10話 祖母から聞いた話 家が見る夢
豪農の家だったので、古いが大きな家だった。
立派な木材がふんだんに使われていた。
3代住んだと言われているので、100年は経っていたのかも知れない。
樹木で長い時間を、そして家の建材として100年存在しているのなら、家は意志を持ち、夢も見るのかも知れない。
本当に小さな頃だったので、暗くて古い家としか覚えてないが。
祖父母の家は建て替えられている。
藁で葺いていて土間のある古い建物だったのだが、瓦屋根の平屋の大きな家になった。
地鎮祭には、相撲取りが来て四股を踏んでもらったとか、上棟式には政治家も来た。
というのがステイタスらしいが、祖母から聞いたのは別の話しで。
新居が完成するまで、古い家は残されていた。
完成して家財も運び終わり、明日から解体になる夜に、祖母は1人で古い家を掃除をしていたそうだ。
掃除が終わる頃には深夜になっていた。
感慨深げに眺めていたら、囲炉裏の奥にボンヤリと現れたものがある。
目を凝らすと、布団のようだ。
膨らんでいるので人の寝ている布団だ。
音も聞こえ出す。近くなのに遠く感じる音だったそう。
子供の咳をする音。
暗闇の奥から女性が現れ、布団に寝ている子供に屈みこむ。
薬を飲ましているようだ。
その光景が闇に消えた時、また現れる。
女性が座っていて割烹着で顔を覆っている。泣いている。
その姿に見覚えがあった。
若いときの祖母自身だった。
消え、今度は逞しい男が胡坐をかいて、そこに子供が座っている。
親子だろうか。
幾つかの場面が現れては消えた。
それらは、子供の頃の祖父であったり、祖母が会うことのなかったお姑であったり、おそらく祖父の兄だろうと感じた。
家が最後に、楽しい夢でも見ているのだろう。と思ったそうだ。
翌日、家は解体され、数日で均され跡形もなくなった。
映画「ユー・ガット・メール」で主人公のメグ・ライアン演じる女性が、立ち退かなければならない店の中で、楽しかった過去を思い出す。
そんなシーンがあったのだが、思い出したのは祖母の話だった。
映画では女性が過去を振り返っていたのだが、もしかしたら、その店が昔を思い出していたのかも知れない。
そう感じた。
家に帰ってきて「ほっと」するのと同じように、家も人が帰ってきて「ほっと」するのかも知れない。
一人暮らしをするようになって、祖母の話を思い出し、そのような事を考えた。