第9Q Versus Seisyun Part 3
ようやく試合スタートです。しかし、要所要所でやはり解説が入ってしまい読みにくくなる場面もあるかとは思いますが、楽しんでいただけると幸いです。
それではよろしくお願いします!!
「お手並み拝見といこうかね」
谷村さんからボールは吉井さんへと渡る。吉井さんとのマッチアップは俺なので、緊張が走る。突破されるわけにはいかない。
「(このサイズ感の選手とやるのは初めてだな。さて、どう崩すか)」
吉井さんは考える。すると―――
「吉井!こっちだ!!」
そう叫ぶのは若林さんであった。
「ちっ!」
築村を振り切り、若林さんが0度付近のスリーポイントラインでボールを貰う。ちなみに0度というのはゴールの後ろにあるボードを基準としており、ゴールの真横、つまりボードがない状態を0度と呼ぶ。築村と若林さんの1対1の形となった。
「見たところ賀晴のエースはお前っぽいな。どんなもんか見てやる!」
「こい!」
フェイクを入れて鋭いドライブで切り込んできた。
「抜かれてたまるか!」
築村も抜かれまいと、必死に食らいつこうとするが、背後から前田がスクリーンを仕掛けてきた。
スクリーンとはオフェンスにおいて、使われる技で、抜きにかかる際にディフェンスをボールマンに追いつかせないように別の選手がディフェンスの行先を遮るように立ち、ディフェンスが移動してきたところを、網に引っ掛ける罠のようなものである。あくまでも相手からぶつかってくるようにする必要があり、自分から相手にぶつかりに行くと、ファウルになってしまうので注意が必要である。
「築村!スクリーン行ったぞ!スイッチだ!!」
大滝が叫ぶ。
「いい身長を持っているな!だが、デカイだけじゃ俺には勝てねぇぞ!!」
そう言って若林さんは大滝をパワードリブルで押し込む。
パワードリブルとは背中を相手に向けて、一度だけ両手でドリブルし、その勢いで相手を押し込んで、シュートに持っていく力技である。
「(なんてパワーだ!押し込まれる!!)」
大滝を押し込んで、そのままターンしてダンクシュートを決めた。
「先制点はうちだー!!若林先輩ナイッシューです!!」
成旬高校のベンチが盛り上がる。それに比べて俺たちのベンチには玉置先生しかいない。寂しいにも程がある。
点数を決められると、エンドライン、自陣のゴール下の一番端のラインからボールを入れて試合を再開する。その際、センターやパワーポイントは敵陣へと向かっており、ボールを中に入れるのはポイントガード、シューティングガード、スモールフォワードであることが多い。しかし、残り時間に余裕がない場合は急いでゴールを狙いにいく都合上、ボールに一番近い人が入れることもある。
相田が俺にパスを出し、ボールをコートに入れた。そして俺は相田にボールを返す。そのまま相田はドリブルで敵陣までボールを運ぶ。
「一本取りに行くっスよ!」
そう言って相田は人差し指を天へと立てた。相田はパスを木山さんに出す。木山さんには飯泉さんがディフェンスにつく。
「(整列の時から思ってたが、この子ってやっぱり女だよな?その胸とかどう見ても女の子なんだよな……。やり辛え……。)」
飯泉は心の中で嘆いていた。
「女だからって舐めてると痛い目に遭うっスよ?」
相田の言う通り、木山さんは完璧なフェイクから飯泉さんを抜き、ディフェンスを崩した。
「しまった!」
そして木山さんはドライブでそのままインサイドへと侵入する。そこに若林さんがカバーに入ろうとするが、その前にボスハンドでジャンピングシュートを放った。放たれたシュートは綺麗な弧を描きゴールへと吸い込まれていった。
「木山さん、ナイッシュー!」
俺は木山さんとタッチした。
「マジかよ……。今の子、女の子だろ?そんなのありかよ……」
成旬高校のベンチからはそんな声が聞こえてきた。
「気を引き締めろ!ディフェンスだ!!」
築村が俺たちに気合いを入れる。
「賀晴、なかなかやるな。試合はまだ始まったばかりだ!焦らずに俺たちのプレーをするんだ!」
若林さんがチームメイトに呼びかける。
谷村さんは吉井さんにパスを出す。しかし、そのパスは油断しきったスピードのない緩やかなパスで、俺はそれを見逃さなかった。手を伸ばし、パスをカットした。
「ナイススティールっス!速攻っス!!」
俺はフルドライブで一気に敵陣まで駆け上がる。しかし、走って追いついてきたのは若林さんだった。
「悪いがそうはさせんぞ」
ゴール下からここまですぐに追いついてくるなんて、すごい人だ。しかし、横には築村が走り込んでいた。俺はワンバウンドで築村にパスを出す。
パスを受け取り、築村は強烈なダンクシュートを決めた。これが2on1の練習の成果である。
