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逢引

 前作の時間を休日からGWに変更しました。理由は作者がGWを完全に忘れていたからです。この下は言い訳が少し続くので、興味ない人は本編にどうぞ。


 作者は高校時代、運動部に所属していて、休みは平日の一日。あるだけで幸せなのですが、当然その日以外は存在せず、GWもSW?(シルバーウイーク)も夏休みも冬休みも春休みも…。全力で部活の日々。そのため、汗と泥にまみれた青春は遊ぶ暇は存在せず。ついでに言えば作者は口下手で、友達は両手で数える程度、恋人は0と平日の休みを費やす関係もありません。そのため、こうして書いていると、そういえばこんなイベントあったなとのちに気づくことが多いこと多いこと......。もちろん再発防止には努めますが、起きた時は何卒ご容赦ください。

 ゴールデンウィークの昼下がりとあって、ショッピングモールは多くの人で賑わう。家族、カップル、一人と様々な人が絶えず出入り口を往来する。


 春人は、そんな出入り口の一角にあるベンチに座っていた。時おり顔を上げて、ショッピングモールに来る人の中から冬華を探しては、ソワソワとする。


 今日はショッピングモールで冬華と遊ぶ。ただそれだけのことなのに、春人が落ち着かないのは自覚した恋心にある。デート、デートと恋心が舞い上がり、春人の気を乱している。


