第13Q Versus Seisyun Part 7
タイトルを変更しました。
前のタイトルは「全てはボールとコートの中に」でした。皆様に受け入れてもらえるかはわかりませんが、これからはこのタイトルで頑張っていきますので、よろしくお願いします!
それでは楽しんでいってください!
ファウルの数が増えてくると、やはりどこでどのようにファウルが発生するかわからない以上、思い切ったプレーができなくなってしまうものである。若林さんもまだ2ファウルとはいえ、木山さんへの無闇な攻撃をやめたようであった。
「(ようしぃ、とりあえずぅ、木山への集中攻撃を止めることができたかぁ)」
玉置先生は一難をどうにか突破したことで安堵した。
しかし、点差は縮めることはできないまま、時間だけが流れた。そしてとうとう第3Q終了のブザーが鳴った。流れを呼び戻せても一度開いた点差を縮めるのはとても難しい。第3Q終了時点での点差は76-51、流れを掴んで30点差ではなくなったが、それでもまだ25点差という壁は高い。
「第4Qでこの点差をどうにかして、逆転して勝つことはもう難しいかもしれないなぁ。そうなるとお前らがやるべきことはどんな内容でこの試合を閉じるかだぁ。潔く負けを認めて散漫なプレーをするのか、まだわからないという思いにかけて全力で戦うのかぁ。それはお前たちに任せるぅ」
玉置先生は真剣な顔で俺たちに言った。
一方、成旬高校のベンチでは―――
「想定外だね完全に。向こうの築村くんの存在は想定外だよ。彼がいなければ、今頃相手の戦意を喪失させて勝っていただろうが、彼1人の存在はとても大きいもののようだね。存在が大きいだけならまだ良い、しかし、まさかこんな短時間でレベルを上げてくるとは………。指導者として子供をこんな言い方するのは失格ではあるが、あれは化け物の領域だね」
東堂さんから出た汗は一向に引く気配がない。
「何言ってんだよ、俺様に遠く及んでねぇだろ?まだ俺様はちゃんと抜かれたわけじゃねぇし」
仲本さんがそう言うと、東堂さんは―――
「それはお前に経験年数という力が乗っかっているからだよ。お前は2年生、向こうは1年生だ。その差を無くしたとしたら………。いや、この先、実戦を重ねて経験を積めば、急速に伸びてくるやも知れん」
東堂さんの言葉に仲本さんも言葉を失う。
そして2分が経過し、第4Qが開始された。やはり5人で交代なしで40分間を戦い抜くのはとても辛いものがあり、俺も含めて5人とも疲れの色が隠しても隠しきれない程にまで、達していた。
「相田!」
俺はパスをもらい、スリーを放とうとするが、タイミングの悪さと身長の低さで若林さんにブロックされてしまった。
「しまった!」
「何やってんだ!」
築村が怒りながら走る。身長の低さによるシュートブロックは今に始まったことじゃない。それを躱すためにドライブも鍛えているのだが、疲れから来る身体の鈍りによって、キレを失ったプレーはいとも簡単に止められてしまう。
「速攻!」
谷村さんがシュートを決めた。
「谷村先輩ナイッシュー!」
玉置先生には最後まで諦めるな的なことを遠回しに言われたけれど、さすがにこの流れは辛すぎる。第4Qはまだ開始、1分と言ったところで、あと9分ある。残り9分を冷静を保ったまま戦い抜けるほど俺たち5人はまだ経験が圧倒的に足りないのだ。
「心の糸が途切れたね……」
東堂さんは采配をやめ、試合を静かに見守ることにした。
「馬鹿たれぇ!!今さっき俺が言ったことをもう忘れたのかぁ!!このクズ共めぇ!!こんなことで心折れてるようじゃ、天辺なんか一生、いや死んでも見えねぇぞぉ!!!」
玉置先生は諦めていなかった。
「先生の言う通りっスね……」
「だな」
「最後に一泡吹かせてやるわよ!」
負けていたとして負けを認めたところで負けてしまうのなら、負けを認めずに戦っているその瞬間だけは負けじゃないと信じたいんだ。
「こっちだ!」
俺はもう一度、相田からパスをもらい、シュートを放つと見せかけて、それに釣られて飛んだ松本くんをドリブルで抜き、スリーを決めた。
「ディフェンス!!」
ディフェンスをオールコートマンツーマンでつく。
さっきまでのディフェンスはハーフコートで自陣に戻ってから攻め込んでくる敵を待ち構えて、来たらマンツーマンまでつくというものであったが、オールコートマンツーマンはその名の通り、相手のゴール下つまり、エンドラインから守りに入り、そもそもボールを出させない。自陣まで持っていかせない。そして奪ったボールをすぐにゴールへと持っていけるためのディフェンスである。しかし、このディフェンスは待ち構えるという体力的な余裕はなく、オールコートを走り回るため、体力の消費はさっきまでの比ではない。
でも、疲れたなんて言っていられない。勝つためならとにかく走り切らなければならない。バスケは足を動かしてナンボのスポーツなのだから。
「(こいつらここに来て、すごいプレッシャーだ!)」
