうか……いや、実際に目の前で発生しているのだから疑う余地はないのだが。

オレは自分は理屈っぽい性格だと自覚しており、超常現象やオカルト、スピリチュアル等を信じる性質たちではない。

しかし、これは仕組みが説明できない。


Aから何やら怪電波が発せられて、それにBが反応してしまっているのだろうか。

Aを点灯している限り、Bは何度電池を抜きなおしても、赤の強制点灯状態になる。

そしてAの電池を抜くと、やがてBは常時動作に戻るのである。


何度試しても同じ結果となるので、オレは頭が変になりかけた。

これは誰かに話したいし、なんなら相談したい。この状態を是非見て欲しい。

キューティクルズのオタク達は、先ほどのライブ終了後に別のアイドルのライブがあるだとか、どこかへ飯を食べに行くとかでもう散り散りとなってしまっている。

しかし誰にこんな珍妙な現象を話すべきか……そこでふと頭に思いついた。あの人物しかいない。


オレは以前に通っていた現場でよく一緒にいた、電子工作に強いオタク、テクオ氏を思い浮かべた。

テクオ氏の正確な年齢は知らないが、見た目40代後半から50代の恰幅のあるおじさんオタクだ。

かつて推しの生誕ライブで『孔雀くじゃく』と呼ばれる巨大な半円形の自作改造ペンライト二つを超高照度で輝かせ、息子ほどの年齢の若い運営にガチめで怒られた経歴の持ち主である。


彼なら何かこの現象の原因が分かるかもしれない。

テクオ氏のTwitterを確認すると、今日もアイドルライブの現場にいるようだ。相変わらずな人である。

オレはテクオ氏へDMを送り、興味深い相談があるので今日どこかで会えるかと尋ねてみた。

ややあってから、返答があった。

20時頃、JR大塚駅あたりであれば問題がないとのことだった。

数えてみると、彼と会うのは実に4年ぶりである。


~つづく~

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