 現に春人が顔を上げれば、目につくのはカップル。意識していると思うと恥ずかしさがこみ上げて、春人はたまらず視線を落とす。


 これはデートじゃない。春人は舞い上がる恋心を叱責するもまるで聞こうとしない。それどころか、春人の声などどこ吹く風で、心臓までもがドキドキと小躍りを始めだした。


 デートじゃない。デート。デートじゃない。デート……。春人と恋心が無益な争いに汗を流していれば、春人の前でピタリと止まる足音。


「お、おはようございます」


 強張って声が震えようと、透きとおった声質までは変わらない。春人がゆっくりと頭を上げれば、徐々に冬華の容姿が明らかになる。


 ベージュのロングスカートは、スラリとした容姿を際立たせて。白いカーディガンからのぞく肌は陶器のように美しく、きめ細やかだ。


 春人は思わず見惚れてしまうも、呆けた顔はグッとこらえて。まずは笑顔で挨拶を返す。


「おはよう冬華」


 春人が挨拶を返して、冬華の顔を見れば、春人の繕った笑顔は真っ二つに割れる。


 冬華の髪型は、いつもと変わらない肩にかかる黒髪なのに、雰囲気は別人だ。


 大和撫子という言葉が似合うほど雅を有して、おそろしく艶やかだ。春人が美を体現した冬華に視線を奪われていると、冬華は耳まで真っ赤になる。


「変でしょうか……」

「ううん、全然変じゃないよ」


「よかったです。少し背伸びをしすぎたかと心配になっていたので」

「大丈夫だよ。むしろ俺が無頓着すぎたかも」


 春人は自分の服装と冬華の服装を比べて、雲泥の差を前に苦笑する。黒のチノパンにねずみ色のジャケットと、春人の格好はかなりラフだ。


 せいぜいオシャレをしたといえば、頭に被るバケットハット程度。それでも冬華には遠くおよばない。


 けれども、冬華は首を横に振って、春人の格好を肯定してくれた。


「そんなことはありませんよ。自然体でカッコいいです」

「あ、ありがとう。冬華もオシャレですごくかわいいよ」


「……」

「……」


 本当のことを言っただけなのに、春人は急に恥ずかしくなり、顔は火が出るほど熱くなる。


 冬華に見られてないかと一瞥すると、冬華の顔もさらに赤くなっていて、互いに羞恥に悶えているようだ。


 こんなことになるなら、もっと違う言葉を選ぶ必要があったと、春人が悔やんでも後の祭りだ。

 しかし、本音を隠しながら冗談交じりに言えるほど、春人の語彙は豊かじゃない。


 結局こうする他なかった。悔やむのは言葉選びではなく、磨かなかったセンスだと春人は内心で自嘲する。


 春人は大きく息をはいて、恥ずかしがっていた自分を吹き飛ばす。

 そして、長いすから立ち上がり、未だ落ち着かない冬華へ春人は平生を装って声をかける。


「それじゃ、映画館に行こうか。上映までまだ少し時間があるから、ポップコーンとか必要なもの買っておこう」

「そうですね、そうしましょう」


――――


 熱狂的なショッピングモールと違い、憩いの場である喫茶店は落ち着き、羽休めに来た人であふれていた。


 店内に流れる今どきの曲も、狙ったようにゆったりとした曲で、人の気分をより落ち着かせにきている。


 そんな喫茶店の通路側、歩く人がガラス向こうに見える席に春人と冬華は座る。

 互いに口を交わさず黙っているのは、ケンカをしたからではない。


 春人は、胸の苦しみに耐えることで精一杯になっているからだ。


 好きだった人に思いを告げられず、主人公だけが生きて、夕日の沈む丘で慟哭する。切ない恋の物語は、今も春人の胸を苦しめる。

 けれど、春人の胸を苦しめるのは、それだけではない。


 映画を見て、より勢いづいた恋心がもう一つの原因だ。果たせと、叶えろと、力強く春人の背中を押す。反面、道徳や良心はひどく反発して、春人の足をつかんで離さない。


「どうかしましたか?」

「ん? どうして?」


「いえ、何だか物憂げな様子だったので」

「そっか、でも大丈夫。少し映画を思い出してただけだから」


「そうでしたか。あの、悲恋ではない方がよかったでしょうか?」

「そんなことないよ。すごくよかった」


 春人が笑顔で答えれば、冬華はホッとした様子をうかべる。

 「今日はつきあって......」冬華はそこまで言って止まると、何事もなかったように言い換える。


「今日は一緒に見ていただいてありがとうございました」


 冬華はお礼を口にして満足げだ。一方春人はというと、冬華のお礼よりも、言い換えた理由に口角が上がっていた。


 冬華は意識している。映画を見る前、カップル割引を聞かされたことも相まって過剰なほどに。現に「つきあって」すら言うのをやめるほどだ。


「意識した?」


 春人のいたずらな質問に冬華は笑うも、穏やか笑顔ではない。笑顔の裏から怒りがたちこめて、春人にもハッキリと分かる。


「してませんよ。からかうのはやめてもらえますか?」

「す、すみません」


 冬華のまくし立てるような口調は初めてで、春人はたまらず素直に謝る。


 ちょっとしたイタズラ心のはずが、良からぬことになった。春人は軽率な行動を悔やみ、肩をすぼめてカフェオレを飲む。


 冬華は、そんな春人とは対照的に、姿勢よくコーヒーを口にする。そして、春人に気を使ってくれたのか、映画の話題を振ってくれた。


「やっぱりラストは胸が苦しくなりますよね」

「うん。しかも最後が出会いの場所ってのも感動した」

「分かります。小説で見るのと違って、映画は映画で違った感動がありました」


「そうなんだ。俺は映画だけだから、違いってのは分からないかな」

「なら、小説を読みますか? お貸ししますよ?」


 冬華の笑った顔には、小悪魔が宿っていた。春人が読書を苦手とすることを知ってるうえで、あえて言っているのだろう。


 きっとこれは、冬華なりの仕返しだ。春人はそうとしか思えず、ひきつった顔で笑い、手のひらを押し出してお断りをする。


「大丈夫です」

「そうですか。小説なら、伏線がより分かりやすく描かれているのですが……」


「伏線? どこにあったの?」

「57ページです」

「映画の方で教えて!」


「嫌です。教えません。からかった罰です」

「からかったことは本当にごめん! だから教えて?」


 春人が両手を合わせて陳謝しても、冬華は聞く耳を持ってくれない。「嫌です」の一点張りで、春人が何をしても無駄そうだ。


 冬華にしてみれば、これも仕返しの続きなのだろう。だが、春人にしてみれば、かけがえのない記憶を思い起こさせる要因だ。


 冬華の意地悪な笑顔にちょっとした仕返しは、小学の冬華に重なる。小学生だった冬華も、こんな顔で春人をからかってきた。


 冬華にからかわれて、春人が怒って、夏海が仲裁に入ってくる。ずっと続いて欲しかった春人の日常。


 春人は全てに目を閉じて、今はこのひとときに身を委ねることにした。

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