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夕凪の帰り道にあった事 怪異と古川祥一郎  作者: Koyura
外伝 海の神様と古川祥一郎
53/55

級友との交流 2

朝、いつものように登校すると、秋月は既に来ていた。

ランドセルを机に置いて、自分の机の椅子に座っている秋月の元へ行った。

「おはよう」


秋月は、眠そうな目で祥一郎を見た。

「おはよう…」

昨日とは打って変わって覇気が無くぼんやりしている。

それ以上何も言わないので、焦れた古川は自分から言った。

「昨日待ってたのに、何で来なかったの?遅くなったからボールそのまま家に持って帰ったよ。帰りに取りに来て」


「そう、昨日?ボールを古川に渡したの?」

「え?預かってって、秋月が言ったんだぞ?海岸で、サッカーしに行く途中だった」

祥一郎はポンポンっと肩を強めに叩いた。

「痛っ、力強過ぎ!」

「思い出した?」じっと秋月の目を覗き込む。


秋月は目を何度かパチパチ瞬くと、「あ」と言った。

「そうだった!ごめん、母さんにメチャクチャ怒られてさ、外へ出してもらえなかったんだ」

「やっぱりな。今日家に寄れる?」

「うん、いいか?」

「もちろん!」

祥一郎はにっこり笑って、予鈴が鳴ったので席に戻った。


『何だろう、小さなモノが憑いてたけど、記憶を無くすほどじゃ全然無いし。でも祓ったら元に戻った』

肩を叩いたのは怪異を祓う為だった。今の持ってる力で十分対応できる雑魚だった。


海の神様の言う通り、家に居るのだろう。

『でもなあ』

この歳では退魔師としては心許ない。しかも頼まれないと祓えないし、自分の正体を暴露するのは早過ぎるだろう。

せっかく怪異がやって来ないのだ。なるべく普通の小学生でいたい。


放課後、秋月と一緒に家に帰った。

秋月が挨拶すると、母親がにんじんケーキを焼いたからと、ご丁寧にホイップ付きで出してきたので、食べる事になった。


家の中をキョロキョロしているので、祥一郎は狭い家ながらあちこち案内した。

母親の趣味のパッチワークの作品が各部屋に置かれていて、

「そのうち何もかもパッチワークになるだろうね」

と首をすくめて見せたが、秋月は「良いじゃないか、上手だし」とフォローした。


「いいな、綺麗な家で」

ぼそっと呟いた声に、祥一郎は何も返さなかった。それぞれ家に事情がある。いつものスタンスで、深追いしない。


「人参の味しないね」「オレンジジュース入れてるから?」など言いつつケーキを食べた。

その後、家の前でサッカーを教えてもらった。リフティングは言ってた通り上手で、祥一郎は3回が限度だったが、秋月は30回位普通にしていた。


それから学校での昼休みはサッカーをするのが日課になった。

何人か集まってすると、体力の無い祥一郎は、途中で抜けてリフティングの練習をした。下手くそなままだったが。


毎朝の様に、小さいながらも怪異を憑けて来るので、痛いと嫌がっても、祓ってやるのが日課になった。

秋月以外は、憑かれてても、自分に張られてる結界に触れただけで消える。


大した事はないと思いつつ、やはり段々気になってきた祥一郎は、秋月の家に行く事にした。

予め、ちゃっかり海の神様の結界を強化してもらいに行った。

海の神様は心配して力を入れようとしたが、器がまだ小さいのか少ししか入らなかった。


「心配だ。相手の正体がわからないのに対峙するのは」

海の神様は祥一郎を抱きしめ、頭を撫でた。

「危険だと思ったら逃げるから」

相変わらず過保護の心配性だ。


その次の日に秋月の家に遊びに行った。

秋月は鍵を開けて「ただいま」と言ったが、応える者はいなかった。

「誰もいないの?」

祥一郎は敢えて聞いたが、秋月は「大体、夜にならないと帰って来ない」と言う。


『誰もいない?』

祥一郎は強烈に存在を意識していた。

「こっちはご飯食べるところ?」

玄関から入って左の閉められたドアを指差した。

「そうだよ」

「開けても良い?」

「え?」

「見てみたい」

祥一郎が食い下がると、秋月はやむ無くと言った感じで頷いた。


秋月がドアを開けると、思わず

「あ、いた」

と呟いた。

「え?」

大人の背くらいの高さの、黒い人みたいなのが、テーブルの椅子に座って居る。

「誰もいないよ?」

秋月が後ろから顔を出して覗いた。


「ゴキブリ!!」

祥一郎は叫ぶと、履いてたスリッパを片方掴み、中へ入った。

「どこっ⁈」

真っ直ぐに黒い人のところへ行くと、頭からスリッパを力任せに叩き付けた。

椅子の座位にスパァンとスリッパの音が響いた。


「やったか?」

「殺った!」

祥一郎は奇襲に成功して満足した。神様の力も全て込めたので、オーバーキル位だった。

「と、思ったけど、見間違いだった」

「えー⁈」

祥一郎はしれっと言い、スリッパを履き直した。

「若しくは外した」


「でも、面白かったよ、祥一郎」

「そう?」

「だって、スリッパがあんな大きな音するなんて!」

「ちょっと力込めただけだよ」

「あれ?何かスッキリした」


秋月は胸を押さえて祥一郎を見た。

「祥一郎に叩かれた後みたいだ」

「スリッパで叩いて欲しいの?」

祥一郎がニヤッとすると、首と手をブンブン振った。

「冗談!それは止めてください」


ふむ、他には居ないようだな。家に憑いてるんじゃ無いのか?

