ヲタッキーズ170 深夜番組の王
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第170話「深夜番組の王」。さて、今回は往年の"深夜番組の王"で有名だけど人気は落ち目のアンカーマンが殺されます。
捜査線上に浮上する女の武器を使う女優、娘を寝取られるプロデューサー、多彩な元妻達。さらに、新エンタメのコメディアイドルまで登場して…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 ガヤという人生
"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"Eスタジオ。
「また例のゴルファーが話題となったね。ファンが楽しみにしてたチャリティトーナメントだけど、あの世界のトップゴルファがドタキャン。夜の女性からのお誘いなら見送らないのに、どっちをドタキャンしろって言うんだょ」
何てつまらないトークだ。しかし、スタジオは爆笑の渦w
「ヤバいヤバい。パンカ、俺って言い過ぎてる?」
茶ズボンに紺ブレの初老のガヤが振り向く。
「いや、プレイ続行だ。プレイ続行!」
「そっか。じゃあそースルょ。今週のゲストは、俺の大好きなSF作家、テリィたんだ!」
「キャー!」
どよめくスタジオ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"は、アキバ発のミニコミ誌だったが、今は世界有数の巨大メディアに急成長w
「テリィたん様?ケイラです。こちらへ」
スタジオの暗闇でモニターを見てた僕に声かけ。番組では、どーやら僕が紹介されたらしく、満員の聴衆は熱烈な拍手w
「ココでお待ちください。今、メイクを連れて来ます。登場はモンロさんの後です」
すると、隣で仕上げメイク中の女優が振り向く。
「Hi。モンロょ」
握手を求めて来る。視線が熱い。
「テリィだ」
「貴方に会えるなんて私、夢を見てるのかしら?」
「ホント?」
思いがけない展開w
「だって、世界一好きなSF作家だもの。"(宇宙)船コレ"は3回読んだ。episode17の"宇宙戦艦ヤマ子"爆沈シーンで涙腺崩壊!」
「僕だって君の映画は全部見たょ」
「ホント?"ミミズ山"も見ちゃった?」
おっと。"ミミズ山"はグラビア時代の彼女の黒歴史w
「もちろんさ。映画はともかく君は最高だった。僕なら君の役は死なせなかったのに」
「そうなの!そうすれば、あの映画でブレイク出来たわ!」
「…それでは、拍手で迎えましょう!世界のSF作家、秋葉原のテリィたん!今宵、花を添えるのはモリィ・モンロ」
ケイラに導かれ、サックスのメロディラインと共に手を振りながらライトが眩しいセットへ。
一張羅の紺ブレ、青シャツ。スタイリストからノーネクタイと逝われ、お腹がスースーするw
セットのソファに沈むとモンロが腕を絡めてくるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「テリィたん!先ず最初におめでとうだ。"宇宙女刑事ギャバ子"がベストセラーになったんだって?」
「ありがとう。とにかく、楽しく執筆出来たょ」
「ウェブ配信は2月14日だって?」
老練なポパィの慣れたリード。
「うん。僕もさっきエージェントから聞いたトコロさ」
「そして…なんとアニメ化が決定した!」
「クェー!」
モンロが奇声を上げて立ち上がり隠し持ってた(何処に?)サイリウムを点灯、サンダースネイクを打つ!
全く想定外の所作に僕自身は呆気に取られたがスタジオは大盛り上がりで手拍子。何となく恥ずかしいw
「ところで、テリィたん。君は、リサーチのために万世橋警察署と一緒にスーパーヒロイン絡みの事件には同行してるそうだね?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
当の万世橋では、敏腕ラギィ警部がスマホでTVを見ながらヲタッキーズとUper Eatsで新秋楼の炒飯を食べている。
「テリィたんって、スマホで見るとデカく見えるね」
「顔が?」←
「え?態度ょw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
トークライブ続行中。
「うん。確か警察に同行してる。でも、音波銃を持たせてくれないんだょ」
「ウワッハッハッ!」
またしても意味不な大爆笑が起こる。ソファの隣ではスイカみたいな爆乳を上下左右に揺らし、モンロが大笑いしてる。
ん?さっきのサイリウムが深い谷間に埋もれて…
「テリィたん、警察のお仕事をしてるの?私、そういうヲタクに弱いの。メロメロよぉ…」
「おい黒服、お会計を頼む!」
老練ガヤのパンカの軽口。スタジオややウケ。
「モンロ、離れろ。テリィたんには、スーパーヒロインの推しがいるンだぞ」
「あらぁ。でも、今は私の(爆乳のw)推しみたいょ!」
「あちゃー!」
モンロはベタッとくっつき、恋人気取りでモタれかかるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻の御屋敷。
「ミユリ姉様。テリィたん、あんなコト言ってるわ…もうデートに誘ったかな?」
「あの胸の谷間なら、とっくにプロポーズを済ませてるわ」
「え。私にはプロポーズしてくれたかったのに」
口を尖らせる常連のハッカー、スピアも"スイカ級"。
自分のツルペタに目を落とし溜め息をつくミユリさん。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はーい!チャンネルはそのママ。この後はミキィ・リィドの"ミッドナイトショー"です。以上、ポパィ・ザセラでした。では、みんな!"明日もヲタク達のトークをお楽しみに!"」
最後の決めセリフはスタジオ全体が唱和。ポパィは敬礼して画面を指差し、パンカとも指を差し合う。
拍手喝采に歓声も飛んでプロデューサーが大袈裟にカットのサイン。僕とポパィは立ち上がって握手。
ソコまでがオンエアだ。
"あーゆー時、どんな話してるのかな?"そう視聴者は思う。如何にもセレブな業界人同士の会話?だが、実際には…
「ポパィ、お疲れ」
「テリィたん…俺は殺される」
「何だって?」
オンエア中は見せない切羽詰まった表情だ。
「君は警察の仕事をしてるんだろう。実は…」
「ポパィ!スゴーく良かったわ!貴方は最高!次回はシマウマにオムツをつけとくわね。ぎゃははは」
「電話スル」
僕に小声で囁き、豪快な女プロデューサーに拉致される。
「おい。ポパィ…」
何だか、ワケのわからない僕。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地が良い。
今日も収録後に顔を出すと、スピアが何やらリュックにパッキング中w
「コレから"縄文人キャンプ"に行くのょ」
「そんなに本が必要か?」
「5日間じゃ読み切れないかな」
なーんて会話をしてたら、カウンターの中のメイド長、つまり僕の推しのミユリさんがネットを見て驚きの声をあげる。
「テリィ様」
「ミユリさん、何?」
「ポパィ・ザセラが亡くなりました」
え。
「どうして?」
「心臓発作ですって」
「そんな…」
呆然とスル僕。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の階段を降りながらラギィを口説くw
「まぁ良いから聞けょ。彼は、確かに殺されると言ってた。こんな偶然ってあるか?」
「テリィたん。あのね、ポパィ・ザセラは以前から心臓の病気を患っていたし、検視報告でも心臓発作と断定されてる。コレは決して偶然じゃないわ」
「検視はルイナか?」
ルイナは、いわゆる超天才で多忙の合間にラボから"リモート鑑識"として捜査を手伝ってくれる。あ、彼女は車椅子。
「まさか。超天才がこんな事件の鑑識、やってくれるハズがナイでしょ。でも、とにかく検視報告書がアルの。目撃者もいて、夜1人で歩いていたら歩道で倒れたとアル。刺傷も痣も毒物もナシ。コレじゃ犯罪として成立しないわ」
パタンとファイルを閉じ、歩き去るラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
数時間後、ギャレーでコーヒーを淹れてるラギィを直撃w
「今朝、担当の女プロデューサーが言ってた。ポパィは昨夜2億円の超高級車に乗り、0時45分"ワラッタ"を出たそうだ。その後、倒れていたのは、彼の豪邸の近所で朝の4時50分だ。し・か・も、彼は歩きだったンだぜ?」
「だから?」
「2億円の超高級車は何処だ?窃盗の疑いがアル」
鋭い指摘にもラギィは聞く耳持たズw
「じゃ遺体に被害届を出すよう言って。大方、億万長者だから誰かに取りに行かせたンでしょ?」
「僕の"太陽系海軍シリーズ"では、自由MARS海軍の将官が月面都市で殺される。ソレも調べても、検出されない毒薬に因ってだ。今回もそうかもしれない」
「テリィたん。悪いけど、貴方のSF小説は全て創作でしょ?そんな毒薬、実際にはナイの。そんなモノがあったら、世の中の恋人達が一斉に殺し合いを始めるモノ」
恋人?夫婦じゃなくて?
