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あやし百話  作者: くろたえ


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90話 事故物件って嘘だって思っていた

不動産屋さんで何か聞いたわけではない。

値段も適正の安さだろう。

社会人になって初めて住んだ部屋である。

 社会人になって最初に住んだ部屋は、駅からは多少近いが狭い部屋だった。

2畳半の台所とへばりついた玄関の反対側に電話ボックスを少し小さくしたシャワーボックス。

それにアコーディオンカーテンが間仕切りになり6畳の和室。

狭いながらも、それなりに居心地の好い部屋になっていた。


 最初の就職はクビになり愕然としたが、時給で考えれば普通のアルバイトの方が断然給料が良いと気付く。

飲食店などで働いた。

友人も出来た。

学生時代の友人も含めて、時折泊まりに来ることがあった。


 最初に就職していた時は、ブラック企業で朝の8時から帰りは早くて夜の10時。遅ければ梱包用の毛布に包まってソファーで寝ていた。

自分だけでなく寝袋持参の先輩も居たので、それが普通と思っていた。


 その頃には合わなかった隣人や、同じマンションの人とも顔を合わせるようになる。

若い人が多い建物だったので、親しくもならないが苦情もない穏やかな無関心が多かった。

しかし、隣に住む男性が、少し絡んできた。

「絡む」とは少し違うのかも知れないが。

合って二度目くらいだろうか、いきなり声を掛けられる。


「ねえ、そこの部屋の家賃っていくら?」


 不躾な言葉に眉をひそめながらも、曖昧にして部屋に戻る。

その後も何か言いたそうにしているのを、気付かないふりをして男をやり過ごしていた。

住んでから一年も過ぎたころだろうか。

夕方に家を出ようとした時、丁度戻った男と遭遇する。

会釈だけして足早に去ろうとした時に言われた。


「ねえ。そこが事故物件だって知っている?」


「何かあったのですか?」


聞き返す。


「なんか、女の人が自殺したみたいだよ」


男は何故か嬉しそうに話す。


「さあ、何も起こっていないので、どうでもいいですね」


 男への不快感で必要以上にぶっきらぼうに会話を切り上げ、その場を後にした。

その後も少し考えたが、自分には関係ない事だな。

という事にしたが、不快だったのは確かだ。

そして時折、シャワーボックスで思い出しては恐怖を感じる自分が嫌だった。

しかし、何もなかったと言えただろう。


その時までは。


 何度か泊っている友人がその夜も遊びに来た。

ビデオを見ながら、お菓子を食べて、適当に寝た。

女同士なので隣ではあるが、自分は布団で、泊まる人はコタツの布団を片方に寄せてかけて寝た。


 朝、目を覚ますと、友人がすでに起きている。

ぼんやりと寝床から上半身を起こしている。


「おはよう。寝れなかった?」


 いや、先に寝ていたな。と思いながらも聞いてみた。

友人は、ギギギ・・・というか、妙に固まった動きをして振り向いた。

そして、まだ寝転がっている我に向かって、いきなり、手でバシバシと打ってきた。

顔を両手でブロックしてもその上から、布団の中の腹とか。


「な、なんだよ。落ち着いてよ」


らちが明かないので、手を奪い動きを止める。


「どうしたの?」


「言わなかったじゃん」


「何を?」


「幽霊出るって、言わなかったじゃん!」


と、また打とうとするのを静止させた。


「知らんよ」


息の荒い友人に応える。


「教えて。何があったの?」


息を整えるのに少し時間がかかったが、話し出した。



 ふと目が覚めた。

隣を見ると我が寝ていた。

なんで、起きちゃったかな。トイレかな喉が渇いたかな?と考えていたら、玄関の方に目が行った。


 そして見てしまった。

部屋を別けるアコーディオンカーテンは、冷蔵庫の奥行きの分だけ開いている。

その開いたカーテンのかなり上から真横に出ている女の首。

長い髪が印象的に下がっていた。

女はたぶん笑っていた。と。

そして怯えながら、我をゆすっても叩いても起きなかった。


 真横に生えていた女の首は、何度か我を起こそうと目を逸らした時に居なくなっていたそうだ。


「なんで起きてくれなかったの!」


「全然気付かなかった。なんとなくも覚えていない」


「バカ!」


 と言われてもな。

まあ、その日は適当に宥めて友人が帰っていった。



 そんなことがあったと、当時の彼氏に話した。

すると、「そういえば」と話し出した。


 彼は深夜から早朝の仕事で、日中は寝ていた。

我は仕事で出ていて、彼一人で寝ていた。


 すると、寝ている彼氏が居るのに、誰かが部屋に入ってきて(ドアを開ける音は聞いていない)あちこちの引き出しを開けて物色しているのだ。

彼は「泥棒!」と叫び、戦おうとしたが、動けずに金縛りにあっていた。

動けず、目も良く見えない中、性別も判らない誰かは自由に部屋中をうろついた。

我に返り、金縛りも溶けて飛び起きたら、誰も居なく部屋の鍵もかかったままだった。

 

 しかし、我が家は引き出しのある家具はテレビ台とその横の同じ低さの台くらいだ。

だが、何者かは我が家の低い引き出しではなく、高さのあるチェストの引き出しを開けて、また別の家具の引き出しを開けて探し物をしていたそうだ。


 彼氏は、この部屋の別の時代に居たのかしら?


 なにもかもが不明だが、それらが事故物件だったせいなのだろうか。


 

 何か、釈然としないでいる。


そこの部屋は、

窓の外に影の張りついていた部屋で、

友人が「良い鏡だね」と褒めてくれたのが引っ越し数日前に落ちて割れた部屋で

別の友人が一人で部屋に居ると怖いと言って、寒い夜に外で我の帰りを待ち、一緒に部屋に入ったら「お帰りーって、部屋中が言ったー!」と後ろで悲鳴を上げられた部屋である。


しかし、自分自身に何かあったわけでもないので、「事故物件住んでいた」ということを認識したくないでいる。


だって、統一性がないじゃないか。


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― 新着の感想 ―
[一言] 統一性がないですね 女性の件は怖いですが居心地の良さそうなおうちな気もしてなんだか不思議です でもやはり女性の件は怖いです でもでも、隣の男 デリカシー以前にもう少し人との付き合い方を勉強…
[良い点] 「お帰り」 って言われたってことは、住人さん(?) には歓迎されてるんですかね……? 気づかない人には何もない、ってよく聞きますが、そのケースでしょうか。 にしてもこれは怖いです……! …
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