95話 腕
暗い中の人体の一部は、迫力のある映像として記憶に残る。
ある漫画で読んだ。
子供の消えた噂のある公園。
妖しいのもが見える主人公がソコで地面から生えている腕を見つける。
腕は主人公の持っていた夕飯用の肉を地面に引きずり込み消し去る。
咀嚼する音を響かせながら。
とても似たのを見たことがある。
中学時代、部活帰りの夕方遅く。
何度も行き来した道ではある。
暗く細くかくかくと曲がっているので学校指定の通学路ではない。
両側の住宅の塀が高く、少し圧迫感のある道だとは思っていた。
片側はお寺の広い敷地で、高い塀からも卒塔婆が見えていたせいもあるだろう。
遅い時間に通るのは少し躊躇われたが、怖がる年齢でもないと普通の顔をして帰っていた。
その暗い住宅街の道で何かが白く浮かび上がっていた。
バットか何か工具でも道に転がっているのだろうか?
と思ったが近づくと
アスファルトから垂直に白い腕が生えていた。
女の腕だろうか肩の丸み、すんなりとした腕、手は力なく下がっている。
車の通れない細く暗い道。
指はE・Tやミケランジェロのアダムの絵の様に軽く下を指差していたのかもしれない。
近づいたが消えない。
でも、影は出ていたか?とか腕に毛や手指にシワなどあったかは覚えてない。
数歩後にし、振り返るもまだある。
もう少し歩いて振り返ると消えていた。
そこで初めて怖くなり走って帰った。
少し前の映像がひどく鮮明に思い出される。
黒い道路から禍々しい植物が蕾を付けて、今にも咲きそうな不気味で綺麗な記憶である
そういえば、高校時代、別の腕を見た。
夜寝ていて、ふと目が覚める。
目を開けると天井から手が伸びていて、我の顔を掴もうと指を曲げている。
目を開けた瞬間、鷲掴もうとする手が目の前にあり、見つけた瞬間消える。
それが何度も何度もあった。
10日程それが続き、ある日ぷつりとなくなった。
一族の呪いの中では我は16歳までに死ななければならなかったようだから、何かが我の魂でも盗りに来たのかも知れない。