「ルイナに再検査を依頼してくれないか。頼むょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ルイナのラボ…はパーツ通りのゲーセンの地下深くにアル。
「遺体を運び込むのに、コネを使いまくったわ」
ルイナは、車椅子にトレードマークのゴスロリ(のスクラブ)。僕は、ストレッチャーの上に載った遺体を覗き込む。
「僕の勘違いなら、必ず埋め合わせスルょ」
「絶対ょ。スパか、宝石か、現金でお願いね」←
「覚えとく。ソレは?」
ストレッチャーにビニールの証拠品袋が載ってる。
「ポパィのポケットの中身だって。私、ラボに行って来るね。ちょっと待ってて」
「うん。何してるの?」
「検査って奴さ」
ムリヤリ連れて来られ、明らかに不満顔のラギィの面前でビニールの証拠品袋の中身を近くのデスクの上に開けてみる。
「スマホ、マネークリップ、噛んだガム…を紙に包んで捨ててる」
「ポイ捨てをしないとは感心ね」
「ガムを捨てた紙に何か描いてアル。"トリィ"?誰かの源氏名かな?」
敏腕警部は鼻で笑う。
「スゴーい。もう事件解決だわ」
「おっと。コレは芸人の命"ネタ帳"だ。昨夜披露してたチャリティトーナメントのゴルファのネタも描いてアル」
「あの恐ろしくつまらないネタ?」
"ネタ帳"をパラパラめくる僕。
「心臓発作の再鑑識ナンてムダょ」
「ほぉ!」
「何?」
僕が見てる"ネタ帳"を覗き込むラギィ。
「決めセリフの"ヲタク達のトークをお楽しみに"だけど、変えようとしてたみたいだ」
「"一般人達とのトークをお楽しみに"?」
「そりゃ全然ダメだな」
ネタ帳をパタンと閉じる。
「ラギィ。僕達にも決めゼリフを作らないか?例えば…"ギルティ、男と女"とか」
「絶対にイヤ」
「"ヒロイン殺し、新章の始まり"は?」
すると、珍しく感心した様子w
「ふーん」
「小説家にかけてルンだ」
「…やっぱりダメ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「終わったわょ。警察の検視ではやらない、ありとあらゆる毒物検査をやってみた。結果は全部陰性。毒物は一切検査されなかったわ」
「帰るわ。ルイナのスパ、忘れないでね」
「ソレが…でも、未だ終わってナイの。チラミンが検出された。無害だけど、気になったから追加で検査してみたら…発見があった。彼、フェネルジンを服用してた」
ん?ココは驚くトコロ?
「ホントかっ?!…ってか何ソレ?」
「抗うつ剤ね。テリィたんには縁がナイわ。この前も…」
「後で!つまり?」
ピンと来たラギィが身を乗り出す。
「フェネルジンはMAO阻害剤で併用禁忌があるの」
「飲み合わせってコト?」
「YES。死に至る、最悪の飲み合わせょ。服用中は発酵食品は厳禁。ワイン、ビール、チーズ。少量でも血圧が急上昇して死に至る恐れがアルわ」
僕は、ラギィをチラ見してドヤ顔。
「驚いたな。そりゃまるで検出不能の毒薬じゃないかぁ」
「でも、未だ殺人じゃなく、彼自身が誤って飲食した可能性もアルわ」
「私もそう考えて、彼の腸を調べた。死ぬ前に被害者は3つのモノを摂取してた。1つは飴などの甘いモノ」
僕は、勢いよく挙手。
「はい、テリィたん」
「センセ、ガムは甘いモノに入りますか?」
「そうね。ガムか…あり得る。後2つは、クランベリージュースとバルサミコ酢ょ」
出たな、忍び寄る殺し屋w
「バルサミコ酢は立派な発酵食品だ」
「YES。でも、バルサミコ酢を使う料理は食べてないのに不思議でしょ?鶏肉も魚もパスタも…ジュースしか飲んでナイのょ?」
「ソレは、バルサミコの色や味をごまかせるからだ。クランベリージュースなら」
僕の一言に顔を見合わせる超天才と敏腕警部。
「じゃあ…薬のコトを知ってる誰かが、ジュースにバルサミコ酢を混ぜてポパィを殺したと?」
「…どーやら事故ではなさそうね。やれやれ」
「ごめんね、ラギィ。ポパィは殺されたと思うの」
僕は、ストレッチャーの上の遺体に話しかける。
「だってさ、ポパィ。やっぱり君は殺されたンだょ」
第2章 彼女はNo.1
万世橋に捜査本部が立ち上がる。エレベーターから出ながらラギィと話す。
「殺害現場が不明か…何から捜査を始める?毒殺ってホント盛り上がるょな」
「しかも、毒を使わない毒殺か。犯人はかなり賢いわ。今回の凶器は大半の家庭にあるモノばかり」
「僕達だって賢いぞ」
ラギィは苦笑。ヲタッキーズが話に合流。
「ルイナから。バルサミコ酢の毒ジュースは、夜の1時半から4時半の間に飲んでるって」
「と言う事は…」
「ホワイトボードをお願いしまーす」
ガラガラと運び込まれたボードに、横一直線を引いて、時系列の描き込みを始めるラギィ。彼女のいつものやり方だ。
「ココが殺害ゾーンとなる1時半から4時半。外に何かナイ?何でも言って」
「ジュースもバルサミコもガムからは検出されてナイって」
「つまり、ガムは毒を飲む前に噛んでたンだな」
ヲタッキーズのエアリとマリレが交互に口を挟む。
因みに2人はメイド服だ。ココはアキバだからねw
「スタジオ収録の仕事は0時45分までだ。スタジオではガムは噛まないだろうな」
「自宅の防犯カメラの画像によると、家には帰ってないみたいね。夜の秋葉原を放浪?」
「放浪は、0時45分から4時50分の間か。超高級外車で出掛けて死ぬ時は歩き。とりあえず、超高級外車は何処?」
ヲタッキーズのエアリ&マリレが応える。
「ポパィの車の追跡システムから反応がナイそうょ」
「地下の駐車場だとシグナルはロストするけど」
「可能性は色々アルわね。ヲタッキーズの2人は、彼の昨夜の通話記録を調べて。私とテリィたんはスタジオで話を聞いて来るわ。ソレとポパィが殺されたコトは未だ内密に。パパラッチが嗅ぎつけると捜査が面倒だわ」
ラギィの仕切り。全員うなずいて街に散る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再び"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"Eスタジオ。
「番組後のポパィの行き先?知らないわ、悪いけど。でも、なぜ?彼は心臓発作で死んだんじゃないの?」
「検視報告のために情報集めています。最近のポパィの様子で、何か気になる行動はありましたか?」
「なかったわ。いつも元気で。でも、昨日は…」
やり手オバサン風の元気溌剌プロデューサーが言い淀む。
「何かありましたか?」
「ソレが…午前中は部屋に引きこもってて、その後もずっとナーバスになってた」
「ナーバスって何だ?」
さらに言い淀むヤリ手おばさん。
「何か知ってる?って、突然私に聞いてきて、私が何を?と聞き返しても無視スルのょ」
「彼は抗鬱剤を飲んでいましたね?」
「知ってるの?…最初、彼は隠そうとしてたんだけど、お酒をやめたから、みんなで不思議がって直ぐにバレた」
釣られて僕も声を潜める。
「みんな知ってたのか。公然の秘密だな」
「警察は、ソレで死んだと思ってるの?彼、食べるモノにはかなーり気をつけてたけど」
「確認しただけです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
老練ガヤのパンカは、セットでカーテンを見上げる。