谷村さんは俺たちのディフェンスにボールを出せずにいた。そして無理矢理出したパスを相田がカットしシュートを決めた。そしてまたオールコートでディフェンスにつく。
「(全く隙がない!)」
若林さんも所狭しとコートを駆けるが、木山さんが必死に食らいつく。仲本さんが築村を振り返りボールをもらう。しかし、俺たちのディフェンスで前に進めない。
「ヤバイ!なんてディフェンスだ!これがさっきまで死にかけてたチームかよ!もうすぐ24秒経っちゃうよ!!」
成旬ベンチから口々に焦りの声が上がる。
「畜生!調子乗ってんじゃねぇぞ!!」
仲本さんが全力のドライブで築村を抜く。そしてその穴をカバーするために大滝が詰め寄る。
「デカブツが!デカイだけじゃ俺様は止められねぇんだよ!」
さらに大滝を抜き去る。
「仲本先輩スゲェ!!二枚抜き!!」
そして仲本さんが1、2と踏み込んで、シュート体勢に入ったところを俺は狙ってスティールした。
「どっから出てきやがった!?」
俺はドライブで駆け上がる。谷村さん、上野くんを抜き、ゴール前まで漕ぎ着ける。
「マジかよ、あのちっこいのも二枚抜きしやがった……」
そのままレイアップシュートに入ろうとすると、松本くんが立ち塞がる。
「こっち!」
俺は声のした方をあえて見向きもせず、声のした方にパスを出す。そしてボールは木山さんへと渡り、木山さんがシュートを決めた。
「なんとノールックとは、なかなかでござるな」
松本くんこの試合で初めて口を開いた気がするな。ござるってちょっと痛い気もするがそこには触れないようにしよう。
「1分切ったぞ!」
成旬ベンチからそんな声が聞こえてきた。タイマーを見ると秒カウントになっていた。パスは再び仲本さんの元へと渡る。そして築村と最後の1on1が展開される。
「時間ねぇからさっさとかかってこいよ」
「てめぇ、歳上に対する口のきき方がなってねぇんだよ!」
仲本さんが抜きにかかると、築村は何故かとても落ち着いていた。そこから手が伸びる。ボールへと向かって伸びる。そして遂に仲本さんからボールをスティールした。ボールが転がり、相田が拾ったところで体育館に試合終了を告げるブザーが鳴り響いた。
「整列。86対63で成旬高校の勝ち。礼」
「ありがとうございました」
10人が例をし、練習試合が幕を閉じた。
負けてしまった。初めての試合だったのに負けた。とても悔しかった。コートからトボトボと歩いていると、東堂さんが築村に声をかけるのが聞こえた。
「ちょっとそこの君、いいかな?」
「なんだよ?」
「君はどうして賀晴に入ったんだい?君の実力はとても高い。その気になれば名門にだって入れたはずだ。なのに何故?」
「うーん、悪いけど会ったばっかのおっさんに言うわけねぇだろ」
そう言って築村は体育館を去っていってしまった。
その後、東堂さんは玉置先生と何か話しているようであった。
「いつも思うんだけど、君が受け持つチームはいつもユニークだね。どうしてそんな面白いチームにばかり当たるんだい?」
「そんなこと俺に聞かれても困りますよぉ。ホントついてるのかついてないのかわかりませんねぇ」
「ははは、そうだね。だが、今日やってみて思ったのはうかうかしているとえらい目に遭いそうだということだね。今日は闘えて良かったよ。お互い予選を頑張ろう。それはそうと玉置くん、君私のことをジジイと呼んでいなかったかい?」
「こちらこそぉ、ありがとうございましたぁ。次に闘う時は負けませんよぉ。そ、そんなわけないじゃないですかぁ!もうやだなぁ!」
玉置先生は大粒の汗を流していた。
俺たちは体育館の片付けをしていた。
「築村のやつ、試合終わったらとっとと帰っちゃって信じらんない!」
木山さんは片付けをしながら不満を募らせる。
すると、成旬高校の面々が片付けを手伝ってくれた。
「みんなでやった方が早いだろ?」
若林さんがパイプ椅子を持ちながら言った。
「ありがとうっス」
スポーツのいいところはこういうところにあるのかもしれない。試合中は熱くなって強く当たったり、喧嘩するほど険悪になるけれど、終われば同じスポーツをする仲間なんだ。
「お前なかなか見どころあったぜ?その身長でスリーとは驚いたぜ」
仲本さんが松本くんと共に俺に声をかけてくれた。
「あ、ありがとうございます。次は負けませんよ!」
「おう!いつでもかかってこい!」
「さて、仲本。今から罰を実行しようかね」
東堂さんが鋭い言葉を放つ。
「じいさん!今いい雰囲気だっただろうが!」
「遅刻したのは君だから」
こうして成旬高校は嵐のように去っていった。
「今回の敗北はお前たちにとって貴重なものになるかぁ、それともただの負けになるかぁ、それはお前たちのこれから次第だなぁ」
玉置先生は黄昏ながら言った。黄昏てる場合なのか?
成旬高校との練習試合というシナリオを思い付いた時点で負けることは決まっていました。ここから這い上がっていくストーリーですので、ご期待ください!
それでは今回も読んでいただきありがとうございました!次回もお楽しみに!!




