11話 祖母から聞いた話 神下ろし
祖母の若いころの話しである。
夢の中で、犬はくぐもった声ではあるが、はっきりと答えたそうだ
祖母がまだ子も産んでいなかった頃。
昼に畑から戻ると、家の近くに犬が行き倒れていた。
近寄ると生きているので、粥を作って食べさせた。
何口かぺちゃぺちゃとなんとか無理して食べているようだった。
そして、犬はふらふらしながらも起き上がり、歩き去ろうとした。
祖母は思わず声をかけた
「もう少し休め。どこに行く」
犬は少し振り返り、そしてヨタヨタと去って行った。
あれでは、長くはないと感じたそうだ。
その夜夢を見る。
昼の行動をなぞって、犬を見送る。
祖母が声をかける。
犬が振り向いて答えた
「かみをおろす」
夢から覚める。
願をかけに行くのかと思ったらしい。
その後、半年ほどの経った頃に同じ様な行き倒れの犬を一頭介抱し、同じように、その犬もどこかを目指して行った。
多くはないが、それまでは全く無かったから、犬に選ばれたかしたのだろう。
意味のある夢を見ることはなかったそうだが。
それから半年ほど経った頃、山の寺で問題がおきた。
以前から皆が気になっていた事だったのだが、寺からの悪臭が夏の盛りで我慢できない程になっていた。
近隣の住民や檀家に押されて、坊主も寺男も動いて臭いの元を探す。
寺の縁の下の一角に、犬の死体が何匹も重なっていた。
それが悪臭を放っていたのだ。
檀家の数人が弱った犬が寺の方に行くのを、見たことがあるという。
犬がいた一角の真上は本尊の安置されている場所だった。
「「神をおろす」は願掛けで降臨を望むものではなく、自分の身で穢して神を堕ろすって意味だったのだろうよ」
その寺には昔から、悪い噂があった。
若い女の仏を辱めるとか、寺に逃げてきた女郎や妾を手篭めにして殺して埋めたり、行脚や行商の女性も、この辺りで消えたり女犯の噂が絶たなかった。
「誰かの呪いを背負ってきたのだね」
そう締めくくった。
犬が呪具になるのかは分からない。
それが犬の意志だったのかも分からない。
ただ、女性の無念は相当に強かったのだろう。