「今でもスタジオに入ると、あの青いカーテンを見てしまうよ。今にも彼が入って来そうでね」
テレビカメラの前をコツコツと歩くパンカ。
「コレが全部ドッキリ番組ならって思う」
「親しかった?」
「番組をやる前は、一緒にウクライナで戦場レポーターをした仲だ。戦友だょ」
しみじみとした口調。
「何かあれば君に相談をしてたか?」
「例えば?」
「例えば…自分に危険が迫っているとかさ」
おや?という顔のパンカ。
「どういうコトだ?ポパィは心臓発作じゃないのか?」
「お決まりの質問なんです、パンカさん。彼は最近ナーバスだったと聞いたモノで」
「確かにそうだったかもしれない。昨晩、様子を聞いたら大丈夫だとは言っていたが…」
その時、呼ぶ声に振り向くパンカ。
「パンカ、残念だったな!」
スタジオの暗がりからアジアンが現れパンカとハグ。
「我々の後を引き継ぐ、深夜番組"ミッドナイトショー"MCのミキィ・リィドだ」
「知ってるよ。大ファンさ!"おしりルーレット"のギャグ、もう絶品。テリィだ」
「知ってる。国民的SF作家のセンセだ」
「警部のベケットです」
力強く握手。
「昨日の収録後、ポパィは何処へ行ったかご存知ですか?検視報告のための確認なんですけど」
「さあな」
「元妻に会うとか言ってたな」
うっかり口をついて出る質問w
「何人目の?」
さぁ?と肩をすくめるパンカ。呆れるラギィ。
「何回結婚してるの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「6回ね」
ブロマイドみたいな大判写真をトランプ持ちするラギィ。
「年齢は25才から50才と様々。どうやら5年に1度は新調してる計算だな」
「結婚と言うよりレンタル感覚ね。みんな返却日が来たら返して次を楽しむって感じ?」
「全員を調べてみたけど、面白い発見があったわ」
すかさず、明白な事実を指摘スル僕。
「全員がブロンド?」
「元妻No.005が以前ポパィと争って逮捕されてる…うーん。この目つきはヤバいわ」
「しかも、彼女のアパートのドアマンが、昨夜ポパィが来たと証言してる」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。ふてくされてる元妻No.005。
「ポパィと最後に会ったのは?」
「1年前ょ裁判所で。接近禁止命令を出された時ね」
「ソレは、貴女が彼を殺すと脅したからですね?」
調書を見ながら確認するラギィ。
「うーん何て言ったか、良く覚えてないわ」
「正確には"殺してやる。このイタチ野郎"ですね?」
「若い女とデートしてたの!ソレも、私とそっくりの」
調書を読み上げるラギィ。くってかかるNo.005。
「ポパィ氏の食事制限のコトは知ってた?」
「発酵食品を食べると心臓発作を引き起こすんでしょ?何でソンなコトを聞くの?私が何かしたと思ってるの?」
「どうかしら。実際どうなの?昨夜ポパィが貴女のマンションに来たわね?」
途端にソワソワしだすNo.005。
「そ、そうなの?」
「全部わかってるのょファイ・アイブさん」
「そっか。またババラ・バハラに会いに来てたのね。あの女の何処が良いの?女としては私の方が上なのに」
新たなプレイヤーの登場だ。
「ババラ・バハラ?誰?」
「最初の妻ょ。"元妻会"では"Original"って呼ばれてる。あのマンションはポパィの持ち物で歴代の元妻や愛人が全員同じ屋根の下で暮らしてて、別名"元妻会館"。それぞれ離婚した時に部屋をもらうンだけど、マンションの管理組合がそのママ"元妻会"になってるワケ」
脱帽だ。僕の"元カノ会"の上を逝くw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室に"Original"をお招きスル。
「えぇ昨夜もポパィと会ったわ。いつもみたいに、夜中の1時に起こされた」
若い頃はさぞかし系のオバさん。
「よく真夜中に来るンですか」
「名声や金を得る前のポパィを愛したのは私だけ。不安になると、いつも私に会いに来た。いつも同じような愚痴を言っては帰ったわ。視聴率が下がったとか、歳をとったとか。でも、昨夜は…」
「何か?」
淡々と語る"Original"。
「いつもと違い、何かに取り憑かれてた。何かヒドいコトが起きるって言ってたわ」
「何のコトです?」
「答えなかった。でも、私に尋ねたわ。自分は良い人間か?って。私は彼の手を握って、こう言った。貴方は夫としては最低。でも、男としては最高ょ。ソレで彼は帰って行った」
コレぞ"ギルティ。男と女"だw
「ババラさん。ソレは何時ですか?」
「1時15分頃」
「その後、彼は何処へ?」
ババラ・バハラは、長い溜め息をつく。
「さぁ…帰宅スルと思ってた」
さすがはNo.1だ。人間の出来が違うw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。ホワイトボード前に集まる。ラギィは犠牲者ポパィ・ザセラの写真を張る。
「ポパィは、誰かに命を狙われてると気づいてた」
「ソレを元妻でも親友でもなく、僕に伝えた」
「きっとテリィたんが警察に繋がってると思ったからょ。でも、自分は良い人間か?って何?」
ラギィは頭をヒネる。
「裏社会で何かヤバいコトでもしてたのかな…」
「ラギィ!ババラの話の裏が取れたわ。マンションのコンシェルジュは、ポパィは1時15分に帰ったと証言してる」
「じゃ次は何処へ行ったのか解明しないと。駐車場を調べて。ポパィの車を探したい。薬、賭博、売春をしてないか、口座も調べて」
メイド2人はうなずき、出掛けて逝く。僕に着信。
「はい…あ、モンロ?」
慌ててスマホのマイク(何処?)を塞いで弁解w
「番組で一緒だったモンロだ。ヤンなっちゃうな」
すると…プイと明後日の方を向くラギィ警部。
「ウンウンそーだね、僕も実に残念だ、わかるょ…いいね!ゼヒそーしよーじゃナイか!ソコで会おう!」
スマホを切る。
「モリィ・モンロ?」
「そーナンだ。実は、彼女もポパィの突然の死に動揺している。ホラ、収録の直後だっただろ?無理もナイな。誰か一緒にいれば慰めにナルと思うんだが」
「慰め?最近ではデートをそう言うの?」
責めるような口調。
「うわ!スゴいひねくれてるな!ラギィ、人間って悲劇の後、ただ誰かと一緒にいたい生き物なんだ。お互いを理解し、支え合うンだょ。人と人の間で生きるから"人間"さ」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
外資系の悪の巣窟ホテル"レコル・アクシオム"。
ドアを背中で推し開け、キスを交しながら部屋の中に雪崩れ込む僕とモンロ。彼女は、荒々しく僕のシャツを剥ぎ取る。
「…き、君の慰めになれて光栄だ。うっ」
ベッドに押し倒され、彼女はのしかかるw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
朝焼けが"秋葉原マンハッタン"の摩天楼群と、神田リバーの川面をオレンジ色に染めて逝く。
早朝からデスクワークに忙しいラギィ。僕はデスクサイドに座ってコーヒーカップを2つ置くw
「おはよー」
思い切り怪訝な顔をするラギィ。
「ヤメて」
「何?」
「そのセックスしましたって声」
声?