「しゃあああ!」
「これはいかんな……。創部して数週間程度のチームだから完全に油断してしまったようだね。気を引き締めなくてはね」
東堂さんがハンカチで汗を拭う。
「(妙だなぁ。うちが流れを持って行きつつあるがぁ、相手は県大会常連校だぞぉ?そんな簡単に流れを掴めるものなのかぁ?)」
玉置先生は試合を見て違和感を感じていた。
「落ち着いて取り返す!一本!」
谷村さんが人差し指を上げた。そして吉井さんにパスを出した。さすがにさっきのスティール対策でパススピードを上げてきた。俺は気を引き締めてディフェンスにあたる。どう攻めてくる?すると、吉井さんはシュート体勢に入った。俺は瞬時に反応し、シュートコースを塞ぐように真上に手を伸ばす、しかし、それはシュートフェイクであり、俺の反応を少しだけ遅れるようにし、吉井さんはそのまま右にターンして、俺との対面がズレたところを狙って3Pシュートを決めた。
「うおお!スリー!!吉井先輩ナイッシュー!!!」
成旬ベンチが盛り上がる。
「ナイッシューだ吉井」
「いや、入ってよかったよ」
谷村さんと吉井さんがタッチした。
相田がボールを敵陣まで運ぶ。
「(どうやって崩すっスかね。やっぱスリーにはスリーで返すのが一番っスよね)」
相田は俺に目線をやる。俺は木山さんの立っているサイドまで走り、木山さんのディフェンスにスクリーンをかけた。木山さんはフリーとなる。
「飯泉!スクリーンだ!」
しかし、今回の狙いはそこにはない。スクリーンをかけられると、一時的にそれをカバーするように他の選手が守る。インサイドに切り込んでくるフリーの敵は危険なので守りを固めるが、スクリーンをかけた人間は一瞬だけディフェンスが緩くなるのである。そこを狙う。
俺はスクリーンの体勢から3Pラインに立ち、相田からパスをもらう。そしてフリーの状態、つまりディフェンスかまついていない状態でスリーを打つことができた。俺が放ったスリーはスパッという音を立てながらゴールへと入っていった。
「まんまとやられたな……。まさかあの小さいのがスリーを打ってくるとはな」
若林さんは驚きを隠せないようであった。
それを見て、東堂さんはタイマーにタイムアウトを申請した。
タイムアウトとは基本的にバスケのタイマーはシュートを決めてもタイマーは動き続けている。しかし、ボールがラインを割る、つまり外に出てスローインになった時はタイマーが止まるので、そこでタイムアウトを取ることができる。とって何をするのかというと、作戦会議をしたり、悪い流れを止める、選手を切り替えさせる役割を持っていたりします。ちなみにこれは自分のチームがシュートを決めて、そのまま自分のチームがタイムアウトを取ることはできません。逆に言うと相手チームにゴールを決められた時には取ることができる。このタイムアウトができない理由は速攻封じになり得るためである。点を決められてすぐさま攻撃に転じたい時にタイムアウトで流れを崩されないようにするためである。
タイムアウトが使える回数は決まっており、第1、第2クォーターの前半戦で2回、第3、第4クォーターの後半戦で3回となる。監督はどこでタイムアウトを取るかが重要とも言える。
「タイムアウト、成旬高校」
タイマーがブザーを鳴らし、タイムアウトになった。
「いやはや、驚いたね。まさか賀晴高校、ここまでとは。胸を貸すぐらいの気持ちだったが、手抜きは無しの方がいいかもね」
―――と東堂さんが言う。
「監督、俺たちは最初から手抜きなんてするつもりはありませんよ?」
若林さんがそう言う。
「そうだったね。よし行ってきなさい」
その頃、賀晴のベンチでは―――
「今のところは大健闘だなぁ。だがぁ、油断は禁物だぁ。相手はどんな隠し球を持ってるかわかんねぇからなぁ」
玉置先生は違和感を拭えないようである。
「俺たちは挑戦者だぁ!ガンガン行けぇ!」
そう言って玉置先生は俺たちの背中を叩いた。
タイムアウトがもうすぐ終わり、試合再開かと思われた時、体育館の扉が開いた。
「ようやく着いたぜ!」
「やっぱり俺が言った道の方が正しかったじゃないですか」
「だったらもっと早く言えよ!お前何するにもトロいんだよ!!」
そう言って入ってきたのは以前公園で、1on1をした仲本さんと上野くんだった。
「あ」
「「あー!!」」
俺と仲本さんは見覚えのある顔に思わず、声が出てしまった。
続く。
魔法少女を戦わせてた時よりも、描写を書くのが少し上手くなったかもしれません。いや、多分それは気のせい以外の何者でもないんでしょうね。
これからもそんな勘違い作者が描く今作をよろしくお願いします。
それでは今回も読んでいただきありがとうございました!次回をお楽しみに!!