斬撃の魔術師と最強の杖
初めまして。tawashiと申すものです。
初めての投稿なので稚拙なところもあると思いますが読んでいただけると幸いです。
「我《斬撃の魔術師》グレイ・ペイルは汝《聖剣の聖女》シアン・ブライトに決闘を申請する」
「我《聖剣の聖女》シアン・ブライトは汝《斬撃の魔術師》グレイ・ペイルの決闘を受諾する」
学院の中庭の中央にいる少年少女の足元に魔法陣が広がり二人の左肩に光の粒子が集まり、光の塊は互いの戦績が記された勲章に変換される。
《斬撃の魔術師》vs《聖剣の聖女》 99戦0勝99敗
グレイの勲章に記された戦績はシアンに全敗を期す記録が刻まれている。
二人の足元に広がる魔法陣が光の粒子となって空中に霧散し消えた瞬間、先に動いたのはシアンだった。
シアンは腰に帯剣した聖剣を引き抜いた。
刀身は鏡のように美しく光をすべて反射し鍔と柄に薔薇の花と蔓を模したミスリル銀の装飾が《カリバーン》の優美さと凛々しさを表していた。そして一番の特徴は聖剣としては珍しい大剣を縦に分割したような片刃の剣をグレイに向けた。
構えたシアンは一気にグレイとの距離を詰めて《カリバーン》で斬りかかる。
グレイは手に持つ合金の長杖を使いシアンが振る《カリバーン》の剣戟を受け流す。シアンが体重を乗せて振りかぶった《カリバーン》の斬撃を受け流した後、すぐ距離を取るグレイ。そしてグレイは合金の長杖の先端についている魔石をシアンに向ける。
その瞬間魔石から魔法陣が浮かび出し青白く輝きだす。
魔法陣が輝き出すとシアンはグレイとの距離を保ちながら左方向に走り出した。シアンが走り去った後ろの石像やオブジェ、木々に一瞬で鋭利な刃物で切り裂かれたような斬撃の跡が現れた。
先程までなかった切り傷がグレイが向けた杖の魔石の延長線上にある物体に現れた。まるで不可視の刃が杖の魔石から射出され物体を切り裂いたかのように。
魔石の魔法陣の輝きが消えた瞬間、一定の距離を取りながら走っていたシアンが一定の距離を詰めるようにグレイの間合いに飛び込んでいく。
グレイは杖に念を込めて飛行魔術を起動した。
距離を詰めてグレイを狙って斬りかかったシアンの斬撃は虚空を切った。グレイは飛行魔術で空中へ回避した。
「どうだシアン。これなら得意の近接戦闘も無意味だ!」
グレイは杖の先をシアンに向けて斬撃魔術を発動する。
シアンは地上を走り回る。シアンの後方は不可視の刃が地面を切り刻む。
「古典的だけど剣士相手では最適な戦い方だよ。グレイ」
シアンは不敵に微笑む。
シアンの微笑みに疑問を持ったグレイは連続斬撃の範囲を広げた。
シアンの策に気づくのが遅かった。
するとシアンが手にする《カリバーン》は緑色の光を纏い出す。そして《カリバーン》の延長線上にいるグレイに向けて《カリバーン》を勢いよく振り下ろした。
《カリバーン》が描いた斬撃の軌跡から三日月状の光の刃がグレイに向かって射出された。
咄嗟のことでグレイは合金の長杖で受け止める。
《カリバーン》の刃を受けても傷がつかなかった杖がいとも簡単に斬れて真っ二つになった。杖の先端に付いている魔石が輝きを失い、飛行魔術で空中移動していたグレイは空中から落下した。
グレイは地面に落下する寸前受け身を取り落下の衝撃を逃がした。
グレイは落下で視界から外れたシアンを探す。するとグレイの後ろから《カリバーン》の切っ先が首筋の傍に這わせられたのに気付く。
「剣士相手だったら最適な戦い方だったけど、私が相手だったのが悪かったね」
後ろからでも分かるくらい勝利に喜んでいるシアンの声音だった。
決闘が開始される前に浮かび上がった魔法陣が再び浮かび上がり左肩の勲章の戦績が書き換えられた。
《斬撃の魔術師》vs《聖剣の聖女》100戦0勝100敗
グレイの勲章に敗北の数が増えた。
そして戦績が書き終わると勲章は光の粒子となり霧散した。
「これで100戦100勝♪ただ勝ちばかりだとつまらないなぁ」
シアンは《カリバーン》を鞘に納剣し鼻歌交じりでグレイに挑発めいた愚痴をこぼす。
「これからも連勝が続くと思うなよ!今度は俺が勝つ‼」