「何のコトだょ?」
「私はプロの警部ょ?否定しても無駄」
「そ、そうか。わかったょ」
すると慌てるラギィ。
「え。じゃ…否定しないわけ?」
「だって否定は無駄だと逝ったじゃナイか」
「せめて弁解とか…」
プイと横を向くラギィ。ヲタッキーズが戻って来る。
「おかえり。ポパィの超高級外車は見つかった?」
「"元妻会館"の付近には車はなかったわ」
「ババラと会っている間は、近くの"魔笛"って言うレストランに1万円で預けてたみたい。1時間半後に引き取りに現れたそうょ」
ホワイトボードに歩み寄るラギィ。地図にプロットする。
「61丁目、和泉パークウェストね?次は何処かしら」
「信号無視でもしてくれればな…交通違反監視カメラは?信号無視とかしてナイかな」
「どーかしら。ヲタッキーズ、一応調べてみて」
僕は一計を案じる。
「ソレなら街の一般人に聞こうょ。超高級外車に乗る芸能人…もし目撃したら当然QTwitter(旧Twitter)だ。ほら、案の定…」
ラギィに僕のスマホを見せる。
「"am0137ポパィ・ザセラ発見ftw"?何コレ?こんなコト、未だやってる人がいるの?」
僕が渡したスマホを読み上げるラギィ。さらに…
「"東秋葉原ブロードウェイ57丁目、ビル地下の駐車場に入ったなう"だって。もしかして、未だ車が置いてあるカモ!」
飛び出して逝くヲタッキーズのエアリとマリレを見届けてから、僕にコッソリと聞いて来るラギィ。かわいいモンだw
「テリィたん、ftwって何?」
「"for the win"。"俺のツイートの勝ち"的な?…あ、ポストか。ラギィ、ヤバいょ。もはやネットスラングとしちゃ古文の世界だ。良く今まで生きてたな」
「お黙り。テリィたんに電話ょ。"彼女"から」
ラギィがドヤ顔で僕に差し出すスマホの着信画像は…半裸のモンロとベッドでキスをしてる…誰だょコイツ?あ、僕か。
「や、やぁソレはかなり…しかし、いつの間に着信画像を仕込んだんだ?」
鳴ってるスマホを受け取る。
「ちょっち…とりあえず、スマホには出てみよーかな。ありがとーラギィ。coming soon」←
脱兎の如く走り去るw
「やぁモンロ…そうだねぇ昨夜の君は最高だった…え。僕も?あはは…モチロンさ?あぁ今夜だね。人と人の間…わかってる。その時に」
「人と人の間の"人間"同士で、また"慰め"合っちゃうワケ?」
「テリィたん!東秋葉原ブロードウェイ1525よっ!」
交通監視カメラの画像を確認してたマリレが飛び込んで来て壊滅的打撃は回避される。天は我等を見離さズ。ツイてる←
「ポパィ・ザセラの超高級外車が、昨夜の1時37分から駐車したママだって!」
「ソレって何処の地下?」
「神田練塀町の再開発タワマン。ペントハウスには、深夜番組の司会者ミキィ・リィドが住んでるわ」
ビンゴかも。
「おやおやミキィ。コレはヤバい展開だぞ」
「部屋に入ると口論の声がして2時過ぎに帰ったとのコンシェルジュの証言もアルわ」
「うひょひょ。ミキィは、殺害ゾーンのド真ん中でポパィと会ってる?」
社会人の常識的行動を述べる僕。
「真夜中とは逝え、来客には飲み物を出すのが礼儀だょな…クランベリージュースとかさ」
第3章 女優退場
"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"の本社タワーは、神田末広町にあって"秋葉原マンハッタン"を遠くに臨む。
眼下に電気街が広がる絶景だが…
「まるで老人ホームじゃないか!ダメだ、ダメだ!セットは全部変えてくれ!紫も青も一切使うな!」
新しく"深夜番組の王"に君臨するコトになったミキィ・リィドが怒りに任せスタジオの模様替えの指示を出している。
歩み寄る僕とラギィ。
「コレも捨てろ!」
臭いモノを見るように壺を指差すミキィ。
「早速スタジオの模様替え?ミキィ・リィドさん?」
「あ。万世橋のお嬢ちゃんか。仕方がない。局が来週からポパィの時間帯で番組をやれと言ってきた。不謹慎だが、コレもポパィが望んだハズだ」
「そうかしら。死ぬコトまでは望んでなかったハズょ」
怪訝な顔で動きが止まるミキィ。
「今、何だって?」
「貴方は、あの晩ポパィと会ったのにウソをついた」
「ああ。確かに会ったさ。悪かったな。知られたくなくて…」
ラギィが険しい顔で突っ込む。
「しかも、貴方はポパィと喧嘩してたのね?」
「わかってくれ。彼の代わりは俺にとっちゃ大役だ。死んだ日に喧嘩してたとバレたら、俺はパパラッチの餌食になってしまう。ちょっとしたウソをついただけだ」
「ミキィさん。貴方は捜査でウソをつき、警察を欺いたのょ?コレは立派な犯罪なの」
怪訝な顔をするミキィ。
「おいおい。そうは言ったってポパィは心臓発作で死んだんだろ?違うのか?おい、どーなんだ?」
「貴方と会っていた時間帯に飲んだモノが、ポパィの心臓発作を引き起こしたの」
「お、俺が、俺が殺したと?俺は殺人の容疑者なのか?動機は何だ?」
仰天するポパィ。
「貴方は、番組を引き継ぐハズが、ポパィが契約延長を申し出たばかりに…つまり、君はチャンスを待てなかったのさ」
「テリィたんまで…実は、ポパィは変わった」
「どーゆーコト?」
今度はラギィが怪訝な顔w
「最近まで、俺達はホントに仲が良かった。なのに先日、突然、家で裏切り者と怒鳴られたンだ」
「なぜ?」
「知らないょ。ポパィは"全部わかってる"とか何とか。俺が何のコトだって聞くと"お前が何をしたかを知っている。全部バレてるぞ"とスゴまれたw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
とりあえず、万世橋の捜査本部に戻る。ラギィと肩を並べて歩く僕。小腹が空きミルキーコッペパンをかじりながらだ。
「今、ウチの鑑識がミキィの自宅を調べてるわ」
「"深夜番組の王"の地位を得るために殺害まで犯した。まるで深夜番組の"リチャード3世"だ」
「"馬を!代わりに王国をくれてやる!"だっけ?」
ところが、アキバの"リチャード3世"は別にいるw
「地獄に落ちやがれ!」
本部から飛び出して来た銀髪の男と目が合う僕とラギィ。
怒髪天を突く銀髪男は僕の鼻先に人差し指を突き立てる。
「オメェ。2度と番組には呼ばないからな。わかったな!ソレとお前もだ!」
ラギィを指差し…頭をヒネるw
「誰だょお前?」
銀髪男は、僕とラギィの間を割って出て逝く。
途中すれ違う警官に誰彼構わず当たり散らす。
「なんなんだ、この警察署は?クソどもめ。何なら買い上げてやろうか!」
「"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"TV部門CEOのワイズ・バーグょ。ミキィの家宅捜索とポパィの捜査について知ってたわ」
「え。どこで知ったのかしら?」
フランス人みたいに両肩をスボめるエアリ&マリレ。
「別の局にスクープされたンだって。自分の局の"王"のコトなのにね」
「隠してたのにバレたワケだ」
「でも、コレはホントに事件なの?」
このタイミングでスマホが鳴動。メールだ。スマホを取り出しチェックして…軽く笑う。ウンザリした顔をするラギィ。
「メールで笑ったの?」
「ミユリさんだ。小鳥の餌付けをしている」
「そりゃ爆笑ね」
不機嫌なラギィ。ミルキーコッペをかじる僕。ソコへ…
