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第一章 都市伝説№33「砂瞳子さん」 p.1

「7days」それは日~土で循環する時の流れ。


 1st days


 世間が休日で賑わう中、この工業地帯は静寂に包まれていた。

 この工業地帯には今はもう機能していない一軒のビルが建っている。そのビルは12階建てで一面ガラス張りで、かつて雑誌の出版社として機能していたが現在は当時社長の親戚の男が住み着いている。


 その男はビルの4階で生活している。その4階は廊下と部屋を仕切る壁がなく、50坪の広々とした空間に10本の柱が立っていて、床壁天井全てコンクリートが剥き出しになっている。感覚的に言うとデパートの地下駐車場によく似ている。

 しかし地下駐車場とは違い、このビルは一面ガラス張りになっているので部屋には明かりが射しこむ、はずなのだが生憎今日ガラスの向こうに広がっているのは曇り空だった。

 空覆う雲はダラダラと雨を垂れ流している。ガラスにぶつかった雨粒はガラスをつたい止めどなく下へ流れていく。

 雨と剥き出しのコンクリートのせいか、薄暗い空間には冷たい空気が流れ、壁や床が冷気を放っているように感じる。

 その寒さに耐えかねたこの部屋の主が目を覚ました。

 男の名は古月ふるつき 砂禊さはら、妖怪画家をしている22歳の青年だ。

 砂禊は広々とした部屋のど真ん中に置かれたベットで寝ていた。目覚めた砂原は携帯で現在の時刻を確認した。時刻はPM:04:30。彼は体を起こし、とりあえず寒さに身震いした。

 それから彼は寝起きでぼさぼさの髪の毛を掻きながらトイレへと歩いて行った。


 彼の職業は妖怪画家なのだが、彼の場合は書物や資料を元に妖怪を描くのではなく実際に己の眼で見たものを油絵で描いている。彼が描くのは東洋や西洋の妖怪や妖精など実に様々だ。

 彼には霊や妖怪を見る力がある。そして画題になる妖怪達に危害を加えられても対等にやり合える程の知識と戦闘能力を兼ね備えている。

 

  その後トイレから戻った砂禊は、ベットの傍にあるクローゼットから着替えをとりだし2階にあるシャワー室へと降りて行った。


 静寂に包まれる部屋。その西側に置かれているイーゼルには彼の描きかけの絵が置かれていた。

 絵にはベットの上で仰向けで寝ている若い女性姿が描かれていた。だがそれは普通の女性ではなく、その女性には眼球がなかった。そしてその何もない眼窩から真っ赤な血の涙が流れ出ていた…



――石鹸を流し終わり、俺は蛇口をひねりシャワーを止めた。

 シャワーが止まると立ち昇っていた湯気は消え、このシャワールームは冷たい空気で満たされた。

 俺は寒さに耐えきれず直ぐにタオルを体に巻いた。そして湿気を含んだタオルで顔と頭の水気を丁寧に拭き取り、体を適当に拭った。

 服を着た後ドライヤーで髪を乾かしながら、熱風で肩や首筋を温める。

 そうしてると上半身は徐々に暖まり、寒さで縮こまった体がゆっくり溶かされてゆく。


「絵を描き始めて今日で何度目の1st daysだろう?」

 ドライヤーを止め、目の前の鏡に映った自分にそう呟いた。

「1st days」それは週の始めの日、つまり日曜日の事だ。そして今日1月17日は俺が妖怪画家として動き出した日でもある。

 11年前の今日は俺の妖怪画家としての1st days.確かあの日も日曜日だった…が、まぁそんな事はどうでもいい。


 俺はシャワールームを出て階段を上った。

 因みにこのビルにはエレベーターが付いているが電気代が心配なので作動させていない。

 4Fに戻り、俺はクローゼットから取り出したよそいきに着替えた。そしてクロ―ゼットの側面に取り付けられている姿見で身だしなみを整えた。

 映っているのは全身黒ずくめでロングブーツを履いた自分の姿だ。髪は肩まで伸び、薄ら不精髭が生えている。

「あ、剃るの忘れてた」。青みを帯びた顎を撫でるとザラザラした感触が伝わってくる。今から出かけるのにこの剃り忘れた髭のせいで気分も顎も若干blueになってしまった。

 それと肝心な出掛ける理由だが、それは今俺が描いている絵のモデルである“砂瞳子さん”に会うためだ。

 その砂瞳子さんについて調べた資料をテーブルの上から取り、俺は階段を下りてかつては自動だったドアを手で開け外へと出た。

 小雨がチラつく道を傘をさして、前日調べた砂瞳子さんの資料に目を通しながら歩いた。

 今更かもしれないが俺が絵のモデルにしている砂瞳子さんは人間ではない。

 3日前彼女に遭遇した俺は、彼女に絵のモデルになってもらおうと接触を試みたのだが結局それはできず、その後彼女の姿をうろ覚えでデッサンし、下塗りをしたのだが、あまり良い出来ではない。

