露出狂と始める異世界転移★「トラックに轢かれるのはもう飽きた」
目の前にトラックに轢かれそうな女性がいる。
助けなければという思いと、またかよ、という思い、自分は轢かれても死なないんだろうなという確信。一瞬の間に様々な想いが脳を駆け巡ったが、それでも身体はいつものように動いた。そう彼女を突き飛ばし自分がトラックに轢かれるといういつもの結末。
そう、異世界へと転生、または転移するという結末。
彼の名前は月見酒鈴音。高校二年生。雲がかかった満月のような美しい風貌をしている彼はその姿の見合わず人を殺したことがある、そう何度も、何度も。
しかしそれで彼を責めるのは酷なことだろう、なぜなら彼が相手を殺していなかったら自分が相手に殺されていたからだ。こう聞くとここが紛争地帯かと思うかもしれないがそれは違う。彼の生まれはその名が示すように日本。だが彼は何度もこの国を離れた、いや離れすぎた。
彼はもう何度も何度もトラックに轢かれ続け異世界へと剣と魔法のファンタジーの世界へと飛ばされてきたのだ。そう、彼はいやというほどに異世界転移体質なのだ。
彼が訪れた世界では彼が勇者になったこともあれば、簡単に野垂れ死ぬこともあった、そして彼は何度も帰ってきた、この地球へと、年齢は戻り鍛え上げられた肉体を失いつつも。しかし彼は失わなかった人間性というモノを、それが彼の一番の力であり才能だろう。
そしてまた、彼は転移する。異世界へと。
鈴音の意識が覚醒するとそこは酒精香る森の中だった。
「またか。今度はどんな世界かね。今回は転生ではなく転移か」
と、鈴音は自分の身体を見回す。
「うにゅ、ここはどこでちか」
となりにぶかぶかのジャージを着た肉感的な女性が。辺りをキョロキョロと見回している。グラビアアイドルでもやってそうな美人である。
「まさか」
助けられずに一緒に転移したのか、と鈴音は思った。
「君のことは確かにトラックから助け出したと思っていたのだが」
「でち? 反対車線もトラックが走っていたでちよ」
無言で頭を抱える鈴音。
「しょうがない、深呼吸して落ち着いて聞いて欲しい、ここは地球じゃない異世界だ。しかもおそらくは剣と魔法のファンタジーだ」
意を決して鈴音は伝える。
「え、じゃあ、法律的に全裸でもおーけーでちか?」
返事は想像外というか、想像外の想像外、外宇宙であった。
ここで鈴音は気づく、彼女の服装が変であることに。彼女の服は確かにジャージである、しかしぶかぶかで下を履いていない、しかも前のチャックを3分の2ほど開け肌が露出している、ブラジャーすら付けていない。ちょっと動けば大事なところが見えてしまいそうである。
「ふふん、パンツもはいていないでちよ?」
人差し指を振る女性。すなわち彼女はぶかぶかのジャージだけでかろうじて大事なところを隠しているのだ。
しかし、鈴音は高校二年生だが、転移や転生のたびになんやこんやあったので経験は豊富だ、女性の裸を見ても動じない。だが、
「変態だ!」
そこには動じた。なにがグラビアアイドルだAV女優じゃねぇか、と鈴音は思った。
「じゃあ、ぬぐでちか」
「待て、日本では変態でもお縄につくだけで死にはしないが。この世界では変態だと殺される危険がある。可能性だが」
「えーでち。せっかく異世界とやらに来たんでちから、開放的になりたいでちー」
「お前の服はすでに開放的だ」
「っちぇでち。ところであなたはだーれ?」
「月見酒鈴音、立場上は烏の宮高校二年だ。こういうことつまり異世界転移にはなれているから頼ってくれていい」
「じゃあ、あちきの方が年上でちね、元日本最高学府三年、葛城桃でち」
その年齢でそのしゃべり方なのか、やっぱり変態だなと鈴音は思った。外見も顔は幼げだが身長は高いし胸も自己主張が激しい。なおさらに
「てか最高学府!?」
「元でちけどね。裸で歩いていたら退学にされてしまったでち。何ででちかね?」
「当たり前だ。国の最高学府に通っていてなぜそれがわからない!?」
「だから最近は服を着ているでち」
「それは服を着ている内に入らない! てかよく三年まで見つからなかったな!」
「がっこでは下着を着ないで、時々トイレで全裸になっていたでち。そうしないと禁断症状がでるでち」
「へんたい・・・・・・だ」
「ところでこれからどうするでち? 剣と魔法といえば、ゴブリンでも退治するでちか?」
「取り敢えず、街に向かおう。そして何かを換金して服を買おう」
「あちきのぶんはいらないでちよ?」
「なおさら必要だ!」
鈴音は異世界で死ぬと地球に戻る(桃がどうなるかはわからない)、そして鍛え上げられた肉体と魔法等を失う、精神年齢も戻る、だが残るものがある、戦闘の技巧と経験、そして異世界の魔法の残りカス。彼が〈能力残滓〉と名付けた能力。
「レイヤー6、減算――」
彼はそれを行使する。かつてレイヤー12という12の世界が重なり合った多層世界で得た力〈レイヤー魔法〉。それは違う概念で支配された他の層を今いる世界に重ね合わせ〈加算、減算、乗算、スクリーン、差の絶対値、彩色、除算〉等々する魔法。力を失った彼には今、重力を支配するレイヤー6の加算と減算しか出来ない。
鈴音が重力のくびきから解き放たれ、宙を舞う、というよりは空に落ちていく。彼はちょうど良いところで能力を調整し、静止する。
鈴音が、周りを見渡すと、そう遠くないところに、中規模(鈴音の経験からいって)の街が見える。近くに村などは見渡せずそこに行くしかないようだ。鈴音は体力が落ちている(かつては一分、数十キロのスピードで移動できることもあった)し桃いる。
すとん、と鈴音は地面に降り立つ。
「すごいでち。飛んだでち。あちきにもできるでちか?」
「この世界を司る理によっては出来きる、今はまだどうなるかはわからない」
街を目指して、二時間ほど、桃に意外と体力があったことと靴を履いていたことで、それなりに早く着いた。途中何にもであわなかった。
「うわー、ゲームみたいでち」
「ゲームするのか?」
「防具を全部着けない、全裸プレイでちよ? おかげでターン式のゲームは出来ないでち、アクションRPGが得意でち」
この痴女は極まっているなと鈴音は思った。
「ところで何で靴は履いているんだ?」
「おバカでちか? 靴を履いてないと足がいたいでちよ?」
「なんでお前に正論で馬鹿にされないといけないんだ・・・・・・」
街に通じる道には兵士らしき人がいた。
「ザ・モブ兵士でち」
「そう言ってやるな彼にも人生があるんだ」
街に入れるかは若干怪しいところがあったが、こういうときは堂々としている方が良い(もしくは全く逆に忍び込んだ方が良い)ことを知っている鈴音は堂々と通り抜けようとした。
「おや、その髪と目、格好は異世界人かな? 追い剥ぎにでも襲われたかね? 少年も、女性に服を貸してあげるぐらいの甲斐性みせなよな。それはさておき言いたかった言葉『ここは始まりの街〈サイショーノマチ〉だ、ようこそ異世界の勇者よ』」
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