「地下駐車場にあるポパィの車は、令状ナシでは触れられない。超高級車で、タワマンのコンシェルジュがかなり慎重になってるわ。テリィたん、(元カノで最高検察庁のミクス次長検事に令状を出すようにw)お願い出来る?」
「電話しとく」←
「よっしゃ。ミユリ姉様には(テリィたんが渋谷の百軒店の路地裏で学生時代に同棲してた元カノに電話するカモって)私達から断っとくわ」
いや、そーゆー余計なコトはしなくて良いンだw
「しかし、超高級外車を停めたママ、ミキィと会った後、何処へ消えたンだろうな」
「そう遠くは無いハズょね。エアリ、コンシェルジュは、ポパィがどっちへ去ったとか言ってたの?」
スマホしてるエアリに代わってマリレが答える。
「南だって」
「OK。南ね」
ラギィとホワイトボードの前。
「その方向だと地下アイドル通りだな」
「深夜の2時にヲタ芸でも打ってたのかしら」
「確かにライブバーやレストランがある界隈だ」
頭をヒネるラギィ。
「でも、彼は毒とガム以外は口にしてナイし…」
ホワイトボードに貼ってある写真を1枚手にする僕。
「"トリィ"は源氏名じゃない。逝った場所じゃナイか?」
活字で印刷された"トリィ"の文字の写真。
「温室とか目録とか工房とか?"冗談工房"…コメディアイドルクラブょ」
「流行りの"お笑い地下アイドル"か。だっちゅーの以来、進歩がナイな。東秋葉原55丁目だね。南に2ブロック。ポパィは、そこのフライヤーにガムを出したワケだ」
「ガムを噛む前は、クランベリージュース入りのバルサミコ酢を摂取してた」
ラギィが整理。
「つまり、バルサミコ酢入りクランベリージュースを飲んだのは"冗談工房"にいた時か、その後ね」
「いずれもミキィと会った後だ」
「つまり、ミキィは犯人じゃなかった。ねぇヲタッキーズ」
スマホ中のエアリとマリレが顔を向ける。
「タマにはコメディアイドルクラブに行って来て」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
コメディアイドルクラブ。地下アイドルが曲の合間のMCで即興コメディを披露スル新しい地下エンタメが流行ってる。
NY発スタンドアップコメディクラブのアキバ的進化形だw
青森発の"冗談工房"はその老舗。店主を囲んで事情聴取。
「え。誰が来たかワカラナイ?」
「ソレはワカルわょ。"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"のスタッフっぽい人からウチのアイドルについて問い合わせがあった。しばらくしたら、そのアイドルを見に、男がやって来た。変なツケヒゲに帽子姿の男だった。変装のつもりだろうけど、逆に目立ってたわ。アレは…ポパィね」
「で、ポパィは誰かと話したり飲食したりしましたか?」
突っ込むマリレ。メイド服がクラブに馴染むw
「いいえ。後ろの方に座って、お目当てのステージが終わったら、そそくさと帰った。原則ワンオーダーなんだけど…まぁスカウトとあらば店の奢りね」
「そのアイドルは特別な子なのかな?」
「エンジェル・パンダナょ!」
店主はドヤ顔…でも、ソレ誰?
「コメディアイドル界のニュースター…もぉ知らないの?と言うコトは、あの夜の事件について、何も聞いてないのね?おまわりさん達は」
モチロンだ。
「あの夜の事件?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ステージは、大爆笑に飲み込まれる。口笛、歓声を浴びながらマイク片手に降りてくるのは金髪カーリーヘアの女子だ。
「ありがとう!エンジェル・パンダナでした!」
ピースサインでステージを降りる。スタッフとハイタッチ。
「パンダナさん。ヲタッキーズのエアリとマリレです」
「ヲタッキーズ?こんなコトに南秋葉原条約機構が乗り出すの?でも、ありがとう。この前来た万世橋の警官は使えなかったわ」
「お話を伺います」
ひらひらフリルのアイドル服のパンダナは荒れている。
「公演中にバイクをボコボコにされた!テールライトとフェンダーをボコボコにされて、タンクに"真夜中のあばずれ"と削られた。意味わかんナイでしょ?だから、秋葉原のヲタク達って嫌いなのょ。私は腐女子でスラない真っ当なスタンダップコメディアンだっちゅーの!」
「あ。えっと、その、バイクの件じゃナイのょ。貴女、ポパィ・ザセラを知ってる?」
「え。そりゃ…でも、個人的には知らないわ」
途端に慎重になるパンダナ。
「殺された日に貴女の舞台を見に来てたのょ」
「やっぱし?きっとポパィが私のバイクをやったのね。彼のライバル番組に出ると、酷い目に遭うって話を良く聞くわ」
「でも、なぜ貴女に嫌がらせをスル理由がアルの?」
溜め息をつくエンジェル・パンダナ。
「実は、彼の番組から出演のオファがあった。でも、ホボ同時にミキィの"ミッドナイトショー"からも同時に出演のオファがあった。で、私はミキィのオファを選んだの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
夜空に満艦飾で煌めく"秋葉原マンハッタン"。その谷間にある万世橋の捜査本部。ホワイトボードの前に集まる僕達。
「ポパィがクラブを出たのは2時半頃。クラブでは何も飲んでナイらしい」
「つまり、バルサミコ酢入りクランベリージュースを飲んだのは、残りの2時間ね」
時系列に描き込む。赤いキルゾーンが少しずつ削れて逝く。
「出演を拒否した人のステージを見てから、そのバイクを壊す理由って何?」
「芸能人は、みんな変人かナルシストなのょ」
「そこら辺は、テリィたんならわかるカモ」
フト全員が周囲を見回す。
「テリィたんは何処?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
悪の巣窟ホテル"レコル・アクシオム"。
"presidential suite"のドアを、キスしたママ背中で推し開け入って来る僕達。互いに服を…荒々しく剥ぎ取り合う!
「…シャツを買い替えなきゃ」
「シャツは…要らないわ!」
キスしながら僕をベッドに押し倒し、のしかかるモンロw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝。ラギィのデスクの横。魂の脱け殻となった僕w
「おはよぅ…」
「演技はムダょ。ホントは絶好調なクセに!」
「何でだ?何で機嫌が良いのがミエミエ?SFとは逝え作家だぜ?フサギ込むのが商売だ。なぜなら…」
完全無視して話し出すラギィ。
「鑑識がエンジェル・パンダナのバイクを調べたけど、何の証拠も出なかった。指紋もなし。ポパィが2時半以降、何処にいたか不明」
「超高級外車は?」
「令状は出たけど、注射後に毒を盛られたンだから、何も出ないハズ。経済状況も特に問題ナシ。毎日多額の離婚手当をキチンと払ってる。私の年収よりも高いのょ。不審な通話記録もなく、事件当日の夜、なぜ彼がナーバスだったかの理由も全くワカラナイ」
ココで僕のスマホが鳴動。
「やぁトニィ。本編の方はどう?だろ?"ギャバ子"にピッタリだろ?よし、良かった。最高だ!ありがと」
スマホを切る。
「"宇宙女刑事ギャバ子"の映画プロデューサーからだ」
「モリィ・モンロを起用スルの?」
「うん。まぁね」
さもありなんって顔のラギィ。
「やっぱりね」
「なんだ?」