 正直今のところ自分のポリシーに反しネットの資料に頼っている状態なので、というか納得いく作品が描きたいので彼女を探して絵を完成させようとしているわけだ。あと許可を取らず勝手にモデルにした謝罪も兼ねて何としても彼女を探しだしたい。


 そんな感じで彼女を探しているのだが、正直のところ彼女がどこに現れるかなどはわからない。偶然遭遇するまで町を歩き続けるしかないのだ。

 しばらくの間左手に傘、右手に資料を持つというスタイルで歩き続けることになるだろう。俺は気長に、右手に持っている都市伝説サイトから印刷した資料を読み返す事にした。



砂瞳子さんの資料(サイトから直接印刷したやつ)

――――――――――――――――――――――――――

心霊都市伝説サイト「Area7」


一言:心霊好きな管理人が運営する心霊都市伝説情報サイトです。



―都市伝説№33「砂瞳子さん」―

カテゴリ:九州・沖縄 2010/1/4(月)15:34


 新年あけましておめでとうございます。

 今年も頑張って更新していきますので、どうぞよろしくお願いします。


 新年最初に取り上げるのは最近九州で囁かれている都市伝説「砂瞳子さん」です。

 この砂瞳子さんはまだあまり有名ではないせいか、いろんなパターンの噂が無数に流れています。

 そこで私が独自に調べた結果、特に多かった共通の特徴を書き記したいと思います。

 

―砂瞳子さんの特徴―

・砂瞳子さんの正体は脳内出血で亡くなった若い女性の霊。

・砂瞳子さんは目玉がなく血の涙を流した姿で現れる。

・砂瞳子さんは主に悪事を働く人の所に現れ、その人の目玉をドロドロに溶かし殺す。

・砂瞳子さんにはペットが居て、そのペットは砂瞳子さんの目玉に命が宿った物である。

・時に砂瞳子さんは脳に異常がある人のところに現れ、その人の脳の異常を吸い取り血の涙を流す。


 以上が私が調べた結果わかった事です。


 悪を滅ぼし、脳の異常を吸い取ってくれる良い幽霊のようにも聞こえる反面、子供が悪戯しないように大人が作ったよくある話のようにも聞こえるようなきがします。

 

 他にも調べた結果、この都市伝説は沖縄県から九州に広がったという事がわかりました。

 そこで沖縄県を中心に調べた結果、なんと砂瞳子さんは“実在”の人物だという事が判明しました。

 ではわかった事を書きます。


―沖縄県の砂瞳子さん―


 本名:東江砂瞳子あがりえ さめこは地元の普通高校に通う女子高生だった。

 3年生になった彼女は、脳の血管の一部が膨らんでる事が検査でわかり地元の国立病院に入院するが、高校生活最後のクリスマスを迎える前の12月8日に蜘蛛膜下出血で亡くなってしまう。


 これは地元のニュースでも流れた実際の話で、砂瞳子さんの原型となった話であると言えよう。


 あと本当かどうかは不明だが、彼女は亡くなる時激しい頭痛に苦しみ、病室のベットの上で血の涙を流していたそうだ。

 他にも霊安室に置かれた彼女の遺体がいつの間にか無くなっていたという噂も流れている。


 いずれにせよ都市伝説の通りに彼女がこの世を彷徨って悪を滅ぼし、自分のように脳の病気で苦しんでいる人を助けるかどうかはわからないが、蜘蛛膜下出血で苦しんで亡くなった彼女の冥福を心から祈ります。


コメント:12 トラックバック:4

 

――――――――――――――――――――――――――――――



 こんな感じの資料を何枚も見ながら歩いていると、いつの間にか街を一周して自分のビルの近くまで戻ってきていた。今頃気付いたのだが、資料を見ながら歩いていたら目の前に砂瞳子さんが現れても多分気付かずにすれ違ってしまうのではないか?