グレイは負け惜しみを言い放った後立ち上がりこの場を去る。
〇
「あぁーー。また負けたーー」
グレイがいるのはガルディー杖店。
「買う気がないなら、もういい加減店から出て行ってくれないか。ボウズ」
渋い声で話す小柄な老爺がグレイが店に入り浸ることに訝しむ。
「だからガルディーさんが創った杖でまた負けたからここに来たんじゃないか!」
訝しむガルディーをよそに今も悔しがるグレイ。
「今度こそ勝てる杖を創ってほしいんだよ」
「簡単に言ってくれるな。もうこれで何回目だと思ってるんだよボウズ」
「今日で51回目」
「ちゃんとカウントしているんだな。妙なところで細かいな」
グレイがガルディー杖店を訪れたのはシアンに50連敗を期した時だった。
店主の創る杖はグレイの魔力との親和性が高く魔術変換速度も速くグレイのお気に入りの店だ。
「それで新しく創ってやった杖はどうした?」
ガルディーがグレイに質問する。
「それが……」
ガルディーの目の前に真っ二つになった合金の長杖を渡した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーー‼」
ガルディーが絶叫した。
「人の創った杖を何だと思ってんだ!ボウズ‼創って何日も経ってないのに壊してくる奴がどこにいる‼」
そしてすぐグレイを激怒するガルディーは変わり果てた杖を見て涙ぐむ。
「わざわざ聖剣の斬撃にも耐えられる合金で創ったのに、それを真っ二つにして渡すやつがいるとは思わなかったよ……」
「だから済まなかったと思ってるよ。ごめんなさい‼」
グレイは頭を下げて謝罪の意を込める。
涙を拭いたガルディーはグレイを呆れた顔で見た。
「で今度はどんな杖をご所望で?」
「まずは耐久性だな。最低でも聖剣の一撃を余裕で耐えられる強度を持っていることは最低条件だな。あとは魔術を展開する速度は申し分はないから魔術の展開範囲と展開持続時間の延長をお願いしたいな。あぁ、それと斬撃の魔術だけじゃなくて風や雷の魔術の親和性を高くしてほしいな。やっと師匠の魔術を再現できるようになったんだ」
「要求が多い上に問題一つ一つを解決するのにどれだけかかると思っているんだこのボウズは……」
ガルディーは呆れて頭を抱える。
「ボウズの要望を叶える杖はこの店にない」
「そんな!ガルディーさん!今まで俺の要望に応えるため杖を創ってくれたじゃないか!」
「ボウズの言うような魔術師や魔女が喉から手が出るほど欲しがるような杖はこの店の材料のどれを探してもない‼」
グレイの夢物語に喝を入れるようにガルディーが怒声を上げる。
しかしグレイには夢を諦めさせるガルディーの一言が仇となった。
「なら今まで創った杖より良い材料を用意できれば、さっき俺が言ったような杖も作れるってことだよな?」
夢物語を諦めさせるために言ったつもりが、更にグレイのやる気に火をつけてしまいガルディーは引いている。
「ま、まあ材料にもよるが、材料が超が付くほどの一級品ならボウズの言ったような杖も創れるだろうな」
「なら、その材料がある場所教えてくれよ。すぐ採ってくるから」
「はぁ」
ガルディーはため息をついて手元にある羊皮紙に羽根ペンで何か書き記している。
「これが杖のレシピだ。どれも採取に骨が折れるなんて表現が生易しいくらい難易度が高いモノばかりだ」
杖のレシピを書いた羊皮紙をグレイに渡した。
「ありがとうガルディーさん!恩に着るよ!」
そしてグレイは店を出た。
「あのボウズ、採取する材料について詳しく聞いていかずに出て行ってしまった…」
ガルディーは呆れてしまったがグレイの魔術の才能に関しては買っていた。
あれだけ杖の性能を生かせる人物をガルディーは後にも先にもグレイの魔術の師匠である《風雷の魔女》だけだと確信している。
ガルディー本当に杖の材料を集めきったら最強の魔術師になるのではないかと考えてしまうほど魔術の才能だけは買っている。
「あっそうだ今回の杖、真っ二つになって使い物にならなくなったから代わりの杖貸してくれない。ガルディーさん?」
本当に魔術の才能以外はクズ野郎だとガルディーはつくづく思った。