「だから、テリィたんを誘惑したのょ。役が欲しいから。自分をプロデューサーに、作家のテリィたんから薦めてもらいたくて」
ラギィはドヤ顔だw
「はぁ?」
「ソレに彼女ったら、全くギャバ子っぽくナイわ。ギャバ子のインスパイアとして言わせてもらうけど」
「おい。僕が美人女優に好かれるのは、ラギィは気に入らないのか?」
ソッポを向くラギィ。
「関係ナイわ」
「なぜ君が気にする?」
「してないわ」
手がつけられない。ミユリさーん。
「結構だ。コーヒーを淹れて来る」
「私は…現場に出なきゃ」
ホワイトボードの前でクルリと背を向け、左右に別れて歩く僕とラギィ…だったが数歩歩いてからホボ同時に振り返る。
「間違えた。コッチだった」
「私も」
2人揃って回れ右したトコロでエアリが駆け込んで来る。
「ラギィ!あ、テリィたんも聞いて。ポパィの車を調べた。コレがモノ凄い超高級外車でエンジンをかけると…」
「STOP!ソレより、ポパィがナゼ不安定だったかがわかった。コレがグローブボックスに入ってたわ」
「まぁ!」
1枚の写真。ベッドに男を押し倒しのしかかる女!激しい既視感に襲われて、目の前がグルグル回り出すが良く見たら…
「コレは番組のインターンのケイラだ(助かったw)」
「インターンとは思えない働きぶりだな!」
「裏を見て」
手にしたラギィがクルリと裏返す。
「"if they find out, you're dead(見つかれば終わりだ)"か。脅迫にスキャンダル。やっと話がヒートアップして来たぞ」
「だから、ポパィはナーバスだったのね」
「だから、殺されたんだな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。うつむくケイラ。
「先週でした…ポパィを手伝って残業してた」
「この写真、誰が撮ったかわかる?」
「番組の関係者かしら?」
前は美人だと思ったが、今は尻軽女にしか見えないw
「その人がカメラを持ってたのは、事前に情報があったから?ねぇ貴女、パパラッチと組んでポパィを脅迫したの?」
「まさか!私、そんな尻軽じゃナイわ!」
「自分よりも何10才も若いインターンとの情事。大スキャンダルだな。モミ消すには、ポパィは大金を払うだろう」
尻軽女の必死の訴え。
「私の仕業じゃないわ!だって、私達は愛し合ってた」
「ホント?」
ウンザリ顔で全く信用してないラギィ。
「貴女達、つきあってどの位だったの?」
「月曜で1週間になるわ」←
「…2人の(1週間のw)関係(何回?)を知ってるのは?」
激しく首を横に振るケイラ。
「誰にも話してない。2人の秘密だった。ママが怒るから」
「ママ?」
「ママって誰?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あの男がウチの娘とヤッてたナンて!殺してやる!」
スタジオ中に轟き渡る怒声。
仁王立ちのプロデューサー。
「マクスさん。もう死んでます」←
「関係ナイ!何度でも殺すわ。死体はどこ?」
「ママ!私達、そーゆーんじゃナイの!」
ケイラが弁明を試みるが虚しいw
「ケイラ!アンタ、私と同じシングルマザーになりたいの?コッチに来なさい!早く!」
別室に消える母娘に代わり、パンカ・バンカが現れる。
「おい。コレじゃポパィの評判が台無しだ!」
「パンカさん。私達は、騒ぎを起こそうとしてるワケじゃありません。犯人を見つけたいだけです」
「確かにポパィは天使ではなかった。だが、せめて優雅に死なせてやれょ。金や名声や野望が幅を効かせる業界で、彼は人を笑わせるコトだけを真剣に求めて仕事をして来た」
泣ける話だが関係ナイ。却下。
「コレを撮るのは、パパラッチには無理ょ。番組の関係者かココに入れる者に限られます。金に困ってる人が手っ取り早く儲けようと仕掛けたか、ポパィに個人的に恨みがある業界人とか」
「警部さん。悪いがドレも考えられない。彼は、みんなに愛されていた」
「ソンな人は、この業界にはいません。そもそも、ポパィは貴方達を愛してましたか?」
言葉に詰まる老練ガヤ。
「わかった。ケイラの説教が終わったら、プロデューサーのジニスに番組のスタッフリストを用意させるょ…もう少しでケイラも7番目の妻になれたのに」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。書類に埋もれるヲタッキーズw
「どーだ?何かわかった?」
「あ、テリィたん。先ず脅迫と聞いて、ポパィの口座の再調査をしてみた」
「問題なかったでしょ?」
確認するラギィ。
「そぉね。でも、こんなモノがあった」
「キッチンのリフォームに1000万円払ってるわ。で、自宅を調べたトコロ…」
「リフォームしてなかった」
チャカチャカ話を進めるメイド2人。
「じゃ金の受け取り人は誰ナンだょ」
「ザック・ロビソ」
「うーん悪党っぽい名前だ。悪っぽい"Z"も入ってるし、robも入ってる」
愉快そうに笑うエアリ。
「前科もアルし、御職業も素敵に悪党らしいの。"裏社会の探偵"だって」
「この顔、覚えてる。セレブの弱みを握ってゆすりで金を儲けてた。確かゴシップのタレ込み屋もやってたわ」
「罪も償ってる。蔵前橋の重刑務所に5年服役してるわ。ゆすりに、盗聴に、恐喝に…脅迫も大好物w」
何てわかりやすい"悪人"ナンだw
「で、コイツが番組の関係者から写真を入手して1000万円
を稼いだ。でも、殺す必要があるのか?」
「ポパィが警察に突き出そうとしたンじゃナイの?」
「とりあえず、連行しましょ。逮捕してょ」
ところが、メイド達は首を横に振る。
「そうはイカないの。既にマリレが自宅を調べた」
「彼は、姿を消してたわ」
「逃げ足が速いのょね」
ラギィはニッコリ微笑む。
「じゃあ探してょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ザック・ロビソ…貴方って悪い男ね。たまらなく、イヤらしくて、イケナイ脅迫犯だわ。そして、誰より…」
「罪深い?」
「お黙り」
全裸の僕の上に、コレまた全裸で馬乗りになって、オモチャの音波銃をつきつけるモリィ・モンロ。もちろん、場所は…
「いつも、尋問はベッドの上でやるのかい?Miss宇宙女刑事ギャバ子?」
「冗談を言う余裕がアル?ザック・ロビソ」
水鉄砲が顔にかかる(ホントに水?)。
「逝うコトを聞きます。宇宙女刑事!」
僕は(全裸のママw)ホールドアップだ。
満足げに銃口の硝煙を噴くギャバ子w
「よーし良い子ね。その調子ょ」
キス。僕の胸に手を置くモンロ。僕は彼女の白い肩を抱く。
「テリィたん。貴方って、なんでソンなに優しいの?ソレに素晴らしく賢い」
「罪深い、もよろしく」
「で、その明晰な頭脳で今、何を考えてるの?」
おねだり目線で僕を見上げる。彼女の得意技だw
「別に。馬鹿なコトさ」
「教えてょ。世界のテリィたんが賢い頭の中で、何を考えているのか?」
「そこまで言うなら…」
僕は気取ってエヘンと咳払い。すると名女優モリィ・モンロは僕の裸の胸に頭を乗せウットリ目を瞑り全身を耳にスル。
「実は、仕事場で友達に逝われたんだ。君が僕と寝る理由は映画の役が欲しいからだって…」
「え。映画の役を?!」
そう叫び、ガバッと起き上がるモンロw
「マジ?その人、何を根拠にソンなコトを言うの?」