秋月に憑いてたのとは、少し違った。ような気がする。

「うーん」

「何?」

「水貰える?」

台所を指差した。

「喉乾いたから、部屋に持って行っていい?」


秋月はすんなりとコップに水を入れて祥一郎に渡した。

「はい、これでいい?」

「うん、ありがとう」

祥一郎はこくん、と一口飲むとそのまま持った。

「部屋行こう!」


部屋はシングルのベッドと学習机でいっぱいで、祥一郎はベッドの上に座った。

水を入れたコップは机に置いてもらった。

秋月が簡単な宿題を片付け、2人はポータブルゲームをしていると、玄関のドアの開く音がして「ただいま」と声がした。


この部屋に近付いて来ると、コップの水の表面に波紋が広がった。

水の異常を感じ取った祥一郎は、コップを取ってもらった。


部屋のドアが開いて、母親と思しき者が顔を出す。

「ただいま。珍しいわね、こんな時間に家に居るなんて…あら、お友達?」


祥一郎はベッドから立ち上がって

「古川祥一郎です」

と軽く頭を下げた。

「珍しい…(つとむ)が、古川…」

母親は途切れ途切れに言うと、祥一郎に近付いた。


ちゃぷん。

水が跳ねた。

『やば』


祥一郎はコップの水をそのまま母親にかけた。

そうじゃなくても水は勝手に飛んでいったから、タイミングを合わせただけだ。

口をつけた時に神様の力を含ませたからだろう。


「ぎゃっ」

女らしからぬ酷い悲鳴がして、のけ反って後ろに下がった。

「わー、しまった」

棒読みに近い大声で言った。

「母さん⁈祥一郎!」


「御免なさい、手が滑って…」

祥一郎が母親に謝って一歩近付くと、ギロッと睨まれた。

「タオル取って来る!」

秋月が、慌てて部屋を出ようとしたら、母親が肩を掴んで止めた。

「…いいのよ。私が自分で拭きに行くから!」


母親は祥一郎を睨んだまま、

「あなたも早く帰りなさい」

と唸るような声で言った。


「母さん、祥一郎はワザとじゃないよ」

「どうかしら」

祥一郎は鞄を持った。

「帰ります。すみませんでした。秋月、ありがとな」


「え、いいのに」

母親が去っていくのに続いて、祥一郎も出た。

秋月の肩をすりすり撫でた。

「肩掴まれて、痛かったろ?」

弱らせたが、母親に憑いている本体を全て祓うまでには至らず、また雑魚怪異を付けられたので、祓う。

「ううん、別にそんな事ないよ」


2人は玄関まで行くと、祥一郎は靴を履き、秋月も続こうとしたが止めた。

「ここでいい。また来ても?」

「もちろん!」

「次からもっと気をつけるよ。お母さんにも言っといて」

祥一郎は微笑みを浮かべて言うと、家から出た。



帰りに寄り道して御厨海岸に行く。

「祥一郎!」

海の神様はすぐに現れて祥一郎を抱き上げた。

「怖かったろう?無事か?」

「大丈夫だよ!誤魔化すのがヒヤヒヤしただけ」


自分の結界が強化されるのがわかる。ヒビが入って弱まっていたらしい。

「秋月のお母さんに憑いてる。弱らせたけど、消えなかった」

「やはり、あの子の家は海から遠い。心配だよ。もう行かないで?」

「うーん、秋月がなあ。すぐ取り憑かれるんだ。母親もあのままじゃ弱ってしまう」


「優しいなあ、祥一郎は」

「友達にならされたからね」

「おや、私のせいかい?」

神様は祥一郎の額と口に口付けた。

「相変わらず、中には少ししか入らないな」

「僕は人間だし、まだ7歳で小さいから」


「あと10年したら、もっと力を入れられる」

「だいぶ先だね」

「人間の10年なんてあっという間だ。大人になればお互い力を交われる」

「大人になれば?交わる?」

不穏な言い方に寒気がした。


『10年も待たずに祓ってやる』

「お腹空いた。帰る」

抱かれていた腕をピシピシ叩いて下ろしてもらった。

「もう一回やってみてダメなら諦める」

祥一郎は神様に手を振ると家に向かって走って行った。


「成長が楽しみだ」

海の神様はゾッとするような美しい笑みで祥一郎を見送った。

「絶対逃さない」


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