 間の抜けた自分に呆れたがもう一度街を回るほかない。若干しんどくなってきた。

 そんなわけで自宅近くの交差点に立ち少し考えてみた。周りを見ず資料だけを見て歩いていたおかげで砂瞳子さんの情報を多く頭に取り込む事が出来た。それを元に砂瞳子さんの現れそうな所を考えてみた結果それらしい場所が思い浮かんだ。ちょうど信号も変わったところなので早速その場所に向かう事にした。


――あれから15分程度歩いた。角を曲がり辿り着いたのは人気もなく、地元の不良の溜まり場になっている遊技場の並ぶ路地だ。地元の子供たちもよく利用する商店街から一歩抜けただけでこのダークな空間につながっているので子供たちに悪影響がないかとても心配だ。

 本題に入るとして、この場所に来たのは砂瞳子さんが人気が無い割と治安のよろしくない場所に現れる事に気がついたからだ。まさにここはそれにぴったりの場所だ、しかもこの前俺が砂瞳子さんと出会った場所もこの近くなので、この場所を探せば砂瞳子さんと会える可能性が高いと思う。

 早速路地を探索してみるが路地の様子がいつもと違う。と言うかあまりこの路地には来ないのでこれが普通なのかもしれないが、前にこの路地に来た時はもう少し人気があり遊技場からも不良どもの笑い声が漏れ出ていたのだが、今日は人が全く見えないし笑い声も聞こえない。


 実はこの時この路地周辺で砂瞳子さんに人が殺される事件が多発していて路地に人が寄り付かなくなっていた。俺が初めて砂瞳子さんと出会った時も実は彼女は人を殺していたらしい。新聞をとっていない俺は事件についてもあまりよく知らなかったし犯人も人間だと思っていた。しかも全国各地で現れる彼女が一つの土地で頻繁に現れ大量に人を殺しているなど予想だにしていなかった。よく考えれば路地に隣接する商店街も今日は人が少なく、実態のわからない連続殺人事件に怯えているようだった。まぁこの事実を俺が知ったのは後々の事で現時点で俺はまだ無知である。


 そんな無知な俺が歩いていると雑居ビルの外階段から息を切らしながら一人の男が駆け下りてきた。俺はその男に見覚えがあった。その男は以前この路地で俺にナイフを突き付け金品を奪おうとした腐れ野郎だ。勿論ボコボコにして散々怖い目にあわせてやったのは言うまでもない。

 その男は俺を見るや直ぐに駆け寄り助けを求めてきた。しかも男の手にはナイフが握られている。

男:「あんたはあの時の! 頼む助けてくれあいつは人間じゃねぇ!」。うろたえながら男は言った。こいつは以前俺の霊能力で散々怖い目にあったのだが、どうやら今回は霊能力で守ってもらおうと思っているらしい。

俺:「何があったんだ?」。俺が尋ねると男は話し始めた。男はこの路地で高そうな腕時計をしている女性に目を付け、女性の後をつけて雑居ビルまで入った。そしてナイフで脅し腕時計を奪おうとしたその時女性が振り返ると…

俺:「目玉がなかったんだな?」。男が言い終わる前に俺が言うと、男はびっくりした顔をして詰め寄ってきた。

男:「あいつを知っているのか!? わかるなら助けてくれよ!」

 高そうな腕時計を見ただけで犯行に及ぶこの浅はかすぎるこの男の思考回路と知能を俺は理解できない。俺が苦笑を浮かべていると外階段から一人の女性が降りてきた。目玉のない長髪の女性それはまさしく砂瞳子さんだった。

俺:「意外に早く会う事が出来たな。つか時計なんか着けてないぞ」。それを聞いた男がびっくりして砂瞳子さんの手首を見た。時計をつけてない砂瞳子さんの手首を見て男は脱力した。

俺:「餌に引っかかった鴨だなお前。彼女は悪人を殺すらしいぞ覚悟した方がいいな」。俺が他人事を言うと男は「詐欺」だの「罠にはめて人を殺すなんて卑怯」だのうろたえた。日ごろの行いが悪いから目をつけられるのだと言ってやりたかったのだが呆れてものも言えなかった。

 とりあえず共犯だと思われたくないので男を差しだしたいのだが、俺の居るこの場面で男を殺されたら流石にまずい。今思えばこの時の判断は正しかったと思う、何故なら何かの手違いで俺がこいつを殺した事にされて、さらに誤解が加わりここらで起こっている連続殺人の犯人にされていたのかもしれないのだから…というのは考えすぎかな?。まぁその時の俺は連続殺人などは知らず、ただ一件の殺人にかかわりたくないだけだったのだが。

 俺はポケットから紙の束を取り出した。その紙には図柄と文字が描かれていて簡単に言うとお札のようなもので、このお札を俺は「マーカー」と呼んでいる。呼び名からわかると思うが、これは霊専用のペイント弾のようなもので霊にこのお札を当てるとその霊がマークされ追跡がしやすくなるのだ。因みにマーカーは投げやすいようにトランプぐらいの厚さになっている。

 俺はそのマーカーを投げ、それが砂瞳子さんに命中したことを確認すると俺はその場から退散した。

男:「ちょっ!? 待てよ!」。男の言葉を無視し俺は走り去った。ご愁傷様…って言ってやるほどの奴じゃないな。自業自得だし死んで後悔しな、心の中で嘲笑ってみた。

 その後俺はビルへと帰宅した。



 

 









  











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