恋人気分は完全喪失。完璧にシラけてるモンロ。
「わ、悪かった。そんなコトを僕は逝うべきじゃなかった」
「その人、私を知ってる?役のために売春をスル女優だと"彼"は何かで読んだのかしら?」
「違うさ!まさか。馬鹿な奴なんだ(彼女はw)」
「テリィたん。貴方は永遠に知らないでしょう。女が東秋葉原でやって逝くというコトが、どんなに厳しいコトなのか!」
完璧にシラけ、ベッドに腰掛け瞳に涙を溜めるモンロ。狼狽する僕。やがて立ち上がり、隣の部屋へ消えてしまう彼女。
Molle, my love so sweet…虚しくon my mind←
遅まきながら、僕もベッドから半身を起こす。彼女が消えた部屋から嗚咽が漏れる。僕は溜め息をつき両手で顔を覆う。
「ラギィ。やりやがったなw」
第4章 裸の(女w)王様
万世橋の取調室の隣室。
「うーんマジックミラー越しだけど、あの顔は間違いなくザック・ロビソだな。ラギィ、奴は何処にいた?」
「"モヒガン頭カジノ"にいたトコロを捕まえて来たらしいわ。派手にスッてたみたいで本人も喜んでたって」
「脅迫でゲットした金で豪遊してたのか」
ラギィは答えズ上目遣いで僕を睨む。
「また女優と…寝たの?」
「え。ナゼわかる?」
「言ったでしょ?私はプロの警部ょ」
後で聞いたら僕の肩に長い金髪が1本ついてたとのコトw
「まぁ楽しかったょ…君のせいで」
「私のせいって?」
「(意外そうなリアクションはヤメてくれw)エリィにラギィの推測を話してしまった。純粋なエリィは傷つき、そして…泣いたょ」
しかし、全く意に介さないラギィ。それドコロか僕を睨む。
「テリィたん。モリィ・モンロは女優ょ。ウソつきのプロ。好きな時に泣けるの」
そうだったのかw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ザック・ロビソの取り調べ。
「いいや。こんな写真は見たコトがナイ」
「あら。そんな写真でポパィを脅迫してたクセに」
「そりゃ見当違いだょ。おまわりさん」
意外に多弁だが、ニコリともしないザック。
「貴方の口座にポパィから1000万円が入金されてた。コレも見当違いなのね?」
「仕事が終わったから金をもらっただけだ」
「ネットで調べると"仕事"に脅迫は含まれないな」
僕も割り込む。
「いいや、違う。ポパィを脅迫したコトは無い。ポパィから仕事を依頼され、報酬を得た。ソレだけだ」
「何の依頼?」
「(ニヤリ)」
発音したワケではナイ。ただ、そーゆー擬音が聞こえて来そうな笑い方だ。黙秘。ガタンと音を立て立ち上がるラギィ。
テーブルに両手をつく。
「貴方。ポパィが死んだ日のアリバイがナイそうね?」
「…おい。冗談だろ?」
「ソレは、裁判所で言って」
スタスタとドアへ歩く。僕が追い込み。
「まぁ楽しめょザック…終身刑をな」
ラギィを追って立ち上がる僕。果たして…
「待て、待て!待ってくれ!」
両手を広げ懇願するザック・ロビソ。
「ポパィから連絡があったんだ。仕事しないかと」
「で、どんな仕事かしら?」
「モチロン、大金をもらってやる仕事だ」
ラギィは振り返るが席には戻らないw
「違法なコト?」
「うん、まぁ…もう良い。座ってくれ。ポパィは狙われてた。だから、相手がどんな話をしてるのか、オフィスに盗聴器を仕掛けたンだ」
「誰?」
ザック、完落ち。
「ワイズ・バーグ」
「"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"の地上波部門CEO?」
「YES。ホントにボロい仕事だった。何しろポパィが局に入れてくれたからな」
椅子に座り、正面から質問するラギィ。
「いつのコトかしら?」
「1週間前だ」
「録音を聞きたいわ」
ズケズケ斬り込むラギィ。ズタズタになるザックw
「CDをポパィに渡した後は、ハードはハサミで切り刻んだ。この世界の仕事の常識だ」
「OK。CDを渡したのはいつ?」
「ソレは…その、奴が死んだ日の朝だ」
解決に大きく前進だ。用済みになったザックをほっぽり出し、僕とラギィはヒソヒソ声で(何でヒソ声?)話を始める。
「あの日、ポパィが部屋に引きこもってたとプロデューサーが言ってた。ソレはCDの録音を聞いてたからだわ」
「その後からポパィはナーバスになったとも話してた。どんな内容だったんだろう?」
「ケイラの他にも女がいたとか?」
ソコへ、僕達と同じくヒソ声で話に割り込むザック。
「なぁ。俺はもう帰って良いか?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ポパィのオフィスにエッチなDVDに紛れて、録音のCDがあった。今、マリレが超能力で聴き込んでる」
「盗聴に値スル内容はあった?」
「今のトコロ、くだらない話ばっか。作家や役者と食事スル話だけみたい。脅迫の方は?」
ラギィは首を振る。
「ケイラとのセックス写真を撮れたスタジオの関係者全員を調べてるけど…」
「みんな。聞いた方が良さそうょ」
「スピーカーにして」
マリレがヘッドホンを外しスピーカーon!
"ポパィには金がかかりすぎた。クビにしよう"
"無理ですCEO。彼をクビには出来ない。何しろ、契約があと5年残ってる"
"死んだらどうだ?どうせ心臓を患ってるんだろう?簡単さ。あの時間帯はミッキーに任せよう。ミッキーは奴の代わりをヤル気は十分にある。ポパィさえ消えれば…"
「ヒドい話。老兵は死なズ、殺されるのみ」
「だからミキィに八つ当たりで激怒してたのね」
「やっとポパィを殺そうとスル人間を見つけたぞ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。ワイズ・バーグCEOの取り調べ。CEOを取り囲むようにして、大弁護士軍団がひしめき合って同席。
"死んだらどうだ?どうせ心臓を患ってるんだろう…"CDをスピーカーで流しながら、ラギィ警部自らの取り調べだ。
「ワイズ・バークさん、やっと貴方の願い通りになったわ」
「ラギィ警部!コレは盗聴だ。法廷では証拠としては使えないコトを確認したい!」
「静かにしろ!お前達が慌てフタめくのは俺がマジで殺した時だけだ。ソレが出来ない事務所とは顧問契約を切る…警部。アレはマジではなかった」
一斉に騒ぎ出す軍団を一喝スルのはワイズCEO自身w
「ワイズさん。貴方がマジかどうかは関係ナイ。問題は、ポパィがマジと信じたコトなの」
「盗聴するのがいけない。そもそも、この業界には馬鹿しかいないンだ。それを言ったら、俺は毎日何人もの馬鹿を公開処刑しなくちゃならない。あの時間帯は、ミキィに引き継いで欲しかった。だが、ポパィをクビにするには80億円もの違約金がかかルンだ」
「ポパィの契約はあと5年あるモノね」
うなずくワイズ。大弁護士軍団はハラハラして見守るw
「YES。確かに前から若い視聴者を意識しろと圧力をかけたり脅したりした。確かに金を払ってクビにスルと脅したコトもあった」
「殺害当夜の1時半から4時半の間は何処にいたの?」
「答えなくて良いぞ!」
口を挟んだ老獪な弁護士を一喝するワイズ。
「お前は黙ってろ!sex house…じゃなかった、Essex house Hotelだ。神田花籠町」
「誰と?」
「俺の番組に出たがって、ヤラせてくれた女だ」
「名前を言って」
何で名前を聞くンだ?
