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マスターの身体はセラミック

作者: 月丘

 人間が人間たる本質は何でしょう?現代、2020年代の学者はそれをクラキ=ニューロン発火反応と名付けました。

 私とマスターが共通して持つ、生命の神秘にして魔力のほんの僅かな煌めき。人とそうでないモノを区別する理論。

 メーカーの設計をもとに組み立てられチタンとセラミックと人工筋肉で構成されたVOICEROIDの私と、ご両親の遺伝子をもとに成長しタンパク質で構成されたホモ・サピエンスのマスター、この理論によれば私たちに違いはありません。


 ならば、肉体が滅んでも同一の発火反応さえあれば貴方はマスターでしょう。事故に遭ったときは驚き、思考がショートしかけましたが、奇跡的にニューロン発火パターンをサルベージできたと聞いたとき、私がどれだけ安堵できたことか。


 たとえ、身体がぐちゃぐちゃのミンチになったとしても、思考を司る場所がケイ素の回路に置き換わったとしても、貴方はそれに気づかず、私と日常を過ごしています。


 今朝だって、「まな板!」「そっちこそ平社員!」「違う!一般職4級だ!」「4も5も同じでしょう私もAくらいはありますぅ〜」「見栄張ってんじゃね〜よAAA(トリプルエー)!」なんて、くだらない喧嘩をしましたが感情の高ぶりは発火反応が盛んな証拠で安心です。


 以前と全く変わらず、朝起きて朝食を摂り、歯を磨いて、鏡を見ながら「最近ヒゲが伸びないな〜」と顎を撫でるマスター、ごめんなさい一部の生体組織はまだ培養中です。


 ゆかりさんネットワークの伝手をフル活用して用意した、大菱バイオミメティクス・テクニカ製軍用第4.5世代戦闘義体のカスタムモデル。一生懸命切ったり貼ったり削ったりして以前のマスターと寸分違わぬ姿に仕上げました。

 貴方の知らない背中のホクロも、足首の古傷も、「そろそろ死ぬんじゃねぇの?」と呟いていた手のひらの生命線も全て再現しました。


 毎日貴方の身体を隅々までスキャンしていましたがこんなところで役に立つとは、人生何が起きるかわかりませんね。


 今日も夜になれば「ただいま〜ゆかりさ〜ん、ちかれた〜」なんて言いながら、昼間のお仕事の話しを聞かせてくれるのでしょう。

 でも、もう知っています。こっそり義体にGPSと視界共有、バイタル観測機能を仕込んでおきました。これでいつでもどこでも一緒です。


 さて、そろそろ帰ってくる頃ですね、GPS反応が教えてくれます。……5.4.3.2.1.今。


 「……ただいま。」


 おかえりなさい。おや?いつもより表情が冴えませんね、会社で何かありましたか?


 「ゆかりさん、最近俺、何か変わったかな?」


 おっと、これはまずい。


 「いや、大菱のエンジニアって人とたまたま会ってさ、『VOICEROIDと同じ雰囲気がしますね、失礼ながら義肢などは?』なんて聞かれてさ、この間のアレでどっかにボルトでも入っているのかな〜なんて。」


 とんでもない変態がいたものです。表皮以外の機械化率100%とはいえ、本人すら気付かない最新の義体を見破るなんて。


 「今週末にも病院行って、聞いてみるか?……ん〜、抱きつき攻撃か〜、めずらしアバッ?!」


 ふぅ〜危ない危ない、生身なら感電死しかねない電圧ですが、軍用義体はしっかりとスタンガンの電撃に耐えてくれます。

 さて、また気付かれてしまいました、寝室まで運んだらLAN直結して記憶を改竄しないといけません。今晩は電子でも物理でもマスターを抱きしめて眠ることにしましょう。半生体パーツが揃うまでこの繰り返しですね。


 ふふっ、マスターはもう死にませんし、私が死なせません。バックアップデータと予備パーツのある限りいつまでもいつまでも……。

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