「名前?あぁモリィ・モンロだ」
途端に激しく咳き込む僕。ドヤ顔のラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その日の夕方。西陽に染まる取調室から出て来るモンロを見かける。金髪をヒッツメにしてクタびれたオバさん風情だ。
「ご協力ありがとうございました、モンロさん」
ワイズCEOのアリバイ立証に任意出頭して来たのだ。頬杖をついて見る僕と目が合う。寂しく笑みを浮かべるモンロ。
僕は、力無く片手を上げる。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜遅く。僕は"潜り酒場"に漂着スルw
「テリィ様。ワイズ・バーグのアリバイはリアルだったそうですね?」
「うん…ミユリさんも責めれば良いさ。だから、アレほど逝ったでしょって」
「ミユリにソンなコトをおっしゃりたくて御帰宅を?」
カウンターの中のミユリさんは大人だ。不気味でもアルw
「また捜査が振り出しに戻ったのですね?」
「YES。脅迫犯が誰だかは、結局、不明のママさ」
「なぜポパィがコメディアイドルクラブに逝き、バイクを傷つけたかの理由もわかりません。一体、誰が殺したのかしら…テリィ様。私、一晩中お仕事出来ますけど」
実は、僕がCEOを務めるヲタッキーズは、アキバで起きる事件を警察と合同捜査して解決スル民間軍事会社なのだw
「もう遅いし疲れたょ。明日にしよう、ミユリさん。じゃ"明日もヲタク達のトークを…"と逝いたいトコロだけど…」
フト何かひらめきかける僕w
「この決めセリフは正確ではナイな…」
「スタンダップコメディアン出身のエンジェル・パンダナは腐女子でスラありませんモノね」
「良くワカラナイけど…ミユリさん、僕を口説いてる?」
ミユリさんは、カウンターの中で微笑む。
「テリィ様。ソノ前に、お仕事してしまいましょ?私、ポパィがコメディアイドルクラブに行った理由も、自分が良い人間か?と元妻に聞いた理由も…"犯人"もわかりましたょ。テリィ様。私、変身してお供します」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
"ワラッタ・ワールドワイド・メディア"Eスタジオ。
「パンカ・バンカさん」
追悼番組用の、別れを告げるように片手を上げて微笑むポパィの遺影の前で鮮やかな笑顔と共に振り向く喪服のパンカ。
「おや?ムーンライトセレナーダー?実物と会うのは初めてだが…ホントにメイド服を着てルンだな…今、弔辞の練習をしていたトコロだ。35年の付き合いだった。何から話せば良いのやら…ところで、何の用でしょう?」
心からの笑顔を装い、僕達に歩み寄る。
「ポパィのネタ帳をお渡ししようと思いまして」
ネタ帳を差し出すムーンライトセレナーダー。
「どうもありがとう」
笑顔で受け取るパンカ。
「実は…最後のページに疑問があるのです」
「"明日もヲタク達のトークをお楽しみに"だ。良い決めセリフだった」
「パンカさん。ポパィは"ヲタク達"の代わりに腐女子、コンビ、一般人と描いてました。なぜかしら?」
陽気な笑顔を浮かべ天を仰ぐパンカ。
「今となっては永遠の謎さ」
「そうでしょうか?ポパィは、ワイズCEOから圧力をかけられてました。番組を変えないとクビにスルと宣告されていたのです」
「事件の夜、ポパィは元妻オリジナルのババラに"今宵ヒドいコトが起きる"と話したそうだ。"自分は良い人間か?"とも聞いたそうだょ」
僕の援護射撃を一蹴するパンカ。
「ソレはケイラの件だな、テリィたん」
「違う。ケイラではなくて、貴方自身の件だ。ポパィは、番組を続けるために、貴方をクビにし、旬の若いコメディアイドルを起用しようとした」
「その候補がエンジェル・パンダナだとワイズ・バーグが言ってました。決めセリフから"ヲタク達"を消したのは、彼女が腐女子どころか、ヲタクですらなかったからです」
追い詰められて逝く老ガヤ。
「馬鹿を言うんじゃないょ!私をクビにスルだと?じゃあ殺人の動機は?」
「殺害当夜の貴方のクレジットカード履歴を見ました。貴方は事件の夜、24時間営業のコンビニでクランベリージュースとバルサミコ酢を買いましたね?支払いの時刻は夜の1時56分」
「そして、貴方の鍵を調べれば、バイクのタンクを削った痕が見つかるハズさ。だって、その鍵でパンダナのバイクを削ったんだからな。"深夜のあばずれ"と掘ったんだろ?」
僕とミユリさんの息の合ったツープラトン攻撃。
「何度か親しく接しようとした。だが…」
溜め息をつき、横を向くパンカ。
「…あの晩の番組収録後、ポパィに言われた。番組を変えないとワイズ・バーグに切られると。35年も奴を支えて来た。だのに、私を元妻達と同じように切り捨てたんだ。全国に恥をさらしてな。予感はしてた。ポパィの態度や妙な沈黙からね。だから、あの写真を送った。俺は、お前の弱みを握ってるゾとね。ところが、逆に奴はスキャンダルで視聴率が上がると言いやがった!」
「バルサミコ酢を買って、コメディアイドルクラブ"冗談工房"まで追いかけましたね?」
「クラブの外でポパィと話をした。今まで2人で築いて来たのに台無しだと。でも、説得出来なかった。ポパィは"助けられない。もう選択肢がないんだ。若い奴を入れるのがワイズ・バーグの条件だ"と言われた」
僕は、最大の疑問をぶつける。
「なぜ殺す必要があった?」
「ポパィには選択肢があった!2人で潔く船と一緒に沈むんだ。そうすれば、違約金の80億円が手に入る。無理に若蔵と組んで番組を続ける必要もナイ。4000本もの番組を一緒にやって来た。奴がつまらないジョークを飛ばす度に、いつも俺は笑ってやったよ。なのに…」
「あの晩、どうやって殺したの?」
パンカ、完落ち。
「奴の気が変わらないので、私は理解したフリをした。2人で首都高を見下ろすベンチに座り、神田リバーを眺めてた。今までの思い出を語り合ったょ。そして、飲み物を渡した。奴は親友だった。殺したくはなかった」
唇を噛むパンカ。うつむく。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
解散が決まり後片付けが進む捜査本部。
ホワイトボードから写真を外すラギィ。
「やっぱり公私混同はイケナイな。特にショービジネスの世界ではさ」
「あら。ソレは事件のコト?ソレともテリィたん自身のコトかしら?」
「口がうまいな。ズシンと来るょ」
事件解決を僕達に出し抜かれたのに上機嫌なラギィw
「ねぇ!解決祝いに行かない?"マチガイダ・サンドウィッチズ"のホットドッグでもどうかしら。奢るわ」
「ダメだ。今からデートなんだ」
「ウソでしょ?また、モリィ・モンロと?役が欲しくてテリィたんと寝た女ょ?やっぱりテリィたんって、どっか抜けてる。慎みとか自尊心のかけらも…何ょ?」
口から泡を飛ばすラギィを楽しそうに見る僕←
「デートの相手は、元カノ会長様だ。"縄文人ワークショップ"から帰って来る日は、ダッジオーブンディナーだって約束してたんだ」
納得するラギィ。歩き去る僕。微笑むラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
僕は上機嫌でダッジオーブンでロービーを焼く。
ブザーが鳴る。時計を見ると…ん?少し早いなw
「帰ってきたか、縄文人!」
指を舐めながらドアを開けたら…モンロだ。ヒッツメ髪。
「おっと。君はスピアじゃないが…どうぞ」
「ありがとう」
入ってくるモリィ・モンロ。黒の徳利セーターに茶色のコートだ。バックを小脇に抱えている。押し倒される気配ナシ。
「乙女ロードに帰るコトにした。その前にテリィたんに、一言謝りたくて」
向き合う僕達。
「ありがと。正直なトコロ、君に使われるのも悪くなかった。いつだって利用してくれて良いょ」
「もちろん、プロデューサーには映画の話はなかったコトにしてもらうわ」
「いいや。君がピッタリさ。君の演技力は、僕が身をもって経験出来たしね」
すると、黒い瞳が僕を見つめる。吸い込まれそうw
「全部が演技じゃなかった」
「僕もさ」
「テリィたんには感謝してるわ」
頬にキス。
「元気で」
「テリィたんも」
「あ、あら?」
僕の腕をさすってから名残り惜しそうに去るモンロ。すれ違いでカニ族の横長リュックを背負ったスピアが帰って来る。
「今のは、女優の…」
カニ族リュックを下ろしながらスピア。
「スピア!ようやく帰ったか。元カレは会いたかったぞ!」
両手を広げてハグする…元カレ&元カノ。
「無事で良かった」
「テリィたん、私も会いたかったわ」
「演技じゃナイょな?」
ウットリ目を閉じてたスピアは怪訝な顔。
「演技?何の話?お芝居か何か?」
「うん。お題目は"深夜番組の王"さ」
「新しい深夜TV?どんなストーリーなの?あ、私お腹ペコペコなんだけど」
僕は、ローストビーフを切り分ける。
「待ってろ…結局、王様は裸だったって話さ」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"TV業界"をテーマに、かつて"深夜番組の王"と呼ばれた名アンカーマン、その相棒のガヤ、番組の花の女優ガヤ、台頭する若手MC、新エンタメであるコメディアイドル、シングルマザーのプロデューサーと娘のインターン、裏社会の探偵、多彩な元妻達、殺人犯を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公の元カノ会長の縄文合宿、新エンターテイメントのコメディアイドル業界などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、円安なせいか日本に上から目線が多いように思われるインバウンドが多い秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。